フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

2007年フランチャイズ業界を展望する

 2007年のフランチャイズ業界を展望する前に、経済・社会・政治の動向について予測してみたい。

Ⅰ 経済・社会・政治の動き

1. 団塊の世代の定年始まる

 団塊の世代の定年退職が今年から始まる。団塊世代の労働力人口(就業者と求職者)は約510万人とみられ、労働力人口の約8%を占める。団塊の世代が07年から09年に掛けて60歳の定年を迎えて職場を去ると、人手不足となり、技能伝承が滞ると懸念されている。
 しかし、団塊世代が一斉に職場から姿を消す訳ではない。06年4月に改正高年者雇用安定法が施行され、すべての企業は従業員に65歳までの雇用を確保する措置をとることが義務付けられたからである。企業は定年の引き上げまたは廃止か、定年後も働ける継続雇用制度を整えなければならなくなった。

 高齢者雇用には法改正以外の要因もある。景気回復により、大手企業でも人材の不足を感じている。このため専門技能を持つ社員に対して、定年後も積極的に活用しようとする企業も増加している。
 しかし、定年後の雇用延長は決して働きやすいものではないだろう。まず、部長・課長などの役職はなくなり、給与も現役時代の半額程度になると覚悟しなければならないだろう。また「60歳以降も働き続ける会社は大企業やベンチャー企業に限られている」との声もある。(日経新聞1月1日)
 定年後の再雇用に頼らず、個人事業を起したり、農業の新たなる担い手となったり、NPO法人を立ち上げたり、様々な人生設計があるだろう。活力ある世代であるだけに、新しい人生設計を見せてもらいたいものである。

2. いざなぎ越えの好景気持続

 2006年11月をもって、日本の経済は「いざなぎ景気」を超えて、更に長期に好調が続く模様である。日銀は1月12日の全国支店長会議で、各地の経済情勢を分析し、1月の地域経済報告をまとめたが、9地域すべてで景気は「拡大」や「回復」の動きが続いていると分析した。(日経新聞、1月13日)
 しかし、筆者が日本全国を歩いて加盟店オーナーに「景気回復の実感はあるか」と質問したところ、すべてのオーナーは「全く景気回復の実感はない」と答えている。(「飲食店経営」2006年「FCの成功者たち」1月~12月号)
 即ち、マクロの経済指標が2%程度の成長を示していることは事実であるが、消費の最先端を担うフランチャイズ加盟店のオーナーは景気回復を実感していない。

 「いざなぎ景気」時代の日本経済は年率10%を超え、誰しも好況を実感できた高度成長期であった。それに比較して今回の景気回復の実質成長率は、年率2%程度であり、殆ど景気回復の実感の無い拡大であった。 1月16日の日経新聞の大機小機(株式面)に面白い記事が掲載されていた。コラムニストの大愚氏は、「円相場が1ドル=120円近辺まで下落している。緩やかな切り下げなので見過ごしがちであったが、これは「超円安」とも言うべき大きな変化である。  ― 中略 ―  日銀は毎月、実効為替レートを発表しているが、その指数は、日本の輸出競争力の変化を端的に示すものである。超円安が起こっているのはその実質値である。2006年12月は100.6で、プラザ合意直後の1985年秋の水準にピタリと並んだ。意味するところは、日本でモノを作って輸出する競争力が20年以上前の水準まで回復したということである」と述べている。
 要するに今回の景気回復は、自動車産業、鉄鋼、素材産業、総合商社等輸出関連の大企業に限定された好景気であり、その他の産業は概して回復の実感の無い景気拡大であった。
 しかし、バブル不況の中で3つの過大といわれた、雇用、設備、借入金も企業の努力により、逐次改善しつつあり、雇用に到っては、むしろ不足を訴える企業が多い。今年は、雇用条件の改善を通して、家計部門が豊かになり、消費の最前線まで好景気の余波が届くことに期待したい。

