フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

「フランチャイズ・ビジネスの実際」を読む 

 日経文庫の一冊として、この度内川昭比古氏の「フランチャイズ・ビジネスの実際」が発行された。
 この文庫には、かって田島義博先生が監修された「フランチャイズ・チェーンの知識」という名著があった。今回の「フランチャイズ・ビジネスの実際」は題名の示す通り、理論書ではなく、正に実務書であり、あえて性格付ければ「加盟店希望者が一番最初に、必ず読まなければならない読本」と言えるであろう。
 従って、経営論とか理論書として期待してはいけない。あくまでも加盟店希望者向けに書かれた入門書である。
 全体が4部に分かれているので、その順序に従って解説し、最後に意見を述べることにする。

Ⅰ フランチャイズ・ビジネスとは

 通常、日本のフランチャイズの歴史は1963(昭和38)年のダスキンの「愛の店」と、洋菓子の不二家から説かれるものであるが、本書はわが国において「フランチャイズ」という言葉が使われたのは1956(昭和31)年に設立された日本コカコーラボトリングに始まるとしている。これは卓見であり、筆者もこの説を取る一人である。
 フランチャイズ発祥の土地、アメリカでは、19世紀末に自動車、ガソリンスタンド、ソフトドリンク等が自社商品を販売するシステムとしてフランチャイズシステムを採用した歴史がある。これを「製品・商標型フランチャイズ」と称して、日本フランチャイズ協会が発足した1972(昭和37)年には、フランチャイズの範疇に入れず、「ビジネスフォーマット型フランチャイズ」(商品の流通や販売権を提供するシステムを進化させて、独自のフランチャイズ・パッケージ化を確立した経営方式提供型のフランチャイズ)のみを、日本型フランチャイジングの開始としてみている。
 しかし、既に15年前に日本に上陸して「フランチャイズと言えばコカコーラ」が少なくとも、流通業界では常識化していた時に、あえて「製品・商標型フランチャイズ」を完全に無視して、フランチャイズを定義した当時の日本フランチャイズチェーン協会の姿勢には疑問を感ずる。
 事実、昭和46(1971)年にフランチャイズ1号店を開店したケンタッキーフライドチキンの大河原氏は、「フランチャイズと言えば、コカコーラである。日本コカコーラにフランチャイズを教えてもらった」と後日語られている。
KFCのフランチャイジー選択の姿勢を見ると、確かに、各地方の有力者をフランチャイジー化して、今でも精々60社程度のフランチャイジーに1000店近い店舗を加盟店として組織化された点を見ても、日本コカコーラ社の日本のフランチャイズの発展に寄与したことが伺える。
 1960年代の日本型フランチャイズの発祥の次に、1969(昭和43)年の第二次資本自由化が行われ、外食の分野では100%自由化され、70年の大阪万博の大盛況と歩を一にして、1970年代の初頭には米国企業を中心に一斉にわが国の企業との提携を始め、「ミスタードーナッ」「マクドナルド」「ケンタッキーフライドチキン」「ダンキン・ドーナッツ」等が続々登場し、フランチャイズはまず外食産業(中でもファーストフードを中心に)で華開いた。
 やや遅れてコンビニエンスストアが、次々とチェーン展開を開始して、1973年に「ファミリーマート」「ローソン」が展開を開始した。イトーヨーカ堂は別会社ヨークセブンを設立して、1974(昭和49)に東京・江東区豊洲に1号店を開店した。
 日本のフランチャイズの歴史を簡単に振り返ってから、フタンチャイズ・ビジネスの定義に移っている。作者は「フランチャイズ・ビジネスとは何であるかということはもちろんであるが、フランチャイズ・ビジネスという言葉そのものすらほとんど知られていないのが現状です」と述べて、フランチャイズに関する様々な用語を解説している。
 具体的には「フランチャイズ・ビジネス」「フランチャイズ・システム」「フランチャイザー」「フランチャイジー」等で、フランチャイズ協会の定義を引用して説明している。
 次に「チェーン・システム」とは何かを簡単に定義して、チェーンには「直営店チェーン」「フランチャイズ・チェーン」「ボランタリー・チェーン」があり、類似しているものとして「代理店」「特約店」を挙げて、夫々の定義や特徴を述べている。
 更に、「フランチャイズ・パッケージとは」という項目を設けて、フランチャイズ・パッケージを判りやすく定義している。常識的ではあるが、フランチャイズ・パッケージは、次の3つの要素が有機的に組み合わされた形成されているとしている。

