フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

フランチャイズ・ビジネスの環境整備(平成16年度SV学校最終講義) 

 フランチャイズ・ビジネス全体の売上高が3~4%程度に止まり、かっての10~8%増の急成長の時代(90年代)とは趣きを異にしている。識者の中には「フランチャイズの危機」を危惧する声もある。
 最近、「フランチャイジングー米国における発展過程」という訳本を読む機会に恵まれたが、著者のアメリカのフランチャイジングに対する揺るぎない自信を読み取る中で、果たして現在の日本のフランチャイズに対して、十分な自信が持てるかと自問してみた場合、残念ながらイエスと答えられないのが実態である。
 それは、フランチャイズという仕組みに対する不安ではなく、フランチャイズを取り巻く環境の整備に不安がある点が大きい。今回はフランチャイズ・ビジネスの環境整備について考えてみたい。フランチャイズビジネスの環境整備を急ごう。
 フランチャイズ・ビジネスを取り巻く環境を、大きく次の3つの分野に分けて論じてみたい。
 一つは、フランチャイズ本部自体の問題であり、具体的には本部ノウハウ、スーパーバイジング、情報公開などである。二つ目は、フランチャイズの起業に必要な金融、リース、法律、加盟希望者の相談窓口等である。三つ目は、フランチャイズを支援するビジネスである。具体的には弁護士、コンサルタント、雑誌、WEB、加盟店開発代行業者、建設業者、店舗什器等である。
 これらの各々について①十分なものかどうか、②歴史的にどのように整備されてきたか、③これからどんな課題に取り組まねばならないか、といった観点からまとめてみる。

1. フランチャイズ本部自体の問題

(1)本部のノウハウ

 フランチャイズの核心をなす部分はノウハウと商標であり、なかんずくノウハウはフランチャイズの中核の技術である。当然、直営で十分実証された成功ノウハウを持ってフランチャイズ化を行うのが常識であり、またフランチャイズ協会の倫理綱領でも、この点は厳しく戒めている。筆者はフランチャイズ本部の相談を受ける時に、一番力点を置くのが、このノウハウの有無、オリジナリティである。
 一般的には直営店によるノウハウの確立が、フランチャイズ化の前提であることは言うまでもないし、多数のフランチャイズ本部はそれなりのノウハウを確立している。しかし、中にはノウハウの確立がなかったり、ノウハウ自体にオリジナリティの無い“ものまね”が多かったりする。
 フランチャイズのノウハウの確立のために最低、直営店3店舗、各2年以上の経験によって成功の証明されたもののみが、本部のノウハウの名称に値するものであり、これをスリー・ツー・イヤーズ・ルールと呼び、世界的に確立された最低限の原則である。(フランジャ11月号で詳細に報告)
 この観点からフランチャイズ本部のノウハウを見ると、不十分乃至はノウハウにオリジナリティ無しと評価せざるを得ない本部の数は多分過半に達するであろう。ノウハウを文書やCD-ROMに落とし込んだマニュアルの整備も遅れている本部がある。 
 いずれも、環境と言うよりは本部の質ないしは誠意に関するものであり、ノウハウに疑問のある本部には加盟しない等の方法で自然淘汰を待つことになる。

(2)スーパーバイジング

 フランチャイズ・パッケージとは、本部の持つノウハウ、商標と継続的指導力(スーパーバイジング)の3者が有機的に機能して加盟店に提供されるシステムであり、このシステムがしっかりしていれば普通の能力の持ち主でも成功するものであると言われている。
 スーパーバイジングを担当する人材を、通常スーパーバイザー(以下SVと略す)と呼ばれる。日本フランチャイズ協会では、このSVこそが本部と加盟店の架け橋であり、フランチャイズシステムのカギとして30年前から「SV学校」を開校して、多数の卒業生を排出しており、中には経営中枢に登りつめた人材もいる。また95年度より、SV士という資格を設け、筆記試験、面接試験に合格した者に資格を授与しており、有資格者は400名を超えている。
 しかし、日本におけるSVの評価は一般的に高いものでは無い。むしろ、「SVは満足に指導していかない」という加盟店の声を聞くことが多い。
 SVの基本的機能は、加盟店の売上高の確保と利益の確保に尽きる。しかし、デフレ状況が続く中で、一般的に既存店の売上高は前年を下回り、これをすべてSVの指導不足に求めることは、厳しすぎる意見である。むしろ、SVの社内的位置づけや、処遇に問題があるのでは無いだろうか。本部はSVの処遇や将来の道が見えるように改善すれば、SVは思い切った能力を発揮するものと思う。
 従って、スーパーバイジング一般論として優れているかどうかではなく、むしろSV育成の環境はフランチャイズ協会を中心に30年かけて整備されてきたので、これをどのように活かし、活性化していくかは、各フランチャイズ本部の姿勢による。