3. 少子高齢化の一段の進行

 ここ十数年の間、少子高齢化の声を聞かない年は無かった。昨年(06年)は6年振りに出生数、出生率共に上昇したが、これは一時的な数字であり、昨年年末に発表した新しい将来推計人口で、出生率の見通しは大幅に下方修正された。2002年の前回推計では「出生率は1.39で安定する」との見通しを示したが、新推計では出生率は1.2程度に下がった。2007年から団塊世代の大量定年が始まり、2030年には労働力人口が今より1千万人以上減少する。女性、高齢者、外国人の活用も含めた総合的な対策が必要になる。
 高齢者比率の急増に対応できる社会保障や税制の構築が急がれる。2015年には高齢者が今よりも700万人以上増加する。多くの高齢者を少ない若者が支える社会を維持するのは、世代間の利害対立を超えた社会システムが必要である。
 07年は日本が人口減少化を乗り越えるために重要な年になる。(日経新聞1月1日)

4. 不安社会の到来

 日本経済は戦後最長の好景気の中にあり、大田経済財政担当相は「10年景気へ改革加速」を日経新聞の記者に答えている。
 一方、日常生活に「不安を感じる」と答えた人は最高の67.6%に達し、現代は不安社会と位置づけてもおかしくない。
 内閣府が1月13日に発表した「国民生活に関する世論調査」によると、日常生活で「悩みや不安を感じている」と答えた人が過去最高の67.6%に達し、前回調査より1.2%増加した。
 悩みや不安の具体的な内容(複数回答)では

順位
内容
比率
前回(05年6月との差)
1位
老後の生活設計
54%
5.7%増
2位
自分の健康
48.2%
 
3位
家族の健康
41.2%
 
4位
今後の収入や資産の見通
38.2%
 
5位
現在の収入や資産
30%
 

 将来の年金受給や健康に対する不安を抱いている様子が伺える。戦後60年、日本経済は高度成長の中で、世界一の豊かさと長寿を実現したと思っていたが、現実は厳しいものがある。
 この調査は安部内閣発足直後の10月19日から11月5日に全国の成人1万人を対象に実施し、回収率は59.4%であった。(日経新聞1月14日)

5. 安定政権の見通し

 一昨年の郵政解散による選挙の結果、自民党が圧勝して衆議院で300の議席を獲得した。小泉政権より阿部政権へ移行したが、安部政権の滑り出しは好調であり、中韓との国交安定化、危機管理等が評価され、支持率も70%を超えたが、その後、郵政離党者の復党問題、道路特定財源の安直な解決、政府税調の本間会長の辞任、「政治とカネ」の問題で佐田行政改革担当相の辞任等により支持率が40%台に低下し、ポスト安部の声すら上がっている。
 しかし、参院選挙で逆転を目指す民主党にも勢いが無く、党内が一枚岩に固まっている訳ではない。参院選挙で大きな波乱がなければ、あと2年は国政選挙がない。じっくり落ち着いて改革を議論できる時期が参院戦後に来る。今年から2~3年が改革の正念場であり、安定政権の長期化を期待したい。

6. 人口減に立ちすくむな

 最後に、伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏の経済教室に書かれた「人口減に立ちすくむな」を引用したい。(日経新聞1月12日)丹羽会長は「輸出依存から内需主導への転換、生産性向上、高齢化に伴う財政肥大化抑制、グローバル戦略の4つがカギ」「改革の手を緩めずに着実に課題を解決していけば、明るい未来は見えてくる」として、次の4つの課題を提案している。
 いずれも、的を得た提案であり、是非、政府や財界は実行に向けて動き出してもらいたい。
 まず「第一の課題は企業から家計へ利益を還元し、個人消費拡大を図ることである」これが、財界の責任者から出た発言であるだけに重い意味がある。 「第二の課題は、生産性向上をどう図るかということだ。」「経済全体の生産性向上には、低さが目立つサービス業に着目すると共に、製造業のインノベーションを促すことが重要である」 「第三の課題は、今後の高齢化を見据えながら、年々肥大化する年金、医療、介護の社会給付をどう抑制し、財政を立て直すかという点である」「そのためには、選択的雇用延長や定年制廃止で「70歳現役社会」を構築して年金給付額を抑制するとともに、医療、介護水準の標準化で過剰な無駄な医療、介護を抑制する必要がある。」 「第四の課題はグローバル化進展の中で日本のあり方をどう定義すればよいかという点である」(日経新聞1月12日)