1. フランチャイザーの商標、チェーン名などそのフランチャイザーの事業であることを示す標章を使用する権利
2. フランチャイザーが開発した生産、加工、販売その他経営上の技術(ノウハウ)を利用する権利
3. フランチャイザーのイメージを維持し、高めるためにフランチャイザーが行う指導・援助を受ける権利

 判りきった定義であるが、最近一部のフランチャイザーの経営者から、最後の継続的経営指導について、「フランチャイズの定義に明確に定められていない」として、継続的経営指導をフランチャイズの本質ではないかのような発言が気になった。
 例えば、FRANJA29号(2005年9月号)で、レックス・ホールディングス社長の西山知義氏が編集長インタビューの中で、次のように話している。「FCの定義が日本ではあいまいだと僕は感じています。ただレインズがライセンス販売に切り替えた理由は、SV活動は加盟店さんからの要請による“後付け”の方がいいと判断したからです。最初から継続的な指導がパッケージとして付いているために、加盟店さんが“本部が何でもしてくれるんじゃないの?”という考えに陥るのが嫌なのです」
 日本フランチャイズチェーン協会の“フランチャイズ”の定義には「フランチャイザーの指導及び援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいう」とされており、本部の継続的経営指導は明確に述べられている。更に、中小小売商業振興法第4条4項の5では「連鎖化事業(フランチャイズチェーンとボランタリーチェーンを含む)は、・・・中略・・経営に関する指導を行う事業をいう」と明確に定められており、経営指導員による継続的指導はフランチャイズ事業の必須事項であると考えている。
 このような実情の中で、本書のような定番的図書が発刊されたことは喜ばしいことである。

