- 2004年1月
黒川孝雄
フランチャイズ本部に対する評価基準について フランチャイズ時評
昨年7月に経済産業省の諮問機関であるサービス・フランチャイズ研究会から「サービス業フランチャイズの環境整備の在り方について」と題する報告書が発表された。既に、このフランチャイズ時評でも03年8月号でこの概要を報告し、かつ評価を行っている。サービス・フランチャイズ研究会と称するが、内容はフランチャイズ・システム全体に対する提言であり、フランチャイズ・システムを構成する各主体に対して、様々な課題を提起している。(社)日本フランチャイズチェーン協会では「サービス・フランチャイズ研究会」を設置して、提起された様々な課題に対して検討をしていると聞いている。 1. 評価を行う主体の条件についてかってあるコンサルタント会社が本部評価を行い、それがそのまま有名な経済雑誌に掲載され、大きな社会的問題を起こしたことは、いまだに記憶に新しい事例である。(「FRANJA」01年7月号に優れた報告書がある)最終的には、この会社の代表者が詐欺罪の容疑で逮捕されてしまい、何時の間にか話題にも登らなくなったが、この事件はフランチャイズ本部評価を行う各主体の備えるべき要件を明らかにしたと言う意味で、反面教師的意義があり、この事件を手掛かりに「評価を行う主体の条件」についてまず提言してみたい。 (1)フランチャイズ・システムを熟知していること 本部評価を行う主体がフランチャイズ・システムを熟知していることが絶対条件である。フランチャイズ・システムを十分理解していなければ、正しい本部評価が出来るわけがない。特に評価基準を明確にして、誤解を生じないようにする工夫が必要である。 (2)客観的・中立的な立場にあること 本部評価を行う主体は、当然フランチャイズ本部に対して客観的・中立的な立場でなければならない。特定のフランチャイズ本部と利害関係を持つ主体が行った評価は誰も信用しない。 その意味で、フランチャイズ開発代行会社、フランチャイズコンサルタント、フランチャイズ支援ビジネス等いずれかのフランチャイズ本部と利害関係を有する主体は、客観的・中立的な立場とは思えない。 (3)経済的な力 本部評価を行うためには、フランチャイズ本部の聞き取り調査(アンケート調査)はもとより、加盟店からの聞き取り調査も欠かせない。例えば、5%の加盟店の意見を聞いたとしても1本部当り10店舗程度の調査は欠かせないことになる(フランチャイズ・エイジ04年1月号の2002年「フランチャイズ統計」から会員社の平均店舗数が430店程度であり、その半分を加盟店として推算した。)仮に300社の本部を評価するとしても、推定で数千万円の費用が掛かり、 その評定を行う主体の経済力がなければ出来ることではない。 また、その費用を吸収するためにも(例えば加盟店希望者に情報として売却する)、長期の時間が掛かり、相当な経済力を持った機関でなければ、多分成功しないであろう。 2. 評価の具体的事例の紹介様々な困難の中で、フランチャイズ本部評価を試みた事例が幾つかあるので、そのエッセンスを紹介して参考に供したい。 A フランチャイズ本部を評価して格付けとして発表した事例フランチャイズ本部の格付けを発表して、評価基準を明確にしている事例を2例紹介する。 (1)日経ビジネス 03年10月20日号「フランチャイズ実力ランキング」として、総合ランキング上位50社、並びに「消費者が選ぶ総合ベストチェーンランキング」として上位50社を発表している。FC本部の調査方法は、同誌の42Pの下段に記載されているので、それを引用(一部)する。 【1】調査方法 国内でFCを展開する有力企業392社を対象に、日経BPコンサルティングが調査した。8月中旬に調査票を送付。有効回答のあった企業数は131社、133チェーン、回収率は33.4%だった。 ランキングの評価は、「規模」のほか、収益の「成長性」、チェーンの「存続性」を尺度として作成した。 【2】規模 「規模」については、「FC店の末端売上高」を評価した。 【3】成長性 「成長性」については、FC店売上高をFC店舗数で割った直近(2002年6月から2003年5月までに迎えた決算期)のFC1店舗当りの売上高を、1期前の同じ値で割った「FC1店舗当りの売上高伸び率」と、直近のFC店舗数から1期前の同じ値を引いた「FC店舗増加数」、直近の本部総売上高を1期前の同じ値で割った「本部総売上高伸び率」の3つの指標で評価した。 【4】存続性 「存続性」については、2002年度中に閉鎖せずに存続したFC店舗数を前年度末FC店舗数で割った「FC店舗存続率」と、直近の店舗指導員数を直近のFC店舗数で割った「FC1店舗当り店舗指導員数」、さらに、本部のチェーン全体への投資余力を見るために本部の直近営業利益額を、FC・直営の合計店舗数で「1店舗当りの本部営業利益」の3つの指標で評価した。 【5】合計 それぞれの指標ごとに偏差値を算出。「規模」「成長性」「存続性」の各評価項目ごとに偏差値の平均値を求め、それらを合計して総合ランキングを作成した。有効回答の平均値が50、標準偏差値は10となる。