Ⅱ フランチャイズ業界の動向

1. 環境問題がFC企業経営を揺さぶる

 今年は、環境問題が企業経営を左右する年になるだろう。2001年施行の食品リサイクル法は、食品廃棄物を排出する事業者に06年度までに20%の削減や、リサイクルを義務付けた。05年度の実施率が廃棄物を1ケ所にとりまとめしやすいメーカ系が8割であるのに対し、店舗が点在する外食は2割程度で、業種間のばらつきが大きい。これを、事業特性を考慮しつつ、業種別の新目標を設ける方向で見直すこととなった。業種区分は食品製造業、同卸売業、同小売業、外食産業となる見通しである。具体的な目標値は法改正を受けた基本方針で定める予定であるが、いずれも現行の20%以上になるものとみられる。(日経MJ1月5日)
 改正容器包装リサイクル法が、昨年の通常国会で成立し、今年4月に施行される。スーパー等の小売業者にレジ袋や紙製手提げ袋などの減量目標を自主的に策定するよう求める。特に包装材を年間50トン以上利用する企業に削減目標や実績を年度ごとに国に報告することを義務付けている。削減努力が不足する企業に対しては国が改善を勧告・命令する制度も盛り込まれ、罰金も導入された。この改正容器包装リサイクル法を受けて、大手・中堅スーパーでレジ袋削減のため、有料化するテストが始まっている。

2. 人件費及び社会保険料の負担増加

 人手不足が都心部から始まり、昨年中に全国に広まった。少子化の影響で労働力人口が減少し、正社員もパート・アルバイトも深刻な人手不足である。時給は都心部では1200円程度まで上昇しても、まだ不足感は止まらない。バブル時代を超える人手不足の深刻化であり、構造的要因であるために、今後も若年労働力の不足は激しくなるものの、解消の目途はない。
 更に、厚生年金が毎年上昇し、企業側の負担も逐年増加している。更に、今年は、パートタイマーへの年金適用の範囲の拡大が、政府で検討されている。現在は週30時間以上のパートへの年金加入が義務付けられているが、これを週20時間以上のパートに適用しようとする案である。前回の提案にはフードサービス業界等が猛反発して、次回改定時まで見送りとなったが、今回の年金適用範囲の拡大には、絶対反対だけで通じるものかどうか、予断を許さない。
 正社員にせよ、パート、派遣社員にせよ、企業が負担する人件費は間違い無く上昇する。フランチャイズビジネスは人手に依存する部分が多く、付加価値は一般的には低い。人件費負担能力が相対的に低く、人件費高騰は重荷になる恐れが高い。

3. 電子マネーの普及

 3月18日からJR東日本の前払い型電子マネー「スイカ」と、関東の私鉄・バス共通カード「パスモ」の相互利用が始まる。相互の電車に利用できるのみではなく、スイカが提携しているビッグカメラやファミリーマートの一部店舗で、パスモを使って買い物もできるようになる。スイカの現在の発行枚数は1850万枚。これが5年も掛からずにパスモと併せて3000万枚を超えると見られる。
 1万2千台のATM網を持つセブン銀行のネットワークを生かして、セブン&アイ・ホールディングスは、今春電子マネー「ナナコ」を発行する。初年度の発行枚数は1千万枚を見込んでいる。秋からは電子マネーへの入金はセブン銀行のATMで済む。
  先行したエディは2千5百万枚であり、遠からず、電子マネーの利用者は4千万人に達するであろう。しかし決済規模は1千億円程度(電車代は含まず)と低い。利用者の数が多い割に決済金額が低いのは、使用できる場所が限られるからである
。 今年から大手コンビニなど使える場所は増加して、電子マネーの利用件数は来年には現在の10倍になるとの見方もある。

