フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

週末起業を考える

 飲食店経営(商業界出版)5月号に面白い記事が出ていた。「FC加盟の泣き笑い」というテーマで、副題は「サラリーマンを続けながらのFCオーナーが語る」である。編集者の許可を受けたので、内容について説明する。
  ペンネーム(?)高樹浩一氏は、本業は大手電機メーカー(?)のサラリーマン。一方で妻が代表を勤める会社オーナーとして飲食部門の経営者になる。都内に飲食店3店舗(ラーメン2店舗、串焼きダイニング1店舗)を持ち、現在年商1億6千万円。2007年1月に週末起業家大賞、審査員特別賞を受賞。

Ⅰ 週末起業家大賞とは

 ここで週末起業大賞をホームページで調べてみた。
 第1回週末起業家大賞のホームページによれば、主催はNPO法人週末起業フォーラム、共催は(株)アンテレクトであり、週末起業家大賞とは「2006年に活躍が顕著であった週末起業家を表彰するビジネスコンテストです」と、その性格が記されている。
  対象は、週末起業実践者、および週末起業を経て独立した起業家の方、専業主婦にも応募資格があり、本業以外の事業収入がある方なら誰もが応募できる。 このコンテストには、次のような賞が設けられている。
1. 週末起業家大賞
2. 女性週末起業家賞
3. シニア週末起業家賞
4. 週末起業敢闘賞
5. 審査委員特別賞
 なお、週末起業フォーラムのプレスリリースによれば、週末起業家大賞(男性1名)、女性週末企業家賞(女性1名)、週末起業敢闘賞(男女各1名)、審査委員特別賞(男性1名)が、選ばれ氏名と写真が公開されている。シニア週末起業家賞の対象者が見当たらないのは、該当者がいなかったのであろう。

Ⅱ 高樹さんのラーメン店加盟の事例

 さて、では「飲食店経営」5月号の(ペンネーム?)高樹公一氏の物語に戻る。 飲食業とのかかわりは、もともとイベント関係の会社を経営する奥さんの会社が、ショットバーの店舗の営業譲渡を受ける話からスタートした。その矢先、奥さんが妊娠し、高樹氏(以下オーナーと呼ぶ)店舗の運営に参加しなければならなくなったのであり、決して計画性があったのではなく、成り行き上そうなったのである。
 FCを選択した理由は次の5点であり、いずれも的を得た指摘であるが、誤算もあった。
① 飲食のノウハウが全くなかった
② 自分がいなくても、スタッフの指導を本部がしてくれる
③ ブランドや知名度があるので最初から安定経営
④ メニュー改定や仕入れルートがある
⑤ 成功事例等他店舗の情報を活用できる
 「飲食のノウハウもなく、普段は現場にいなくても店舗運営ができるFCというのは、大変ありがたいものでした」と語っている。果たしてそうであろうか?
 「開店して2年後、ラーメン店の売上が前年比25%ダウンし、最初の危機を経験した」「当然スーパーバイザー(SV)に相談したのですが、ほとんど相手にしてもらえず、正式な調査を依頼しても、そんなことよりも接客等の根本的な部分を直さないと、何をやっても駄目と言われ、最終的には本部にお願いし、担当SVを替えてもらいました。」
 「さらに個別に雇ったコンサルタントと相談して店舗を見直し、大復活となったのです。その頃から、すべての責任はFC加盟店側にあり、本部は頼らずに利用するものという考え方が育ってきました」
 実は、このオーナーはラーメン1号店をオープン後2年間で、同じラーメン店のFCの2号店をオープンしている。これは、自分が雇ったコンサルタントの多店舗化指導に簡単に乗ってしまった結果であり、オーナー不在の店舗を多店舗化させるコンサルタントとフランチャイズ本部の責任もあるだろう。
 やはり、フランチャイズを選定した理由の1つに「②自分がいなくても、スタッフの指導は本部がしてくれる」という安易な本部頼りが怪我となったのであろう。FCとは加盟すれば、誰でも成功する保証つきビジネスではない。
 世界中、どこを探しても100%成功するビジネスはない。ビジネスにはリスクが付き物である。まして、オーナーが週末起業家という係わり合いでは、成功する可能性は難しい。
 「本部は頼らず、利用するもの」という考え方は、ある意味正しい。頼れる本部の数は少ない。多分、頼れる本部ならば、このような週末起業家の安易な姿勢では、加盟は承諾しないと思う。本部でも成功の可能性の高い加盟店の開発に躍起であり、加盟店希望者ならば、誰でも良いとは、考えていない。本部には、加盟店選定基準があり、「本部を頼りすぎる人は駄目」という基準があるものだ。多分、加盟されたラーメンチェーンには、加盟店選定基準が出来ていなかったか、または選定基準が甘かったのであろう。
 「本部を利用する」とは、本部の過去の失敗や成功の事例をSVから聞き出して、それを共通のナレッジマネジメントとして共有することである。フランチャイズ・システムの本質はナレッジマネジメントであると確信している。オーナーが短期間に、「本部は利用するもの」と気付かれたのは、意識の高さを示すものである。

