フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

商売で大事なことは全部セブンーイレブンで学んだ 

 商業界から出版された上記の本は、セブンーイレブンで長年にわたり実施されてきた単品管理の実行書であり、経験談である。著者の岩本浩治氏は1961年生まれの44歳。1989年にセブンーイレブンに入社して、直営店店長、OFC(一般的にはスーパーバイザーと呼ぶので以下SVと略す)を経験後、トレーニングストア教育担当、SV研修OJTトレーナーを兼務して、1996年同社を退社して、(有)ライトスタッフを設立して、コンサルタントに転進。以来、チェーンストア本部を中心に教育・指導・講演を行い、専門分野は、単品管理とスーパーバイジング部門の強化である。
 筆者は単品管理について専門書を読んだのは初めてであり、到底書評の書ける立場ではないので、本書の紹介に止める。最後に若干の意見を述べてみる。

第1章 「売り方」の発明

 まず、トヨタ自動車の歴史から話は始まる。トヨタは今でこそ「日本一」のメーカーであり、世界の自動車産業の中でも最強の1社である。しかし、地元の愛知県で育った筆者にとっては、トヨタは「三河の田舎者」であり、労働争議と倒産寸前の会社のイメージがいまだに強い。事実、昭和31年の名古屋大学経済学部の卒業生は、1名もトヨタ本体には就職していない。トヨタ自動車販売には数名の人が入社したが、自動車工業本体には1名も就職しないのは地元大学としては、誠に不明の限りである。
 トヨタ自動車が世界最強の自動車メーカーになれたのは、著者によれば、「独自の仕事のやり方」が、競争相手の仕事のやり方よりも正しく強く優れていたからだという。人はそれを「トヨタ生産方式(トヨタのカイゼン)」と呼ぶ。
 けれども「トヨタのカイゼンに匹敵するか、ことによるとそれを上回るかもしれない経営スキルが、実は日本にはもう一つある」と著者は語る。それが「セブンーイレブンの単品管理」であると断言して、この本は書き進められていく。
 トヨタのカイゼンの出発点は終戦直後だから60年前。「セブンーイレブンの単品管理」が誕生してから30年が経過する。単品管理のスキルは、世界中の小売業者が手本とするに値するだけの水準と、そうなるために必要な条件(汎用性と普遍性)を満たしている。
 単品管理の原型は、1960年代にアメリカから持ち込まれたユニットコントロールという概念である。
 ユニットコントロールとは商品(在庫)を数量で管理することである。「商品は金額管理(ダラーコントロール)したってうまくいかない。1品ずつ、数量で管理していくしかない。」という教えである。
 計数による経営管理の重要性が叫ばれる当時の世相にあって、「商品管理は数量でおこなうべし」という注意喚起は、よき刺激となった。その過程でユニットコントロールの日本語訳として名付けられたのが「単品管理」であった。この時点では、アメリカからやってきたさまざまな経営管理手法の一つと見られていた。
 間もなく、スーパーマーケットの時代がやってくる。急成長するスーパーの売上は、1965年には百貨店の半分に迫り、1967年には日本チェーンストア協会が発足し、1972年にはついにダイエーは三越を抜いて売上高日本一になった。
 セブンーイレブンが登場するのはその直後の1974年である。以降、セブンーイレブンは現在に至るまで、この単品管理という地味な手法に没頭する。最初はそれをどこよりも真剣に、手を抜くことなくやっているだけであった。
 それから30年。現在のセブンーイレブンの単品管理にユニットコントロールの面影はほとんど残っていない。「管理の道具」が「拡販の武器」に化けた。「技術が思想化」したとも言える。「分析論」が「実践論」に移行したとも言える。
 だから、世界中どこへ行っても「日本のセブンーイレブンの単品管理」のことをユニットコントロールとは呼ばない。両者は異質であり、似たような概念は存在しない。だからタンピンカンリ(TANPIN KANRI)である。

