フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

飲食業のスーパーバイザーに求められる役割とは何か

 「飲食店経営」7月号に「5店舗からのSVの仕事」という特集が組まれている。内容は多岐にわたるが、まず立教大学教授の王 利彰先生が「中小チェーンのSVは経営者の代行」という、主として直営店におけるSVの役割を9項目に分けて論じている。王先生はご承知の通り、かって日本マクドナルドのマクドナルド大学の学長であり、SV論と厨房機器開発についてはわが国最高の権威であり、わずか4ページの論文であるが、直営店のSV論としては当代隋一の内容であり、熟読玩味すべきものである。
 それに続いて、ディー・アイ・コンサルタンツの小野恒一氏が「大手チェーンと中小チェーンSVの立場、役割、業務比較」なる論文を発表している。これも、大手チェーンのSVの役割と、中小チェーンのSVの役割の差を述べ、面白い内容である。
 3番目は筆者の「直営とFCにおけるSVの役割の差異」という論文であり、文字通り直営店を担当するSVと、加盟店を担当するSVは指令系統が異なるため、仕事の進め方に差があり、一般論とは逆にFC担当のSVの方が、遥かに仕事の醍醐味は大きいと結論づけている。
 4番目は、4月号の「FC市場レポート」で取り上げた、週末起業家として著名なペンネーム?高樹公一氏の「加盟店オーナーが語る担当SVのつらい思い出」という文章である。
 前記3者がどちらかといえばFC本部サイドからの意見であるのに対して、高樹氏は完全にフランチャイジーの立場からの意見であり、大変興味深い。
 いずれの文章も面白いが、今回も前回に続いて週末起業家・高樹公一氏の文章から、飲食FCのSVは、加盟店からどのような点を期待され、現実の姿はどのように写るかを明らかにして、その上でSVの最大の役割について述べてみる。

Ⅰ SVの役割についての認識が違っていた!

 高樹氏は5年前の開業時、{素人意見として「SVとは定期的なQSCのチェックだけではなく、販促や経営指導、売上が落ちた際の対策など、チェーンの窓口として、幅広く対応してくれるもの」だと思っていました。}とまず、冒頭に述べられている。
 これは決して素人意見ではなく、大変まともなSV期待論であり、これがSVの果たすべき役割であると筆者は考える。 {しかしながら、店舗をオープンした当時のSVは、直前まで直営店の店長だった人で、店長がスタッフに教育するように「味」「接客」「清潔な店」を維持することこそのみがSVの仕事の役割と認識していました}
{開店してから3ケ月くらいまで原材料費や人件費などの損益をきちんと管理できていなかったので、直営店でどのように管理しているかを教えてほしいとSVにお願いしたところ「特別ですよ!」と言われ、後日簡単な損益管理表をもらいました}  このような体験談を書かれている。
  筆者は(社)日本フランチャイズチェーン協会が主催する「SV学校」で10年近く講師を続けてきた体験から言っても、直営店長が満足な教育も受けずにSVとして、担当店を持たされる実態については詳しく承知している積もりである。しかし、これはSVの問題では無く、何等のSV教育をしないまま、担当店を持たせる日本のフランチャイズチェーンの未熟さが露呈したのである。
  直営店の店長からSVへの起用は、飲食業のみならず、サービス業、コンビニでも広く行われている慣行であり、それ自体は間違いではない。むしろ、オペレーションに優れたものを持ち、良きSVに育つ資質を持った人が多いと感じている。
  しかし、直営店店長とSVに期待される役割や機能は別途であり、優れた店長がそのまま、優れたSVになる訳ではない。本部は当然、SVとしての基礎知識や基礎技能を身に付けさせてから、担当店を持たせるべきであり、店長をいきなり教育しないまま、加盟店担当として廻すことは、極論するなら「契約違反」であり、加盟店から大いにクレームを付けてもらいたい。加盟店からのクレームがあれば、本部の社長も問題の大きさに気づき、基礎教育を必ずしてから、フィールドに出すように注意する筈である。加盟店サイドの本部に対する気遣いが、日本のSVを駄目にしている部分がある。加盟店は、是非、教育の出来ていないSVが担当になったら、本部にクレームを挙げてもらいたい。
  SVとして最も必要な教育は、マネジメント論であり、計数管理能力である。SV学校の生徒を見ていると、マネジメント教育や、計数管理能力をきちんと教育しているFC本部の数は、数えるほどしか無い。日本のフランチャイズの健全な発展のためには、まずその部分から手を付ける必要があり、高樹氏の指摘は真に的を得た指摘である。
  次に、店舗の損益計算について、オーナーが質問した下りを読んで、唖然とした。例え、1店舗の個人商店でも、損益計算を毎日するのが常識でしょう。勿論、現金管理であり、「今日幾ら売れて、今日現在の現金有り高は幾らか、それから仕入れとアルバイト労務費を引けば、幾ら残るか」程度の損益管理である。しかし、そこには、原価の確定(この場合は今日の仕入れ)、労務費の確定(この場合はアルバイト労務費)の2大要素が含まれている。
即ち、飲食業を始めたら、その基本的コストである原材料費と労務費(FLコスト)は、まず何をおいても把握し、それが売上高の何%を占めるか?を確認することは、基本中の基本であり、飲食業ではプライマリーコストとも呼んでいる。この基本は、加盟店には多分1ケ月程度の初期研修の中で徹底的に叩き込むのが常識である。
  高樹氏は週末起業家であるため、多分初期研修を受講できる機会はなかったと思うが、店長候補者(例えアルバイトでも)が、この初期研修を受けなければ、本部は加盟店をオープンさせない筈である。
 もし、この程度の研修もしないまま、ラーメン店をオープンしたとするならば、その本部は、およそ本部の名前に値しない泡沫本部であると断定せざるを得ないのである。もし、そうであるならば、それは本部もデタラメであるが、そのような本部を選定した高樹氏の責任も大きい。
 筆者は加盟店が本部を選ぶ過程が一番重要であり、本部選定を誤れば、その後どのように努力しても加盟店の成功は覚束ないとして、本部選定には加盟店訪問が最も適切であり、10店舗程度の加盟店を訪問することを薦めている。高樹氏は、果たして何店の加盟店を訪ねて、加盟を決意されたのであろうか?その辺に「加盟に対する甘さが無かったか」を問いたい。
 なお現在、そのラーメン本部は、毎月損益管理を本部に送るようになったそうであるから、現時点において問題点は解決したようであるが、本来それだけの体制を整えてから、加盟店募集をするのが本部の当然の義務である。

