フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

トーマス・S・ディッキー著「フランチャイジングー米国における発展過程」を読む(1

Ⅰ 問題意識

 04年5月号で「日本フランチャイズ前史」として「ミツウロコ」が大正末から昭和初年に掛けて、日本発の「商標ライセンス型フランチャイジング」を開発し、昭和15年(戦前の練炭製造量が最大になった年)に、練炭・豆炭市場186万トンのうち「ミツウロコ」ブランドが4割という圧倒的シェーを占めた事実をもって、日本フランチャイズの勝利と讃えたところ、実に大勢の方から思いがけないご意見をいただいた。
その最後に「トヨタ」が中国で高級車レクサスの販売網をフランチャイズ方式で展開するという日経新聞(5月24日)の記事を引用して、引き続き調査する旨の約束をした。
トヨタ自動車内部の関係者に、中国の販売店網の構築について質問したところ、必ずしも「トヨタ自動車」としては「フランチャイズ方式」という言葉は使用していないが、およそ自動車販売は世界中どこでも「フランチャイズ」ではないのかとの質問を受け、代理店・特約店・流通系列化について簡単な説明をしておいた。
問題は日本でも、中国でも自動車販売はすべてフランチャイズ方式であると考えていること自体であり、改めて「フランチャイズとは何か」「代理店とどう違うのか」「流通系列化とは何であったのか」ということを改めて考え直してみた。
問題の解決はフランチャイズの歴史の中にある。トーマス・S・ディッキー著の「フランチャイジング・米国における発展過程」(河野昭三、小嶋正稔氏翻訳)まほろば書房刊が、最もフランチャイジングの歴史については詳しいので、今回はその内容を紹介しようと考えた。原稿を書くために再読してみたが、なかなか難解な書物であり、かつ新しい問題提起も見受けられるので、何回かに分けて紹介することにしたい。

Ⅱ  序  論

1 フランチャイジングとは

 「1950年代初頭、フランチャイジングは米国経済の中で重要な勢力となり、自動車、ガソリンといった基幹産業の創成期から流通・販売においてよく見出され、また比較的小規模な産業たとえばソフトドリンクやファーストフード等でも十分に確立している。1960年代の終わりまでに財やサービスの販売に可能な限り適用された。今や50万店以上の独立フランチャイズ店が全米に広がり、それらを合計すると米国小売総額の三分の一をゆうに超え、この比率は今後かなり増大していくものと予想されている。」
 この冒頭の一文をもってしても、フランチャイズの範疇には自動車、ガソリンスタンド、ソフトドリンク、ファーストフードが同列で論じられていることが判る。(以下煩雑を省くため、引用文に「  」は付さないこととするので了解願いたい。
 著者によれば、中世におけるフランチャイズは、国が税金の取立てや道路工事等の公的役務を民間人に委託するのと引き換えに、国がその民間個人に与えた特定の諸権利をさした。フランチャイジングの定義の中に一つの流通方法という意味が付されるようになるのは、20世紀に入ってからである。
 今日のフランチャイズ販売は、政府が認可するフランチャイズ特権とは全く関係がない。流通方法としてのフランチャイズは大規模企業を組織化するための一つの契約手法であり、代理店(agents)経由の伝統的な販売方法を起源にして発展したものである。フランチャイジングが今日最も普通の語義として、財もしくはサービスを流通させる一つの方法と記されるようになったのは「オックスフォード英語辞典(OED)」では1959年のことである。「ブラックス法律辞典(BLD)」では、1979年版において初めて言及され、フランチャイジングは代理店利用の流通方法から発展したとされ、流通用語としての使用の歴史は浅い。