第2章 その気になれば簡単さ

 鈴木敏文氏によれば、「フランチャイズ方式によるコンビニエンス事業を始めることは、社内外に反対的意見が圧倒的に強かった」そうである。
 そうした現実の中で、小売業の構造的な限界を打破して生産性を向上させ、既存小売店との共存共栄を実現できるなら、そこに大きなビジネスチャンス、社会的意義がある。創業の時点で、経営陣(特に鈴木敏文氏)の問題意識として強く心の内にあり、それが社内外の強い反対意見を押し切ってサウスランド社とのマスターフランチャイズ契約の締結となった。
 ところが、アメリカのサウスランド社とのフランチャイズ契約を結んで、アメリカの店舗実習を受けた鈴木敏文氏は3日目に「アッ、小売業はというのは完全にドメスティックなものなんだ。これをこのまま日本に持ち帰ってもどうしようもないな」と気づいた。「役に立ったのはオープンアカウントのみであった」と後に語っている。
 事実、1974年5月の東京・豊洲店(1号店)のオープンと同時に、当初の目論見と期待は、音を立てて崩れていった。
 豊洲店の売上は、酒販店のころと比較すれば上がった。しかし、コンビニへの業態転換によって大幅に増えたコスト(人件費、ロイヤルティ等)を賄えるだけの売上には達しなかった。とにかく問題は売上である。この売上では、このビジネスはお終い。まさに絶対絶命の状態であったという。
 しかし、今振り返ればそれがよかった。絶対絶命の状況だから、売上アップのために出来ることなら何でもやってやる。
 「小売の素人集団だったから」「引くに引けない状況にあったから」「ガケップチでもう後がないから」-そう考える中から単品管理が生まれてきた。
 そのような状況の中、売上アップを阻害する原因の一つに、「欠品」の問題があった。例えば、飲料売場に穴があいている。商品がない。それはどんな商品かと言うと売れ行きのよい商品である。
 1号店の売場面積は24坪、品数は3500アイテム、必然的に、1品当たりの陳列量は数個から十数個となる。しかし、当時の発注単位は、今よりは、はるかに大きかった。例えば缶詰の1ロットは48個である。結局、倉庫には缶詰売場の数倍の缶詰が在庫になることになる。売れない商品の在庫が邪魔で注文ができなかった。
 「小分け配送」の必要性は感じていたが、当時のセブンーイレブンには力がなかった。交渉中ではあったが、ロットの問題は直ぐには解決できない。
 「在庫を減らして売上を増やす唯一の方策」―それは売れる商品だけ取って、売れない商品は取らないこと。そのためには今、何が、幾つ売れているのか、単品ごとにチェックすること。大変だろうがなんだろうが、自分たちで一つ一つ確かめていくこと。こうして、日別、単品別の販売集計が始まり、1日十数時間の手作業で行った。他に手段がなかった。
 1日目、2日目、3日目―しばらくすると、以外な事実が次から次へと明らかになった。例えば、
・パンや飲料は想像以上に売れている。
・洗剤などは、大きなサイズはほとんど売れず、小さなサイズだけが変われていく。
・週刊誌は4日以上たつとほとんど動かない。
 やっと、「お客様は自分たちの店に何を求めているのか」が見えてきた。事実に従い、素直に手を打った。出てきた結果に逆らわず、売れない商品は売り場から排除、空いたスペースには新しい商品を置いて様子を探る。駄目ならまた別の商品に入れ替える。果たして、売上は上がり、在庫は減った。
 彼らは、単品ごとに商品の動きを追いかけて手を打つこと、即ち単品管理によって草創期の最大の危機を乗り切ったのである
 単品レベルで物事を考える習慣を身に付けたセブンーイレブンにとって、当時の日本の商習慣は問題ばかりであった。
 最初に取り組んだのが納品ロットの問題であった。そのためには、ドミナント戦略(地域集中出店)が必要であった。鈴木敏文氏によると、1号店の「江東区から1歩も出るな」という指示をしたそうである。ドミナント戦略は、小分け配送を実現するために絶対に必要であった。店舗数を増やすと同時に、1975年小分け配送がスタートした。1ダース単位で納品されていたインスタントコーヒーは3個づつで入荷するようなった。