Ⅲ 串焼きダイニング店の開店

 「飲食店経営」5月号に記載された、「3店舗の月商推移」によれば、ラーメン1号店は03年2月オープン、ラーメン2号店は05年1月オープン、更に05年4月には串焼きダイニングFCに加盟している。加盟の理由は「当時、ラーメン店の売上げが落ち込んだ時期であり、多業態を考えたことがきっかけです」と語られている。
 加盟の動機は「インターネットで探した際にジャズが流れるおしゃれな焼鳥ダイニングというコンセプトに共感して、食べに行ったら大変美味しく、またのれん分けチェーンのため、加盟金が格安だったのも決め手になりました」と語られている。
 しかも、「串焼きダイニングはロイヤルティがゼロであり、SVや本部に頼るというよりは、全く自己責任の世界でした。」
  即ち、串焼きダイニングはFCと言うよりも、ライセンス販売と呼ばれるビジネスに近く、お店のオープンまでは手伝うが、そこから先はSV指導なしで、自分で仕事をしなさいというビジネスであり、凡そ飲食の素人が手を出してはいけない分野である。ライセンス販売は、飲食業のベテランが自社ブランドの開発が難しい場合、他人が開発したブランドと店舗運営方法を加盟金のみで、購入するものであり、飲食の素人は絶対手を出してはいけない。
  結局、ラーメン店でお願いした「コンサルタントが、多店舗化に積極的なアドバイスをされ、オーナーもその話に乗ってしまって、短期間にラーメン2店と串焼きダイニングの両方を出店したことについては、いまだに後悔している」そうである。
  「串焼きダイニイグでお願いしたコンサルタントの先生は、現役の居酒屋経営者で接客や料理には強い」先生であったそうである。結局、串焼きダイニングには、ロイヤルティは支払わなかったが、結果としてコンサルタントに依頼して、多分ロイヤルティ以上の経費を支払われたものと思われる。
  しかし、串焼きダイニングでは、「外部より店長を招き共同経営という道を選択し、人材リスクを回避しました」と述べられている。
 串焼きダイニングについては、ライセンス販売に近い業態を購入したが、外部コンサルタントの起用と、外部店長との共同経営という形で人事の安定を図り、月商580万円で経常利益7%を実現している。

Ⅳ 経営管理手法

 「毎日のFL管理を徹底した結果、現在は原材料費、人件費共に落ち着いており、私にも毎日メール送信してもらっています。移動中も閲覧できるように、PCドキュメントビューアー付きの携帯電話をうまく活用しています」
 「私のような週末飲食店オーナーにとって、エクセルを見ることができ、Webの閲覧ができ、メールの送・受信ができる携帯電話は大変重要なツールになります。そして、月次で損益管理をした上で、毎月スタッフとともに改善点を話し会うようにしています」
 携帯電話によるFL管理、ホームページの開設等現実に利用しているフランチャイジーは多く、共通の管理手法として普及することが望まれる。