現金
160兆円
ケレジットカード
30兆円
デビットカード(即時払い)
1兆円
電子マネー
1千億円
(日経新聞1月17日)

 電子マネーが10倍になれば、相当の力になる。コンビニ、ファーストフード等小金の決済は電子マネーに依存することになるだろう。決済スピードの速さが魅力となる。
 既存のインフラを生かして、決済に触手を伸ばしているのはNTTドコモなど携帯電話の「おサイフケータイ」も同様である。

4. フランチャイズ専門人材の育成

 フランチャイズの専門人材の育成の場が無いことが、しばしば問題視されてきたが、ゆっくりではあるが、専門人材の育成の場が育ちつつある。
 まず、大学教育では、立教大学、西部文理大学、白鳳大学等で「フランチャイズ講座」が開講され、既に3年が経過している。毎年、その内容が改善され、実業界からも有力者が講師として迎えられている。
 平成16年度の経済産業省の予算により、本部及び加盟店双方におけるフランチャイズ・システムに関する体系的知識を持った人材の育成や、専門人材育成のために、フランチャイズに関する教科書・テキストを整備する「フランチャイズ人材育成基盤事業」が行われた。この事業は、大学教授、フランチャイアイズ本部、加盟店経営者、SV学校講師などの協力により、05年3月までに一応の整備ができた。内容はMBO(経営修士)コース、IFAプログラム、米国のフランチャイズ・ハンドブックを参考にして8分冊に分けて執筆された。
 また、ここで出来上がったテキストや協力された大学の教授などにより、フランチャイズチェーン協会での多年の宿題であった「フランチャイズ経営士」のコースが昨年スタートした。
 専門人材の育成という意味では、まだ端緒についたばかりであるが、少しづつ成果を上げてきている。

5. M&A、MBOが進行する

 日本企業が国内外でM&A(合併・買収)を加速している。2006年は15兆円と前年比約3割増え、1999年以来の高水準となった。国際展開する企業が競争力強化のため外国企業に多額の資金を投じる一方、成熟産業では生き残りに向けた業界再編が急増している。M&Aをめぐる助言者の積極的な働きかけを背景に、敵対的買収や経営陣による企業買収(MB0)も多い1年であった。(日経新聞06年12月20日)
 日本経済新聞社が実施した「買収ファンド調査」によれば、投資対象として目立つ業種は流通、外食、食品、電機、サービス、ヘルスケア、金融等、いずれも市場成熟化や競争激化で業界再編が不可避と見られている業種である。(日経新聞1月5日)これら対象業種にフランチャイズ企業も多数含まれており、今年もM&AやMBOが進行することが予測される。

6. フランチャイズ協会設立35周年の年

 今年は、(社)日本フランチャイズチェーン協会設立35周年の年に当たる。 1947年2月10日にわずか10社足らずの正会員で設立総会を開催、定款、規約及び事業計画と収支予算を承認している。その後関係者の努力により、名実共に日本のフランチャイズ業界唯一の社団法人として今日に到っている。
  フランチャイズ業界は、2005年度の売上高は20兆円弱、1150本部、店舗数23万店強となり、日本社会のインフラとしての地位を固めている。
 しかし、協会の正会員社は120社程度、組織率は10%強であり、まだまだ強固な基盤とは言えない。フランチャイズ全般に対する社会の信頼も、必ずしも万全では無く、解決すべき課題も多い。2000年度以降の業界の売上高伸び率も3%程度に低迷し、一部には成熟化との意見もある。しかし、先進国であるアメリカの市場規模は180兆円とも言われ、日本の10倍近い規模になり、しかも成長率も10%程度と言われている。(アメリカは「製品・商標型フランチャイズ」を含んでいるため、単純比較はできない)
 日本のフランチャイズ業界は成熟期ではない。ますます成長するための一時的な横ばいに過ぎないと考えたい。サービス業や小売業、宅配業、外食業など成長の芽が随所に見られる。協会設立35周年を記して、一段と成長することを期待したい。

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