 納品ロットの縮小は発注単位が小さくなったことを意味する。これは重要である。日本で一番最初に小分け配送を開始したことによって、どこよりも早く「何箱必要か」ではなく、「何個必要か」を考えるようになった。
 著者は1980年の牛乳の共同配送が実現したことを取り上げている。筆者は、当時乳業界にいたため、牛乳の共同配送の実現には驚いた。現在でも、街の牛乳屋は、専売制であり、明治の牛乳販売店が森永牛乳を売ることは絶対にない。
ローカル牛乳、酪農牛乳等の例外はあるかもしれないが、原則1メーカーとの取引のみである。牛乳の共同配送によって、物流コストは3分の1に下がった。
更に、牛乳を買い取り制に切り替え、牛乳の売上は倍増したそうである。
 手作業で始まった単品管理は、POSに切り替わった。POS導入で単品管理が始まったのではない。単品管理を続けるために、あるいは単品管理をさらに深めるためにPOSを入れたのである。
 また全店に設置されたストアコンピューターは、SVが担当店舗の販売動向を把握するに当って強力な助っ人となった。本部が、店の品揃えや発注に単品レベルで、具体的に口出しできるようになった。
 それ以来、SVの仕事は「オーナーさん、明日ののり弁当の2便、あと5個
余分に発注しましょう。なぜならばー」というような日々の発注指導が中心となった。最近、外食のオーナーから「SVは何故必要か。SV指導はいらないのでロイヤルティを安くしてくれ」といった意見を聞く機会が多い。それに対して、コンビニオーナー世論調査(当社ホームページを参照)によれば、やく半分のオーナーが「SV指導に満足している」と答えている。サービスや飲食の調査事例がないため、推測であるが、多分「満足」と答えるオーナーは20%程度ではないかと考えている。この本を読んで、コンビニオーナーが「SV指導に満足している」と答える理由の一班が理解できた。
 初期の単品管理は、データ分析や在庫コントロールを中心とした原始的なものであったが、競合チェーンもPOSを導入するようになり、セブンーイレブンの単品管理は次のように変質していった。
 まず第1に、データの見方が変わる。表面的な数字の大小よりも、データが生まれた背景の方に関心がシフトする。データの見方が変われば発注も変わる。
第2に、仕事のやり方が変わる。単品管理を継続すると「売場を変えれば売上は変わる」ということがよく分かる。必然的に、分析よりも行動を重視するようになる。つまり、単品管理において発注と売場作りは一体となり、単品管理=発注ではなくなる。
第3に、仮説と検証の習慣化が始まる。仮設を立てて実行する、結果を踏まえてまた新たなる仮説を立てる、この繰り返しが単品管理の学習方法として最も効果的である。この業務サイクルが単品管理の水準を飛躍的に高めていった。
第4に、売上アップに対する自信がつく。こうして彼らは、狙いを定めた商品に対しては、ほぼ確実に売上を上げるすべを身につけた。
単品管理は店舗限定のノウハウではない。セブンーイレブンでは店舗運営部隊のみではなく、商品部も、店舗開発も、設備も。さらに財務、人事、総務に至るまで、商品以外の対象物に対しても単品管理を行っている。
商品部では、特に弁当、惣菜等の味の向上について、病的といってもいいほど執拗に、単品レベルで工夫と見直しが繰り返されている。
物流管理では、トータルコストの低減と品質(特に鮮度)の維持・向上という観点から見直しが進められている。その結果、米飯は3便体制に、温度変化の幅はプラス・マイナス2度以内に、創業時に1店1日平均70台あった配送車両の数は10台前後となった。
また、単品管理は社内限定の閉じたノウハウではない。例えば製販一体となって商品開発に取り組む「チームマーチャンダイジング」などは、垣根を越えた単品管理の典型である。