Ⅱ フランチャイズ加盟のためのポイント

 フランチャイズ加盟に関する入門書は、数え上げればきりがないほど多数販売されている。その中であえて、本書を挙げるのは、極めてオーソドックスな意見が多く、異論が少ない図書であるからであり、かつ日経文庫と言う全国どこでも入手でき、かつ廉価であるからである。
 まず「フランチャイズ加盟の心構え」として、(1)本部と加盟店は別個の経営体(2)加盟するための心構え等を解説して、最後に成功するオーナーの条件として「その成功の秘密は、加盟店の努力が最大の条件であり、本部の示してくれたシステムを忠実に実行することと、お客様の立場に立って真剣にビジネスに取り組む意思があること」としている。当然といえば当然であるが、本部の指導に忠実に従う謙虚な姿勢が加盟後2年間程度は絶対必要である。
 次に「加盟する本部を探す」の項目では、フランチャイズ・ビジネスの業種・業態分類を100種類以上挙げており、その中からの選択方法として、ザ・フランチャイズ(フランチャイザーのデータベース)の調査、日本フランチャイズチェーン協会の活用、毎週水曜日の午前10時から午後5時までの事前予約による無料相談を挙げている。商業界出版の「日本のフランチャイズチェーン」も紹介されているが、わが国唯一のフランチャイズ年鑑であり、やや高いが700チェーン以上の詳細を報告する年鑑で、かつ30年以上も継続して発刊されているものであり、是非加盟店希望者には購読してもらいたい書籍である。
フランチャイズフェアーとして、日本経済新聞社の「フランチャイズ・ショー&ビジネス・エキスポ」と、リクルート社の「フランチャイズ&独立開業フェア」を挙げている。最近では、トーチ出版社の「フランジャ・エキジビジョン」の評価も高いので、付け加える。特に、このエキジビジョンと同時に開催される各種講演会は一流の講師陣であり、かつ無料である。この講演会を聞くだけでも参加する意義がある。
 また記事には出ていないが、日本フランチャイズチェーン協会と中小企業診断協会東京支部の「フランチャイズ研究会」(西野公晴会長)が協力して、奇数月の第3土曜日の午後に「やさしいフランチャイズ教室」を開催している。会費は2千円であるが、内容は一流であり、今後フランチャイズ加盟を検討する方には必ず受講をお勧めする。関西や東北から聴講者が集まる教室であり、セミナー後、中小企業診断士が無料で相談に乗ってくれる。
「本部選定のポイント」では、経営理念・ビジョンが確立しているか等7項目を挙げて注意を促している。いずれも妥当な意見である。
「本部の絞り込み」の項ではフランチャイズチェーンを見学する等5項目を挙げているが、筆者はこれと思った本部に当ったら、必ず加盟店(本部推奨3店舗、加盟店からの聞き込み7店舗、合計10店舗)の聞き取り調査を徹底的に行うことをお勧めする。時間は掛かるが、自分の今後の人生を預けるビジネスであり、時間を掛けて十分納得いくまで、調査をした方が良い。仮にうまく行かなくても、「あそこまで調査をしたのだから」と諦めもつく。もう一つは「事業説明会」への参加をお勧めする。短時間(通常2~3時間)の間に、フランチャイズ・システムの説明、既存加盟店の経験報告、当該社のフランチャイズ加盟条件、事業計画等を説明してくれる。少なくともその本部の持つ社風や意気込みを感ずることが出来るはずである。
「加盟のステップ」では20項目に渉り説明しているが、中でも法定開示書面の検討は重要である。法律(中小小売商業振興法及び公取委のフランチャイズガイドライン)で作成を義務付けられている開示事項を開示しないフランチャイズ本部には絶対加盟してはいけない。また立地調査と経営計画は本部の立場から作られた報告書であり、加盟店希望者が自分の頭で、再度作り直すだけの丁寧さが必要である。出来れば、その書面を日本フランチャイズチェーン協会の無料相談や、「やさしいフランチャイズ教室」に持ち込んで調査依頼すれば、喜んで加盟店希望者と一緒になって親身に相談に乗るはずである。
「フランチャイズ契約とは」の項目では、法定開示書面とフランチャイズ契約書の概要が書かれている。フランチャイズ契約書には問題の多い契約書も多数ある。是非、弁護士会で無料相談をしてもらいたいと思う。事前に相談があれば、泣かなくても済む場面が実に多い。一般の方がフランチャイズ契約書を読んでも、多分満足に理解できないであろう。さりとて、弁護士に相談する場合、どの程度の費用が必要か、筆者にも分からない。是非、弁護士会の活動を期待したい。

Ⅲ フランチャイズ本部の構築

 まさか、この程度の本を読んでフランチャイズ本部を構築しようと思う人はいないと思うが、フランチャイズ本部を志向する人向けの一番簡単なガイダンスと位置づける図書である。フランチャイズ本部構築のステップとして7項目を挙げているが、いずれも重要なことである。くれぐれも、この程度の本を読んで、フランチャイズ本部が始められると思わないで欲しい。