2 フランチャイジングの定義

 現代におけるフランチャイジングとは、大企業と小企業とが結合して単一の管理単位を形成する方法と考えるのが最も適切であろうとしている。フランチャイズ・システムにおいては、しばしば親会社と呼ばれる大企業が、多くの小企業に対して製品の供給権、もしくは商標やビジネスプロセスの使用権を認可もしくは販売する。大企業と小企業との間の境界、および大企業が小企業を統制する究極的な基礎は契約によって決定される。
 ご覧の通り、著者はフランチャイジングを大企業(ザー)と小企業(ジー)とが結合して単一の管理単位を形成する方法として論じている。メガフランチャイジーの事例を出すまでも無く、日本の現状はフランチャイズ本部よりも、売上高の大きい加盟店が多数存在して、大企業、小企業の規模の区別は意味が無くなり、むしろ機能の差異であり、フランチャイザーは製品の供給や、商標、ビジネスプロセスの使用権を許可し、加盟店はそれらの権利に代金を支払って使用許諾を受ける経営体である。
 続いて著者はフランチャイズによる組織化には二つの形態があるとして、最初に登場したのが「プロダクト・フランチャイジング」であり、小売総額の観点からは最も重要な形態であるとしている。ちなみに筆者はいままで「商標ライセンス型フランチャイズ」と呼んできたが「プロダクト・フランチャイジング」の方が判りやすいので、今後「プロダクト・フランチャイジング」の用語を使用することとする。著者は,今日、プロダクト・フランチャイジングの最もありふれた例は、自動車販売における特約店方式(the automobile dealership)であるとしている。
 次に登場したのは「ビジネスフォーマット・フランチャイジング」である。これは小売店を支援する各種サービスの包括的パッケージだけではなく、小売店の店舗それ自体を製品化するもので、20世紀初頭に出現した。ハンバーガーよりもハンバーガー・スタンド自体を販売した方がより大きな儲けを獲得できることを、1950年代末までに鋭敏な企業家たちが気付いたのである。この原理が適用できた時、フランチャイズ産業が誕生したのである。
 ここで、すこしアメリカのフランチャイジングと日本のフランチャイジングの差について考えてみたい。鈴木敏文氏の「商売の創造」によれば、CVSでは加盟店が店舗や内装を負担する、いわゆるA型はアメリカでは殆ど無く、事前に本部が店舗や駐車場を用意して、そこへ加盟店(というよりは店長と呼んだ方が的確であろう)を当てはめる、いわゆるC型が殆どを占めており、アメリカでは本部に都合の良いフランチャイズ・システムが出来上がったそうである。それに対して、セブン・イレブン・ジャパンでは酒販店をCVSに切り替える世界でも例の無い開発を行い、加盟店の利益優先の販売方式をとるようになったと説明されている。実は、筆者はかねて、セブン・イレブン・ジャパンの加盟店開発は酒販店を対象としたコンバージョン型フランチャイジング(一括転換型フランチャイジング)では無いかと考え、フランチャイズ協会の行うSV学校の「フランチャイズ総論」では、「筆者の個人的見解ではセブン・イレブン・ジャパンはコンバージョン型フランチャイジングであると理解しているが、多分当事者(鈴木敏文会長)からはお叱りを受けるであろう」として、センチュリー21をコンバージョン型の代表例として、正式には説明することにしていたが、今年からは、「セブン・イレブン・ジャパンもコンバージョン型フランチャイジングであり、創業者が著作の中で認めている」と説明するようにした。
 またジョン・F・ラブ氏の「マクドナルド・わが豊饒の人材」によれば、アメリカのマクドナルドの店舗不動産も殆どマクドナルド社の所有であり、加盟店は物件を本部から借りて、マクドナルド店を経営するそうである。同書によれば、創業者の1人、ハリー・ソンネボーン氏(財務・経理担当)は「マクドナルド社はアメリカでも最大の不動産所有社である」と述べている。
 ここまで議論を進めると、「小売店の店舗それ自体を製品化する」と書かれた原著の意味がかなりはっきりしてくる。
 プロダクト・フランチャイジングは現代企業を組織化するのに優れた方法であるが、それは市場を全国規模に拡大させ大量生産を可能ならしめた技術革新から生まれ育ったのである。
 プロダクト・フランチャイザーは、流通に必要な調整は生産と比べればさほど面倒ではないところから、独立した代理店を準独立の特約店へ転換させたのであり、これによって大衆市場の機会と需要への対応が可能と考えたのである。
 ビジネスフォーマット・フランチャイジングは、プロダクト・フランチャイジングから発達したものであるが、法的にも機能的にも両者はまったく独立・別個のものである。ビジネスフォーマット・フランチャイザーが事業の所有機会を販売するのに対し、プロダクト・フランチィザーは小売店舗を利用して製品を販売する。企業がどのようなフランチャイズ形態を用いるかを決定する最重要な要因は、小売店舗を通して販売される製品の利益率であろう。複雑な製品の製造業者は、製品を通常の流通チャネルで取り扱うことが容易でないために、プロダクト・フランチャイジングを採用したと断言している。
 フランチャイズ・パッケージが精巧であればそれだけフランチャイズを製品として捉えることが論理的であり、同時に低い粗利益率と少額の設備投資は、ビジネス・フォーマットフランチャイザーに対し小売店舗をまさしく製品それ自体への転換させる誘引となった。
 しかし、ビジネスフォーマット・フランチャイザーはただ単に小売店舗を販売するだけではない。成功するためには、フランチャイザーは幅広い支援サービスを大量に生産し、そして比較的低コストでそれらを販売しなければならない。フランチャイズ産業の企業(ザー)は、自身の大規模化志向をやめて小規模企業(ジー)を創出するビジネスへ転じたのである。ビジネスフォーマット・フランチャイザーは、フランチャイズ化された小売店舗と関連サービスに関し大量生産原理を適用したのである。