第3章  誰でも数字を変えられる
ここから著者のタンピンカンリの体験談が語られる。
 まず最初、埼玉県のトレーニング店舗で検品、値付け等の一般的業務を行い、念願の発注業務は、電池であった。いろいろな試行錯誤を繰り返しながらSVからは「もっと単品で考えなさい」「分析は分かった。それで君はどうしたいの」と指導された。次に担当したのはアイスクリームである。筆者は明治乳業で5年間アイスクリーム課長を担当していたので、ここでは詳細に述べる。
 当時のアイスストッカーは現在の大型ケースではなく、メーカー貸与の「ノベルティストッカー」という小型のストッカーであった。アイスは通常問屋が適当に売れ筋を見繕って、ストッカーを満杯にしてくれるものであった。(昭和50年代まで)さすがに、セブンーイレブンでは個数単位で発注していた。アイス類の中では当時ダントツに売れていたのは、明治のレディーボーデンであった。昭和50年代の初頭、数あるアイス問屋の中で、レディーボーデンを一番売っていたのが日本酒類販売という酒問屋であり、アイス問屋というよりは、冷食問屋であった。当時、レディーボーデンはアイスクリームメーカーの羨望の的であり、明治乳業の中でも一番の利益頭であった。当然、「日酒販の売り先はどこか」とセールスに同行販売をさせたところ、セブンーイレブンが日本一の販売先であることが判った。1店舗に1種類3ケづつ納入していた日酒販にとって最大の要望は1ケース(12個詰め)をせめて6個詰めにしてくれという要望であった。メーカーとしては「いちいち納入先の要望を聞きいれていては切りがない」と、一刀両断で切り捨てた思い出がある。ここから、小分け配送に移り、日本の流通を変えるキッカケとなったのである。
 その次の商品は1?牛乳である。著者はよい点に目をつけたと思う。1?牛乳には、次のような商品特徴がある。
①代替が利かない商品であり、絶対に欠品させてはいけない。
②利幅の薄い商品であり、廃棄が店の収益減に与える影響が大きい。
③買い手は鮮度(製造日)に対して極めて敏感である。
④メインターゲットは主婦である。
⑤週末型かつ夜型の商品であり、このタイミングで欠品が起きやすいこと。
⑥気温、天候との相関が高いこと。
⑦発注精度の高さが求められる。
 著者は、突然原因不明で売れなくなったりするので、原因追求をして対策を打つ。まず、フェースアップ(前進陳列)である。自分がいなくてもフェースアップするような作業割当も行った。当時の1?牛乳の売れ筋は「セブンーイレブン牛乳198円」と「雪印牛乳208円」の2品であり、価格ならば前者、ブランドならば後者を選ぶということで、両商品は拮抗していた。フェースアップを徹底すればするほど、なぜか在庫の少ない方に需要が集中するという不思議な現象に悩まされた。実は、在庫が増えると、増えた方の単品の日付が古くなるからである。つまり1?牛乳は、価格でもブランドでもなく、鮮度が最大の差別化要因であったのである。雨や台風の体験で牛乳の単品管理の難しさを理解することになった。
 著者は天候の商品販売に与える影響力の大きさに感じて、天気予報の勉強を始めたそうである。「明日の天気がわかる本」を買って、気象の基礎から天気図の描き方、読み方まで、独学で勉強したという。ざるそば(小割りそば)などの冷たい麺類を「調理麺」と呼んでいた。調理麺の販売個数は天気に左右される。著者は、自分が作った天気図から、明後日の天気、気温、湿度、風力を読み、それに基づき、担当店の調理麺の予測販売数量を単品別に導き出し、それを全店に電話する。電話を受けた深夜のアルバイトは、その電話内容をメモして、翌朝オーナーが、それを見ながら店の在庫状況を踏まえて、最終決断をする。それが毎日の日課となった。
 セブンーイレブンでは本部主催の「夏の調理麺コンテスト」を実施しており、絶対販売金額と伸び率の総合評価で成績上位店には賞金が出るという内部販促である。著者の指導先である加盟店8店中、半分の4店が賞金を獲得したというから大変な成績である。
 外食でも天気によって売上高が左右される。特に土日の雨は痛い。果たして外食のSVが天気予測までして、加盟店指導をしているであろうか。こんな点にもコンビニのSVの指導力の高さを感じずにはいられない。
 この後、米飯(弁当、おにぎり)の単品管理で、発注担当者をアルバイトの女性に変えたら前年比145%という驚異的伸び率を示したとか、おでんでは加盟店の売上高2000円程度のお店を単品管理の指導で平均1万5千円に上げた実績を披露して、「おでんを通じて私が学んだのは、商売は理屈じゃない」ということですと結んでいる。