(3)情報開示

 日本フランチャイズチェーン協会が設立されたのが1972年であり、翌73年には、フランチャイズの情報開示を求める中小小売商業振興法が制定されている。アメリカのカリホルニア州で「フランチャイズ投資法」が成立したのが1970年であることを考えても、日本のフランチャイズに関する情報開示の法規制は世界で最も早い時期であった。しかし、開示の内容は極めて貧弱であり、わずか5項目に過ぎなかった。その後95年に若干補強されたが、基本的に日本のフランチャイズの情報開示は著しく遅れた。
 2002年4月に、中小小売商業振興法施行令で定める開示事項は増加して22項目(中小企業庁「フランチャイズ契約はよく理解して」から引用)に及び、一気に世界レベルまで引き上げられた。同じく02年4月には公正取引委員会によって「フランチャイズシステムに関する独占禁止法上の考え方」が公表され、(ガイドラインと呼ぶ)独占禁止法上の問題点も明らかになった。
 この改訂を受けて、日本フランチャイズチェーン協会は従来の自主開示基準を改定して「フランチャイズ契約の要点と概説」を新しくし、開示書面を協会と経済産業省に自主的に届け出ることにした。
 このように、我が国の情報開示は着々と整備されているが、問題は多い。それは次のような点である。
①情報開示は小売業と飲食業には要求されているが、サービス業には適用されない点である。但し、サービス業も公取委のガイドラインの適用は受けるので、全く野放しではない。
②問題はむしろ、小振法の開示条項や公取委のガイドラインを守らないフランチャイズ本部が極めて多いことである。極論するならば、日本フランチャイズチェーン協会の会員社(正会員、準会員、研究会員)200余社のみが開示しているのみで、その他の80%以上のフランチャイズ本部は殆ど開示していないか、旧開示基準で開示して済ませていることである。小振法に罰則規定がない(主務大臣は開示を勧告することが出来る。勧告に従わない場合は社名を公表することがある)ことや、開示事項のPRが不足していることも問題であるが、むしろフランチャイズに関する雑誌・新聞の不足や,弁護士、コンサルタントの層の薄さが真の問題かも知れない。
 情報開示の無いことが、フランチャイズビジネスの発展を阻害している点は事実であり、関係者の一層の努力が要求される。 

2. フランチャイズの起業に関わる問題点

(1)金融

 フランチャイズによる起業に対して、概して金融機関は冷たい。特に都市銀行は脱サラのフランチャイジー予備軍に対しては、無担保・無保証ではまず絶対と言って良いくらい資金は貸さない。過去のサラリーマン時代にどのように預金をして、給与の銀行振込をしていても、取引実績としては認めない。
 国民金融公庫も原則として、同業種に6年以上の勤務経験がないと貸さない。ただし、新創業融資制度など、制度融資がある場合には、借入れの可能性もあり、十分な時間的余裕を持って事前に折衝しておく必要がある。また、地方自治体によっては、独立支援制度を設け、条件が揃えば無担保・無保証で融資を受けられる道もある。
 むしろ、地域に根を張った信用金庫、地方銀行にサラリーマン時代に長く預金をしたり、給与振込銀行にしておけば、金融事故がなければ少額の資金を無担保・無保証で貸し出すことは間々ある。
 起業のみではなく、フランチャイズ店を数店舗展開すれば、いずれ担保、保証人の枠も無くなる。その時も都市銀行は殆ど頼りにならない。やはり信用金庫、地方銀行が頼り甲斐がある。
 フランチャイズの起業、多店舗化で頼れるのは信用金庫、地方銀行であり、地方自治体の制度融資である。
 制度融資が付かない場合は、全額自己資金が用意できるまでは、独立してはいけない。日本の実態はこの程度に理解しておいた方が無難である。
 この点アメリカは、起業に対しては大らかである。古い話になるが第二次大戦や朝鮮戦争からの帰還する兵隊に対して、国は積極的に融資して、1950年代に花開いた外食フランチャイズの加盟店化を積極的に薦めたそうである。また、1990年代のアメリカでジョブレス・リカバリー(雇用を増加させない経済復興)が叫ばれた時、雇用の道を開いたのはスモールビジネス(フランチャイジー)であり、制度融資を国が講じたと伝えられている。
 金融機関としては、確実に返済が担保されない事業には融資が出来ない仕組みになっているが、この当りが日本の起業の支障のカギであり、何らかの制度を作らないと、日本は大きく変化することは不可能である。新銀行東京に期待するところが大きい。

(2)リース

 金融とほぼ同じことになるが、リースの方がはるかに緩やかである。過去に金融上のトラブル(破産、融資の未返済、リースの未返還等)がなければ、ある程度のリース(1千万円以内程度)には応じてくれる。やや金利が高いのが難点であり(多分年利7~8%程度になる)、原則として保証人も必要であるが、銀行ほどシビアーではない。リースがフランチャイズ展開の難点になることは少ない。