Ⅳ 有望なフランチャイズ・ビジネスを探る

 この項目は面白く読める。今後の人口構成から「これからは50歳以上のシニア層が消費リーダーになると予測することができ、量よりも質を重視したマーケティングの強化が、フランチャイズ・ビジネスでも強く求められる」としている。小売業では「小商圏、高商圏占拠率型」が有望としている。外食業でも日常的利用が見込める業態が必要と述べている。サービス業では「家事支援サービス」「医療福祉サービス」「余暇関連サービス」が有望サービスであると指摘している。また企業経営をサポートするサービス業フランチャイズも今後有望としている。
 最後に、増えるメガフランチャイジーとして、メガフランチャイジーが今後増加することを予言している。しかし、メガフランチャイジーの定義をしていないため、どの規模のフランチャイジーが有力なのか分からない。中小企業診断協会東京支部の「フランチャイズ研究会」(西野公晴会長)が昨年「メガフランチャイジーに関する調査・研究」(非売品)を発刊したが、その中で「メガフランチャイジーとは加盟店部門の売上高20億円以上、もしくは加盟店店舗数30店以上のフランチャイジー」と定義した。この定義に従うと、メガフランチャイジーは精々100社程度であり、到底日本のフランチャイズ全体を盛り上げる勢力には成りえないと思う。むしろ法人加盟店(複数出店社)は、日本中で1万8千社におよび、1社当たりの店舗数は6.5店舗になる。(弊社ホームページの「日本のフランチャイジー像を考える」を参照)この法人フランチャイジーこそが、日本のフランチャイズの明日を握る存在であると考えている。

Ⅴ 書評と意見

 これからフランチャイズ・ビジネスに参加を検討している多数の個人や法人には絶対お勧めできる文献である。その理由は次の通りである。

(1) 日経文庫に採用されたため、日本中どこの本屋さんでも入手できる。
(2) 安価である。
(3) 内容が適正・妥当であり、日本フランチャイズチェーン協会が30年以上に亘ってフランチャイズ・ビジネスの健全な発展を考えてきたが、その基本線に沿うものであり、安心して推薦できる。
(4) 読みやすい。多分全くの素人でも半日も掛ければ簡単に読める。繰り返し読み込むことが大切である。
(5) 特に最終章の「有望なフランチャイズ・ビジネスを探る」は、現在既に加盟して、次のブランドを探している方にも役に立つ内容である。

 逆に、この本の問題点を若干挙げておきたい。

(1) 投資回収を3年程度と規定しているが(P61)、これはとんでもない意見であり、明らかに間違いである。
日本のフランチャイズ本部の悪い癖として、税前利益に減価償却費を加算して、このキャッシュフローで投資額を除して、投資回収期間と解説するのが大半である。税前利益に法人税、地方税を加算すれば、一般的には4割近い税金になる。
即ち、税前利益*0.6=税引き後利益である。
従って、投資回収期間の計算は次の通りとなる。
投下資金 / (税前利益*0.6)+減価償却費
これで計算すると、非常に業績の良い加盟店でも5年近い投資回収期間が必要である計算になる。
勿論、サービス業等投資額の低いビジネスで売上が上がれば、3年回収はあり得る話であるが、フランチャイズ・ビジネス一般論として投資回収期間3年は、まずあり得ない。
(2) 「モデル店舗の営業利益率は少なくとも15%」はあり得ない数字である。
(P91)
現実には10%もあれば上出来である。今頃、少なくとも15%の営業利益率が、平均的に出ているフランチャイズ本部は殆どない。
多くの加盟店が「少なくとも10%程度の営業利益率が欲しい」。しかし、売上高が減少して今では数%しか営業利益が出ないとなげいているのが実態である。もう少し、加盟店経営の実情を調査してもらいたい。
(3) 立地タイプが住宅街、駅前商店街、郊外ロードサイド等に限定されており、特に昨今の商業施設内の立地に言及されていない点が不満である。著者はコンビニ経営の経験が長かったようであるが、最近飲食、小売業(除くコンビニ)では、商業施設を外しては議論できない程、商業施設の持つ力が増大しているので、是非商業施設にも言及して欲しかったと思う。
(4) 「標準モデル店舗の年商規模は、少なくとも有店舗で年商6000万円以上、無店舗で3000万円以上が望ましい」(P90)は現実離れしている。例えば、有店舗の学習塾で、年商6000万円の事例は聞いたことがない。生徒数100人で計算しても精々年商3~4千万円程度ではないだろうか。やはり著者がコンビニと飲食の経験しかないため、サービス業への目配りが不足しているような気がする。
基本図書であるだけに、数値表現にはもっと神経を使ってもらいたい。



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