第4章  変化、大好き

 単品管理的価値観10カ条が述べられている。いずれも内容の深いものであるが、大分ページ数もオーバーしたので、羅列するに止める。

第1条 商品を極めた者が笑います
第2条 単品をなめた店が落ちぶれます
第3条 抽象論では買い手は認めません
第4条 実力は幅より深さで決まります
第5条 データは交ぜ合わせると腐ります
第6条 簡単に結論をだしてはいけません
第7条 発注は小売業のすべてです
第8条 意外にもPOSは関係ありません
第9条 すべての変化はチャンスです
第10条 何よりもあなたの意思が大切です
提案1:片っ端からたべなさい
提案2:おいしいものだけを売りなさい
提案3:惚れた商品に特化しなさい

第5章  お客の「飽き」と戦う

 単品管理の狙いは何か。

 まず品切れなどによる“売り逃し”を機会損失という。つまり、売り逃した分の売上を“マイナスの売上げ”としてとらえ、それによって儲け損ねた分の利益を“経費の増加”と同等の感覚で“痛い”と感じるわけである。この考え方は会計上は無意味であるが、経営上は有効である。機会損失という概念があるかどうかで、現場の意識からチェーンの戦略に至るまですべてが変わる。
 鈴木敏文氏は著書の中で「1998年のイトーヨーカドーの機会損失額は少なめに見積もっても3000億円に達していた」と述べ、続けて「世界の小売業で我々のように機会損失データまでとっているところはないだろう。それは機会損失に対する関心が低いからだ」(商売の創造)と述べている。
 セブンーイレブンのPOS画面の特徴は「機会損失部分の強調」であるという。例えば、廃棄数量は“淡い水色”だが、欠品時刻は“鮮やかな赤”で、グラフィック画面でも欠品している時間帯は真っ赤に塗りつぶすことで、発注担当者の意識にそれを強く刻み込もうと努めており、その根底には「機会ロスは廃棄ロスの5~10倍大きい」という認識がある。
 機会損失の大きさを実感できない人は「目的とする商品が存在しないとき、お客様は代用品で我慢する」という考え方から抜け出せない人である。セブンーイレブンでは「それは売り手市場の感覚で商売しているからだ」と教える。
 しかし、現実にはセブンーイレブンに、お昼の12時半頃に行くと筆者が目的としたサンドイッチは何時も売り切れていた。どうしても食べたい場合には11時50分頃にいかないと買えない経験をしばしばしている。機械損失をこれだけ強調するチェーンの店頭でも、毎日のようにFFの欠品が生じている。
 二つ目の狙いは“価値ある商品”だけで売り場を満たすこと、すなわち「価値訴求」である。「価値」とは完璧な品質である。食品では抜群の鮮度であり、絶対的なうまさである。買い手の視点で言えば、「安くなくても欲しいと思わせる何か」である。単品管理では「売れ筋商品」よりも「価値ある商品」の方が優先される。
 価値なき商品の導入はボディーブローのように効いてくる。だから「価格訴求」でもなく「売れ筋訴求」でもなく、「価値訴求」である。セブンーイレブンのSVにとって、新商品の試食は職務上の義務であり、「試食評価表」の提出を義務付けられている。それだけではなく“まずい”と思ったら上司の判断を仰ぐことなく独断で即刻、売り場から商品を撤去する権限与えられている。「機会損失」の放置よりも、価値訴求に対する妥協の方が罪として重いのである。
 しかし「商品には寿命がある」という現実も受け止めねばならない。商品も人間と同様に老いるのである。すべての商品はいつか必ず死ぬものである。原因の一つは、環境の変化である。原因の二つ目は、商品自体の進歩である。原因の三つ目は、お客様の飽きである。新鮮な商品に出会ったときの驚きは時間とともに風化する。問題は、お客様に「次はどんな新商品をご希望ですか?」と聞いても、お客様には答えることができないのである。止むを得ず、これでもか、これでもかと既存商品に飽き飽きしている人々に「お金があっても買いたいものがない」と思っている今の消費者に、新しい商品をぶっつけていくしかない。いうなれば、商売とはお客様の飽きとの死闘である
 単品管理を学んでしまうと、新業態に対してあまり興味を示さなくなる。それは、既存の商売に限界を感じてしまった者にとっては魅力的かもしれないが、
その前にやるべきことがまだいっぱいあるからである。