(3)法律

 世界中、先進国でフランチャイズを規制するのは事前の情報開示のみであり、契約内容に立ち至って規制する先進国はない。日本では一部に契約内容に対する規制を主張する人がいるが、世論を動かす力はない。むしろ、現在有効な事前情報開示の法律やガイドラインをどのようにフランチャイズ本部に守らせるかが重要である。

(4)加盟希望者の相談窓口 

 日本フランチャイズチェーン協会が毎週水曜日に、事前予約制によって加盟希望者の相談窓口を開催している。問題は、そのPRが十分出来ていないことと(協会にPRの予算がない)、相談内容が充実していないことである。「協会に相談したが、十分な相談ではなかった」と言う声を聞くことが多い。相談窓口になる人の知識・経験のレベルアップが必要である。
 また、同じく協会では第4土曜日の午後に、参加料2千円で「やさしいフランチャイズ教室」を開催している。これは(社)中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会(杉本収会長)の協力によるものである。講演後、中小企業診断士による個別相談も行っているので、加盟希望者は必ず、この教室で講義を聞いて相談に乗ってもらいたい。利潤を度外視した相談窓口であり、必ずや満足いただける内容であると考えている。
 加盟店希望者からのクレームを聞いていると、加盟する前に事前相談を受ける機関があれば、いろんな問題はかなり有効に阻止できたと思われる事例が多い。例えば、全国的に組織された商工会議所、商工会等の指導員のフランチャイズ勉強会を開催するなど、国のわずかな予算で実行可能であり、是非実現を図ってもらいたい。

3. フランチャイズ支援ビジネス

(1)弁護士、会計士、コンサルタント

 フランチャイズを専門とする弁護士、会計士、コンサルタントの数は少ない。特に弁護士は、東京地区以外は極めて手薄であり、加盟店サイドで裁判を申し立てる弁護士はフランチャイズを殆ど理解しないまま、別の裁判事例の「申立書」を丸写ししたのではないかと疑わせるような粗末な事例がある。
 会計士も株式公開にからむ専門家(監査法人内部)はいるが、それ以外の会計士は絶無に近い状態である。
 コンサルタントもフランチャイズ専門は、極めて少ない。特に、大型のコンサルタント・ファームにフランチャイズの専門家が少ない。本部設立会社も加盟店希望者も、満足できるコンサルタントに出会える可能性は少ないのが実態である。
 遅まきながらも、専門家の育成を図らねばならない。フランチャイズ協会の内部で「フランチャイズ経営士(仮称)」を資格化し、育成する動きがあるが、是非、企業内に止まらず、広くフランチャイズ業界全体に有能な人材を輩出して、日本のフランチャイズ全体の底上げを図っていただきたい。

(2)雑誌、WEB

 フランチャイズ専門雑誌も極めて少ない。あえて挙げれば、「フランジャ」「月刊コンビニ」「アントレ」程度である。名門の商業界がフランチャイズの記事を全く載せないのは何故であろうか。商業界の読者層にフランチャイジー、フランチャイジー希望者が多いことは、商業界の2月ゼミの受講者からも想像できるのではなかろうか。
年鑑の「日本のフランチャイズチェーン」も貴重な雑誌である。専門誌が少ないのも、日本のフランチャイズの発展を阻害している一因である。この活字離れの時代に、新しいフランチャイズ専門雑誌を刊行することは困難であろうが、既存の商業誌、流通誌が一部の記事として取り上げることは不可能ではなかろう。開示事項の徹底や、専門家の育成もマスコミに負うところが大きい。
 反面、WEBは多い。日本フランチャイズチェーン協会のHPを見れば、関係官庁や関係者のHPに多数リンクされておる。またザ・フランチャイズを開けば、150社程度であるが情報開示を行っている。HPの有料化、課金制度などの工夫ができれば、必ずしも雑誌媒体にこだわる必要はないかもしれない。

(3)加盟店開発代行会社

 加盟店開発代行を行う会社は多い。しかし、開発機能は会社の中に残し、せいぜい集客に利用する程度が、代行会社の正しい利用の仕方であろう。加盟店開発代行会社に事業説明会の開催を依頼して、1回につき200万円を支払うという事例を聞いたことがある。加盟店開発代行会社の全盛が今日のフランチャイズの危機を招いたとする識者の意見もある。加盟店開発を代行する会社が多数あること自体、フランチャイズの健全な発達を阻害する行為ではなかろうか。

(4)建設会社、店舗什器等

 加盟店の数が22万店に及び、その建設、什器、メンテナンスは極めて大きなビジネスチャンスであり、関連会社は多数あり、本部なり加盟店の選択肢は多い。
 もっと安く、早く、堅牢な建設を目指すセブン・イレブンの動きはフランチャイズ企業の参考になる筈であり、そのような観点から業者を選定する時期であろう。

(お断り)
本稿は、日本フランチャイズチェーン協会の行う平成16年度SV学校の最終講義として講演したものである。
日本のフランチャイズ・ビジネスの成長が止まっており、これが再度成長路線に乗れるかどうかの瀬戸際である。
関係各部門の問題点を示して、解決を訴えるものである 。


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