Ⅴ フランチャイズ本部の選び方

 フランチャイズ加盟で一番難しい問題は、「どの本部を選択するか」という問題である。ここで、間違うと、いくら一生懸命努力しても成功は難しく、下手をすると本部が解散するようなこともあり得る。
  素人がフランチャイズ本部を選ぶポイントをまとめてみる。
1. 加盟店を数多く訪問する
 私は加盟店訪問が、すべての調査の中で一番有効であると考えている。ここは週末起業家といえども手抜きしないで10店舗程度回ってもらいたい。本部から3店程の加盟店の紹介を受けて、まずこの3店を回る。売上高、収支予測と現実の差、商品開発のタイミング、スーパーバイザー(SV)の能力、SV教育の充実度等を聞き出す。本部が紹介する加盟店は成績良好で、本部との関係も良い加盟店が多い。訪問した加盟店で更に違う加盟店を3店紹介してもらう要領で、10店舗の加盟店を回れば、ほぼその本部の力量、信頼性、将来性が判明し、最高の本部判定方式となる。
2. 事業説明会に参加する
 事業説明会を開催する本部の場合は、加盟の意思決定前に必ずその説明会に参加する。出来れば、参加者と名詞交換すると、工事関係者やサプライヤーの出席者が結構多いことに気付くはずである。(これは決して水増しではない。この人たちからの紹介を期待しているのである)
 説明の核心は、社長の語る方針と、ビジネスモデル(投資額、採算見込み等)であり、この両方に関心が持てたら、加盟の商談を進行させても良い。
3.開示書面の読み方(特に閉鎖店舗率に注意)
 開示書面は法律、もしくは公正取引委員会の指針(ガイドライン)で、すべての本部が用意することを求められている書面である。万一、開示書面を用意していない本部であったら、その段階で加盟は中止した方が良い。法律や指針一つ守れない本部は信頼できない。開示書面には、重要なことが書いてあるため、その提示はかなり後になる可能性が高いが、加盟の最終決定は必ず、開示書面の交付・説明を受けてから行うこと。その前に、例え一部でも加盟申込金を支払ってはいけない。
 開示書面はすべて重要であるが、特に「契約を中途で終了した加盟者の店舗数」に注目すること。この解約数を加盟店舗数で割った比率(閉鎖店舗率と呼ぶ)が6%を超える本部の加盟は見送った方が無難である。フランチャイズは店舗の伸び率も重要であるが、加盟店舗の生存率の方がもっと重要である。
 次に、オーナーの「FCを選んだ理由」の5項目は概ね適切である。特に①飲食におけるノウハウが全くなかった、は大抵の加盟店が指摘される項目であり、正にフランチャイズ加盟を選択する最大の理由である。しかし、②自分がいなくても、スタッフの指導を本部がしてくれる、という考え方は甘すぎる。勿論、オーナーは資金を出すのみで、社員の店長を1名入れて、その店長の指導をSVにお願いするスタイルはどこでもあり、これならば、成功する可能性は十分ある。しかし、文面では明らかではないが、アルバイト店長を置いて、その指導は本部が見てくれると思うのは、FCを軽く見すぎている。FCで成功するためには、店舗サイドの懸命な努力と、本部の強力な指導・支援があって初めて成功するものであり、本部任せでは、成功する訳がない。
 次に、週末起業にFCを選択したことについて触れてみたい。やはり、飲食の素人が飲食業にチャレンジするためには、FC加盟が一番の早道であり、その選択は正しかったと思う。同じことを言うが、週末起業というスタイルでは、社員店長を置き、自分はアルバイト不足の時にのみ店舗に入るというのが、一番適切な係わり方であると思う。ラーメン店のSVが「そんなことよりも接客等の根本的な部分を直さないと、何をやっても駄目」と断言したことは、店舗の体制をきちんと作り直さなければ、どんな調査をしても無駄と感じたのではなかろうか。案外、更迭されたSVの意見は正論であったかも知れない。

Ⅵ 週末起業を考える

 週末起業とは、サラリーマンのまま、ビジネスを起こし、それを成功裡に導く方法を言うのであろう。
 一般論として、次の点には注意が必要であろう。
①現在、勤務している会社の就業規則に違反しないように注意する。昔と違って、就業規則で会社以外のサイドビジネスを一切禁止することは無いと思うが、公開されれば、それなりのデメリットも発生する可能性がある。
②会社を設立する場合は、取締役や監査役に就任してはいけない。奥さんか、自分の兄弟や友人の名義を借りて、自分が登記簿上表に出ることは避けた方が良い。新しい会社法は、取締役1名で設立でき、監査役も不要であるので、極力簡素な仕組みが良い。
③成功するためには、自分が得意とする分野、好きな分野を選ぶことも重要であろう。
 オーナーの高樹公一氏は、優れた経営能力の持ち主であり、わずか5年程度で、飲食店3店舗、年商1億6千万円に規模に拡大し、かつ成功しているから立派なものである。
 高樹氏は「週末飲食オーナー倶楽部」というホームページを立上げ、「会社を辞めないで飲食店開業を目指す方への応援サイト」と位置づけている。
 文章の中に「本倶楽部は、サラリーマンを辞めずに飲食開業を目指す週末飲食のための支援サイトです」と書かれている。また、「このサイトを通じて、ひとりでも多くの週末飲食オーナーが育っていくことを願ってやみません」とある。興味のある方は是非、アクセスして読まれることをお勧めする。
  また「週末飲食オーナーの魅力」として、次の4点を挙げている。
①安定した収入
②安定した常連客
③信頼できるスタッフ
④会社の信用
 これだけの、魅力を語れる専門のフランチャイジーが減少していることが、大変気になるところである。
 高樹氏は、上の4つの資産を生かして、次の展開が可能であると述べている。
①オリジナル店舗(飲食部門だろう)
②多店舗化
③新規事業(飲食以外)
 これらは、「新規独立とくらべて、人、もの、ノウハウ、与信が揃っているので事業拡大が可能」としている。
 ここまで来ると、週末起業家というよりは、事業家(アントレプレナー)と呼ぶ方が相応しいであろう。
 日本にも、本格的な起業家の時代がやってきたと思わずにはいられない。快哉を叫びたい読み物である。
(詳しくは商業界刊「飲食店経営5月号」P136~P139を参照)

本文の無断引用は禁止いたします