第6章 合言葉は勇気
 単品管理のスタートの段階で、まず身につけてほしいのは「取り除く力」であるとして、①在庫コントロール②死に筋排除③絞込みの3点であるとして、それぞれについて詳細な説明が続く。ここでは、最後の絞り込みについてまとめてみる。
 「絞り込み」とは、営業政策的にあえて商品アイテム数を減らしていく行為である。創業期のセブンーイレブンの品数はおよそ3400アイテムであった。それが現在では2500アイテム前後になっている。競合するコンビニのアイテム数はおおむね2800~3000アイテムだそうで、セブンーイレブンの品数がかなり少ないかが理解できる。それでもまだアイテムが多すぎると考えているそうである。その理由は①死に筋排除を徹底するためである。②二つ目は、時代が絞り込みを求めているからである。これは、「売り手市場」から「買い手市場」へとマーケットが変化したことにより必然的に生まれたものである。
消費者は、いつの間にか、自分の心の琴線に触れた商品しか手をださなくなった。日本の流通革命をリードしたダイエーの中内功氏が、かって「消費者の気持ちが読めなくなった」と言われたことがある。商人の勝負どころは、“調達”ではなく“排除”になったのである。③三つ目は、店の飢餓感をあおるためだという。「売れる商品」で売り場を満たそうと思ったら、たぶん売り場は埋まらなく、ガラガラになるだろう。それは「足りないのは売り場ではなく良質な商品」という話になる。打開策として出てくるのは、新商品の積極投入と、激しい商品改廃と、価値訴求である。
 絞り込みとは、買い手市場の本質から目をそらさずに、お客様の立場にたって、あえてガラガラの状態の売り場にすることで「欲しい商品がない」と言っているお客様の売り場に対する評価を実感として受け止めることである。④四つ目には、もともと商人の腕の見せ所は絞り込みにある。何でも仕入れる商人なんか、商人ではない。
 絞り込みとは「売上を落とすことなく、売場に“空き”をつくる技術」である。絞り込みの最大の目的は売上アップである。絞り込みとは「小さな売上を捨てて、大きな売上を拾う作戦」であると言う。
第1に、絞れば欠品と廃棄の両方が減る。
第2に、絞れば売れ筋商品が目立つようになる。
第3に、絞れば環境の変化に強くなる。

第7章 誰よりもたくさん売ってみたい


 この章は「売場づくり」を説明する章であり、本筋からはずれるが、単品量販についてまとめてみる。著者は「新商品では差別化できない」と言う人が多いが、“商品の見せ方”による差別化ならいくらでもできると主張する。幾つかの事例が上げられているが、一つだけ取り上げてみる。あるチェーンの「ペプシ500」の通常原価は83円であった。それが「ペプシマン・ホラーバージョン」に伴うキャンペーンで、導入当初の1週間だけ特別原価60円で仕入れられることになった。(新商品の導入時に10円程度の値引き納入は常識のようであるが、このキャンペーンは23円値引きであり、特別な価格であったのであろう)1回の発注上限は8ケース、週3回発注だから、店としては最大で24ケースを、この破格の条件で仕入れられることになった。
A店は、目線に棚2段使って最大限の展開を行った。(著者が指導したのであろう)売上の低い店ではあり、それほどインパクトの強いキャンペーンではなかったが、1カ月掛かってなんとかそれを売り切った。
一方B店は売上の高い店であったが、何もしなかった。それまで通り下段に1列で並べたまま1ロットずつ、合計3ロットしか発注しなかった。結果A店は、この特別原価を使って1万3248円を稼いだ。けれどもB店は1656円しか稼げなかった。しかもこれは、「特別原価の恩恵」にのみ着目した計算であり、ペプシ500から得た粗利益すべてということになると、A店は4万6080円、B店は5760円と、4万320円の大差がついたのである。著者は「単品量販はしばしば、やった本人のその後の商人人生を変える」とまで評価している。
 実際、セブンーイレブンで単品量販が多用され始めた時期と、鈴木敏文氏が「小売業は心理学である」と公の場で言い始めた時期はタイミング的にピタリと重なるそうである。
 単品量販は、メーカーにとっても新商品投入時の大きな支援であり、多分有難い政策だと思うが、一方「コンビニは、新商品を育成しない」という声も良く耳にする。多分、両方とも真実であろう。