3  本書の目的

 本書はフランチャイズ・システムの起源を辿るという主目的に加え、大規模な事業部製企業の組織形態にあたり、伝統的なビジネス慣行がいかなる影響を与えたかを調べ、また現代経済における大企業と小企業との間の重要な交差部面を探るところにある。
 本研究の最終目標について言えば、現代経済における小企業の地位が経営史において長い間未開拓の分野であると認識されてきた点にある。(フランチャイザーは大企業、フランチャイジーは小企業という位置づけは基本的に本書を貫く思想であり、大企業のフランチィザーしか扱っていない)
 大企業と小企業との関係は、かなり複雑である。小企業もまた現代経済に適応しているのであり、この適応の主な部面は、大企業との競争を避けるだけではなく、大企業といかに協働するのかを学んだところにある。
 大企業と小企業が区別され、全く異なった別個の領域で活動するという二元的経済を強調するのではなく、代わりに大企業の生産した製品を小企業が販売するという自動車生産や石油産業の場合のように、大企業と小企業が絶えず相互作用を行うものとして、現代経済を考える方がより適切であるように思われる。大企業と小企業を一つの管理単位の中に結合させるフランチャイジングは、現代経済において大企業と小企業とが相互連結状態にあることを示す好例のように思われる。
 (筆者が本書を読んだのはあくまでも、フランチャイジングの米国における発展過程に興味があるからであり、大企業、小企業の経営史に興味があるからではないことをお断りしておく。)

4  本書の概要

 本書は五つの事例研究から構成されている。
 第1章ではマコーミック社とシンガー社の事例に基づき、代理店システムからプロダクト・フランチャイジングへの発展をたどる。
 第2章は、1903年から1950年代にかけて自動車産業におけるフランチャイジングの発展を研究するためにフォード自動車の歴史を取り上げている。
 第3章の主題であるビジネスフォーマット・フランチャイジングは、1920年代に石油生産で初めて登場した。サン石油会社は、1920年代にフランチャイズ化されたサービス・ステーションの利用を始めた。サービス・ステーションをビジネスフォーマットに分類するのは初めての体験であり、どのような内容になるかご期待を請う。
 第4章ではフランチャイズ産業の発展が探求される。二つの節から構成される。第1節ではフランチャイズ産業を可能にした経済状況を検討する。
 第2節では、フランチャイズ産業における典型的な企業の制度的発展の足跡を辿るために、ドミノピザ社を事例として取り上げる。
 この「フランチャイジング・米国における発展過程」は多分これから4回程度に分けて、フランチャイズ時評に取り上げることになるであろう。もし、途中で何か問題が発生した場合は、その問題を取り上げる可能性が高いため、掲載は長期に亘る恐れがあることを最初にお断りいたします。

 なお、本書の翻訳者は次の2名の先生であり、他日詳細な紹介をする機会を作りたいと思います。
  河野 昭三   東北大学大学院経済学研究科教授
  小嶋 正稔   東洋大学経営学部教授 


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