3項目すべてが平均値だった企業の合計点は150点になる。 (以下一部略した) 【6】ランキング対象企業 様々な理由でランキング対象から外した企業(例えばFC店舗数の割合が全店舗数の30%未満の企業等)があり、最終的にランキング対象企業は75社、77チェーンとなり、一部の大手企業で対象から外れたところもある。 ●評価 日経BPコンサルティングが行った調査であるだけに、本部調査の方法は納得性が高いし、信頼性も高い。かつ評価の結果もほぼ妥当なものであると思う。しかし、次のような問題点も考えられる。 【1】FC本部の評価に「規模」を導入することには疑問を感ずる。しかも評価の1/3を占める高いウエイトが掛けられており、当然のことながらコンビニが上位6位を独占することになった。アーリーステージ、ミドルステージのFC本部の評価こそ求められているのだから、「規模」を外すか、せいぜい1/10程度のウエイトにしないと、加盟店希望者が求めるFC本部評価にはならないのではないかと思う。 【2】FC本部評価をすべて本部へのアンケートで済ませていることに疑問を感ずる。せめて2~3%の加盟店でも聞き取り調査を導入すれば、かなり変わった結果が出るのではないかと思う。特にFCは本部と加盟店の双方のコラボレーションで顧客満足度が決まるものであり、本部のアンケートのみでは不足する。 (2)有力外食フランチャイズ格付け2001~2002年 リンク総研編ベンチャーリンク系の研究機関であるリンク総研が、外食企業を対象にした格付けであり、そのFCへの加盟を検討している加盟店希望者向けの格付けと、加盟希望者への融資を考えている金融機関関係者に使ってもらうための加盟評価の視点からの評価である。本稿では、前者の加盟店希望者向けの格付けのみを検討の対象にする。一般FC情報(41チェーン)、エマージングFC情報(16チェーン)、推定格付け情報(4チェーン)の合計61チェーンを格付けしている。 格付けのための調査は対象FC本部への調査票の郵送もしくは持参して回答を記入してもらうアンケート方式が基本である。随時FC本部への電話や訪問によるインタビューを実施している。さらに、状況に応じて加盟店へのアンケート調査、店舗取材、金融機関へのヒヤリングも併せ行っている。 加盟評価は4つの分析ポイントから評価している。 【1】店舗収益性評価 直営店の次の10の数値を使用して評価している。 平均FL比率、平均人件費率、平均営業利益率、モデル投資回収年数、平均月坪売上高、平均人時売上高、直営店黒字店舗率、加盟店多店舗展開率、加盟店の契約更新率、平均収益余力(直営トップ店の営業指標と全店平均の業績指標の差である収益余力が大きいほど改善余地が残されており、将来の店舗収益拡大の可能性が高いと考える) 【2】加盟リスク 加盟店が安心して当該事業を行えるかどうかを検証するために、次の14項目について評価した。 契約期間とモデル投資回収年数比、モデル投資回収年数、本部の安定性・収益性・成長性、商圏保全状況、本部からの契約解除、加盟店からの契約解除、違約金・損害賠償、加盟店買取り制度、フランチャイズ総合保険、ロイヤルティー率、直営店中途撤退率、初期投資金額、トラブル実績、将来性 【3】事業難易度評価 収益性に目を奪われ、忘れがちな店舗の運営面について検証するために、次の11項目について評価している。 研修期間、常時雇用スタッフ数、ピーク時運営スタッフ数、取引業者対象数(実際に発注する対象業者数)、1週間の営業時間、非営業時間比率、売上高変動率、 想定来店頻度、月間本部報告書類数、業務代替性、取扱メニュー数、 【4】本部サポート内容 運営面について、業態そのものの難易度と併せて本部のサポートがどの程度なのかについて検討するために、次の18項目について評価している。 出店地確保、資金調達、店舗設計施工管理、会社設立支援、従業員採用、新規開店支援、経理事務代行、随時教育、個別店の販促サポート、不振店対策、週次損益管理、店長フォロー研修、チェーン全体の広告宣伝、SV月間指導時間、SV指導項目、店舗運営マニュアル整備状況、マニュアルの使いやすさ、研修指導項目 以上の評価項目による結果を、あらかじめ設定しておいた評価項目・評価テーブルに当てはめて得点化していくという定量的分析を行っている。評価担当者・調査担当者の主観的な判断によるバラツキを避けるためである。具体的には、評価項目ごとに一定の配点を行い、最高のランキング5から最低のランキング0までの6段階ごとに得点を付与する方法を用いている。 評価対象企業は、評価記号S・A・B・C・Dと大文字によるアルファベット表示している。エマージングFCにはs・a・b・c・dと小文字によるアルファベット表示としている。推定格付けにつては評価記号のアルファベット大文字の前に(推)の印を付けて区別している。各企業別に2ページを用いて、調査担当者コメント、本部PR事項、評価担当者コメントの欄を設けて、公平に意見が述べられるようになっている。 B 自己評価もしくは加盟希望者による評価について 3.(社)日本フランチャイズチェーン協会 経営品質向上プログラム(1)制定の経緯 同協会の編集による「フランチャイズハンドブック」の34Pに、経営品質向上プログラム制定の経緯を述べている。