第8章 誰だって1年で賢くなれる


 数字を伸ばし続けるための唯一の方法論が、「単品管理の面白さ」を味わえる段階まで到達できるかどうかの分水嶺が、「単品管理サイクル」である。昔は「現状分析、仮説、実施、検証」と言っていたが、いつの間にか「仮説、実施、検証」となり、今では単に「仮説と検証」と短縮化して使用されている。
 まず「仮説」から説明する。仮説とは、「売上アップのシナリオを描くこと」である。そこに至るまでの頭脳労働を指して、単品管理では「仮説を立てる」という。仮説を立てるためには情報が必要である。重要な情報を列挙すれば次のようなものである。
 第1に商品情報。どんな商品なのか。誰が買うのか。どういう時に売れるのか。味は。人気は。これらを「商品特性」という。
 第2に、経験情報。その商品の過去に関する情報である。
 第3に、先行情報。その商品の将来にかかわる情報である。先行情報は意識してかき集めなければならない。
 次に、集めた情報を使って当日の需要を予測する。続いて発注数量の決定となる。仮設に基づいた具体的な行動を単品管理では「実施」という。別な言い方をすれば「立てた仮説が正しかったのか、間違っていたのか」、その決着をつけたいがための実施である。実施とは「リスクを負った上での勝負」の部分である。「仮説」というのは面白いもので、個人差が極めて大きい。ところが実施や検証には、仮説ほど極端な違いは見られない。ここの部分が大切である。それは「仮説がなければ売上は必ず落ちていく」ということである。過去のデータにしがみつくのはやめて、意思を持って需要を喚起しなければならない。それが仮説である。そもそも、最初に仮説というステップがあるから単品管理ができるのである。

第9章 仲間を「アッ」と言わせたい


 単品ごとに仮説、検証するのは骨の折れる作業である。経験則で言えば、100アイテムも発注したら、くたくたになる。その解決策として考案された手法が「発注分担」である。「1人で無理なら、みんなで手分けして単品管理を行うより他に方法がないではないか」という考え方である。発注分担の目的は一つ、「売り場全体への単品管理の拡大」である。
 発注分担するためには最低でも1人、「単品管理のできる誰か」が必要である。単品管理をほかの誰かに伝えることができるのは、単品管理を体験した者だけだからである。
 店のトップが体験者である場合は問題ないが、そうでない場合、例えばパートさんが何かのきっかけで単品管理を実践していた場合には、彼女が先生であり、トップは生徒である。立場は関係ない。
 発注分担に関しては「その店の運営に携わる者全員が発注(売場)を担当する」というのが著者の意見である。その第1の理由は、単品管理の宿命に根差している。コンビニのスタッフはオーナーからパートまで入れて総員15~20人である。しかもそれは、勤務間もない新人パートや週1,2回の短時間勤務者を含めての数字であり、実質的には10人程度である。全商品の単品管理に必要とされる人数よりも、店舗運営に携わっている人数の方が少ないわけだから、全員に発注を分担してもらわなければ困るのである。
 第1に、全員発注は商売への全員参加を意味する。発注分担は肉体労働者に頭脳労働をも要求し、結果として時間帯労働者であるパートを商人に改造するという働きがある。しかも商人の一角に組み込まれてしまった当人は、苦痛を感じるどころか、遣り甲斐を感じてしまうという効能がある。
 1人発注から出発する場合には、「一番得意なカテゴリーから」である。この「得意なカテゴリーなら指導が楽」という視点は、発注分担を推進するに当って非常に重要である。分担したことによって生まれた時間的余裕を使って、別の苦手なカテゴリーの単品管理に挑戦できる。そうやって得意なカテゴリーをまた一つつくり、それをほかの誰かに分担し、軌道に乗ったらまた別の単品管理に挑戦する。次々と単品管理の指導者を作る過程を「単品管理の連鎖」という。単品管理の連鎖がなければ成功しない。発注分担に関する注意点は、次のような点である。第1に、最初は狭くて丁寧に。単品管理の指導で最も大切なのは初日に語るべき発注スタンスである。その次に大切なのは、3日間ほど一緒に発注する「マンツーマンサポート」である。伝道の成否は最初の1カ月、「単品で思考する姿勢」が貫くことができたかどうかということで決まるのである。
 第2に、売場担当者たれ。セブンーイレブンでは、このように単品管理を複数のスタッフで手分けして行う手法を指して発注分担と呼んでいるが、その意味を誤解なく理解してもらうためには「売場分担」という言葉を使うべきかも知れない。発注担当者とは、単に発注数量を打ち込む人ではなく、品揃えの変更から売場の演出まで、時には販売促進まで、対象商品に関する商品管理全般を任されている商人なのである。
 売場をいじることのできない人は発注担当者として失格ですし、補充発注しかできないスタッフが何人いても発注分担とは言わない。
 第3に、指導すべきは「新商品」の仮説である。過去のデータが存在しない新商品の初回発注数量に対するサポートである。新商品の初回発注数量は、仮説の違いによって生じる開きには驚くほどの差がある。
 第4に、品数が多くても単品管理は可能である。
 第5に、担当者の商品知識は不要である。単品管理を行えば短い期間に商品知識が身に付く。
 第6に、シフトが合わなくても分担できる。
 飛び切り重要で、とびきり難しく、とびきり危険な商品群が一つある。新商品である。
 発注分担が軌道に乗れば、情報の共有化が始まる。「自分が仕入れて、自分が売る」これが商売の原点である。しかし、ほとんどの店は「誰かが仕入れた商品を、ほかのみんなで販売する」という状態にある。
 但し、万人が発注分担を支持している訳ではない。月刊コンビニ11月号で
竹内稔氏が「発注分担に異議あり」と異論を唱えている。この異論も聞くに値する内容であると思う。

第10章  小さく考え小さく手を打つ

 百貨店、スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター等完成度の高い業態が日本でも確立してきた。同じ業態の中でも激しい競争が展開されている。その勝敗は何によって決まるか。
 その一つが「基本徹底力」である。もう一つが「変化対応力」である。
 催事には「全国的催事」とお祭り、運動会、遠足、文化祭などの「地域的催事」がある。地域的催事では「個店の力」が問われる。具体的には、情報収集力と仮説立案力である。では、何故彼らが地域対応を重視するのかと言うと、チェーンストア細大の弱点がそこにあるからである。
 つまり、地域対応の強化は、個人商店に対する自分の弱点を克服するための行為であり、競合チェーンに対しては差別化の武器となるからである。
 「遠くの大きな催事」より「近くの小さな催事」の方が個店レベルでは影響が大きいのである。
 天気の変化はとびきり日常的で、通常与件として扱われる。けれども商人にとっては、変化の中で最も大事な変化である。
 第1に、天気は万人に影響を与える。
 第2に、日本で商売をしているからである。日本の気象の変化の激しさ、速さ、複雑さはひょっとしたら世界一かもしれない。売れない理由を天気のせいにしているようでは、日本の商人としては失格である。
 第3に、差別化しやすい。天気を利用し、拡販に結びつけるだけの機動力を持った店はごく一部である。
 「変化の激しさ」に対する認識の相違が生まれる一番大きな原因は、「小さく考える習慣の有無」にある。「1品1品の売上の集積が日商である」そう考えてお客様の変化に小さく、素早く、しつこく、喰らいついていくのが単品管理である。

最後に
 冒頭でも述べたとおり、筆者は「単品管理」について学んだことがない。従って、本書の書評を書く能力は持ち合わせていない。
 しかし、通読した範囲で次のような意見をもっている。

1. 単品管理に関する良書であり、是非大勢の方に読んでいただきたい。
2. 特に、コンビニ経営者、コンビニ関係者、小売業者、専門店業者、経営コンサルタントの皆さん。
3. 単品管理が、小売業で「トヨタのカイゼン」に匹敵するほどの技術であり、思想であるとするならば、ここ数年間コンビニ各社の既存店売上高がマイナス成長に陥っている原因は何であろうか。多分著者は「単品管理」の思想や技術が、セブンーイレブンの全店で十分に機能していないからだと答えられるものと推察する。果たしてそうであろうか。コンビニ自体のコンセプト疲労は起きていないであろうか。筆者はコンビニの業態多様化に組みするものではない。現在のコンビニ業態のブラッシュアップこそ、コンビニの建て直しに有力であると考えている。単品管理だけが、コンビニの建て直し策だろうか?
 もっと多様な意見がセブンーイレブン以外のコンビニ経営者から百家争鳴の意見が出ることを期待したい。
4. コンビニや小売業のSVには必読書である。外食やサービス業のSVの皆さんにも是非読んでいただきたい。外食業やサービス業のSV活動は何を行うべきか、大勢のSVの皆さんと今後一緒に考えていきたい。
SVは何をなすべきかを、真剣に考えさせられた著作である。


本文の無断引用は禁止いたします