本プログラムは,JFA設立30周年記念事業として、学者・研究者・弁護士・アナリスト・コンサルタント等有識者による諮問委員会が01年7月に設立され、全体会議4回、ワーキングチームの会合6回の検討を経て、02年2月に協会会長に答申され、同年3月の理事会で承認され、同年5月の30周年記念総会で発表されたものである。 その後、1年間を掛けて正会員の有志企業で導入され、さらに内容の充実を図るため一部表現などの手直しを行い、実用可能なプログラムに仕上げた。 (2)「フランチャイズ品質向上活動」への取り組みについて 03年11月の協会の理事会で(「フランチャイズ品質向上」活動の取り組み)についての基本方針を決定して、フランチャイズ品質向上を3ケ年計画により取り組むことになった。 重要なことは、従来この「経営品質向上プログラム」が正会員のみに開示され、フランチャイズ業界一般には公開されていなかったが、今回このプログラムを会員外にも公開して、自己点検・自己評価に取り組む本部を公募して、取り組みが優秀なチェーンを協会として表彰する制度を作った点である。 協会は「フランチャイズはクオリティの時代」を統一スローガンに掲げ、あらゆる機会を利用してフランチャイズへの正しい理解と認識をアピールしていくことを方針としてマスコミに発表した。 (3)経営品質向上プログラムの内容について 今年の3月頃には、協会から詳細な内容が発表されるであろうが、概ね次ぎのような構成になっている。
以上の7大項目の下の60項目について各々5段階による評価を各本部の自己責任で行う仕組みである。
● 評価 4. フランチャイズ研究会 フランチャイズ本部の評価基準策定に関する調査・研究(社)中小企業診断協会東京支部の「フランチャイズ研究会」がこの度、平成15年度マスターセンター補助事業として表記の調査・研究をまとめた。筆者もその一員として加わり、内容を詳しく知る立場にあった。この調査・研究は加盟希望者が本部情報を自分の力で、どのような視点から、どのような評価基準で判断することが可能であるかを検討したものであり、所謂本部格付けではない。しかし、今後本部格付けを行う研究機関などにとって格好の参考資料になるものである。 この調査。研究はこれから印刷に掛けられ、3月に開催される「フランチャイズ・ショー2004」に刊行物として販売される予定である。公表前であるが、杉本会長及び西野委員長の同意をいただき、ここに概要を発表させていただくことになった。FC研究会の皆さんの好意に厚くお礼を申し上げる。 (1)調査・研究の目的 フランチャイズビジネスはその業種・業態は多岐にわたっており、加盟希望者が自分に合った適切なフランチャイズ本部を選定する際の情報として、本部による情報開示を補完する観点からも、本部に対する中立的な評価基準の策定が重要になってきている。このことは、平成15年7月に報告がなされた経済産業省の「サービス・フランチャイズ研究会」において、"民間における多様な主体による本部評価の促進"が具体的な施策として提言されていることからもうかがい知ることができる。 本調査・研究は以上の背景を踏まえて、加盟希望者(個人開業者や事業多角化を目指す中小企業)が本部を選択する際の視点(何を見る)と評価軸(どうやって見る)を提供することを目的に、中小企業診断士という中立的な立場で、本部評価基準の策定を行うものである。(調査・研究より引用) (2)業種別検討 この調査・研究では、フランチャイズ・システムを「飲食」「小売」「サービス」の業種ごとに検討して、3業種別の評価基準を提示している点が大きな特徴であり、総得点数は3業種によって異なる数値となる。 (3)フランチャイズ段階別の検討 本部にはフランチャイズのステージがある。例えば、スタートアップ期、アーリーステージ期、ミドルステージ期等の段階がある。本調査・研究ではアーリーステージ期の本部の項目のウエイトを変化させることにより、フランチャイズ段階別の検討を行っている点も大きな特徴である。 (4)使用する資料 加盟希望者が入手可能な資料を駆使して、本人が本部を評価する仕組みである。その時に使用する資料は次のようなものである。 法定開示書面(ザ・フランチャイズから引用可能な本部は157チェーン)、会社案内書、フランチャイズ募集案内書、「日本のフランチャイズチエーン」、「FRANJA」各号、「フランチャイズショー」等の各種イベント、「ザ・フランチャイズ」、本部のホームページ、加盟説明会への参加、開発担当者との面談、加盟店ヒアリング、責任者との面談、会社四季報、有価証券報告書、本部ヒヤリング、加盟契約書等 (5)評価項目 大項目、中項目、チェック項目(小項目と同じ)の3段階となっている。本部評価基準は小売業、サービス業、飲食業の3区分となっている。以下サービス業の事例で説明する。(小項目の数の差がある)
(6)本部評価基準
● 評価 本文の無断引用は禁止いたします
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