Ⅱ 直営店の優秀店長=即良いSVになるとは限らない

 まさに、その通りであり、優秀な店長に、SVに相応しい能力や技能を教育して初めてSVとしての力が身に付くのである。これについてはすでに議論したので、これ以上は触れない。
 直営店の命令系統は、SVによる指示・命令であるのに対して、加盟店にはSVは指示・命令権はない。SVは加盟店を説得して、加盟店が納得して初めて動き出すのであり、納得しなければ、加盟店は平気でソッポを向く。契約書違反を唱えても、個人の気持ちまで縛ることは出来ない。加盟店は納得しなければ、表面は本部の伝達には「わかりました」と答えるかもしれないが、心底では「何故、キャンペーンをやる必要があるか」と、形だけの参加に止まることが間々ある。(昨年の9月のコンビニの"おでんキャンペーン"については、フランチャイズ日誌に詳しく報告してある)
 しかし、加盟店が心底納得してくれれば、直営店より遥かに熱心にキャンペンに参加し、成果を上げるものである。直営の指示・命令系統よりは、加盟店の説得・納得の論理の方が優れているからである。

Ⅱ 店舗急拡大中。持ち店舗が多すぎ、呼ばないとSVが来ない。

 これも良くあるクレームです。{(SVは)全国を飛び回り、定期巡回などをする余裕は全く無くなり、何かの際に呼ばなければ来ないようになりました。}
 加盟店と本部は契約を結んでおり、その契約の中にはSVの定時巡回(例えば毎月1回とか、2ケ月に1回とか)が定められている。加盟店は契約を結んで本部と対等のパートナーであるから、SVが約束通り来なければ、契約に則り、SVの巡回を求める権利がある。権利を主張しないまま、誌面でクレームを言われても困る。その時点で契約当事者である本部に(SVにではなく)定期巡回をするよう強く求めるべきである。そうすれば、営業課を担当する課長なり、代替のSVが巡回して、契約通りのSV巡回はするものである。
 その時点で、はっきりクレームを唱え、契約違反であること主張すれば、どんな本部でも契約は遵守する筈である。

Ⅲ 売上が悪くなっても、助けてくれないSV

 売上が悪化し、利益が出なくなった時こそ、SVの出番です。順調に業績が伸びている時は、左程SVの巡回は強く求められないものです。
 しかし、不振店に陥った時こそ、SVの支援が必要になる。高樹氏によれば {私が「売上ダウンの原因調査に費用を掛けてもいいので、コンサルタントを斡旋してくれ」と頼んでも「そんなことよりも、接客などの根本を直さないと何をやっても駄目」といわれました。}
 筆者はこのSVの判断はかなり正確ではないかと考えている。店舗の人員構成や接客レベル、クレンリネスが低下している場合は、どんな調査をしても、どんなコンサルタントを入れても無駄になることが多い。まず、店舗のレベルを強固なものにしてから、次の対策を講ずるのは、SVとして常識である。店舗のその時の状況が判らないので、これ以上は言わないが、更迭されたSVの意見は案外正解であったように思う。 しかし{さらに個別に雇ったコンサルタントも含めて店舗を見直し、「接客」「人気メニュー」「清掃」の見直しだけでなく、看板替えなど視認性強化や販促、営業時間の改善をして大復活となったのです}と述べられている。
 更迭したSVもこの手順で店舗強化の後、各種手順を踏むことを考えていたものと思う。この例のように加盟店オーナーとSVの気質が合うことも重要であり、加盟店SVはオーナーの個性を見極め、オーナーの言い分を聞き入れながら、自分が必要と思う店舗改革を実施していかなければならないので、直営のSVより、遥かに高度なテクニックが要求される。それだけに成果が出た時の喜びは大きい。

Ⅳ 店のてこ入れはそもそもSVの仕事?

 高樹氏は次のように述べている。 {ある大手チェーンでは「うちは2種類のSVが存在します」と言われました。 「いわゆるマニュアル通りのオペレーションを管理」するSVと、売上が下がるときなどに経営支援する「てこ入れ屋」的なSVです。}
 確かに、7年間も8年間も連続して既存店の売上高が落ち込む昨今(飲食業に限らす、コンビニでも7年間既存店売上高は落ち込んでいる)、1SVにすべての店舗てこ入れを任せることは妥当ではない。しかし、2重にSVを廻す程の余裕もないのが実態である。(かってあるイタリアン料理のチェーンで、調理、接客、ケーキ3種類のSVを巡回させると聞いて、筆者は「その負担は過大ですよ。SVは1名にして、後は本部の会議制度にしては如何ですか」と提案したことがある、しかし、その本部のオーナーは自分の意見通りに3種類のSV派遣を続けた。結果は、倒産であった。)
 確かにSVの能力や時間には限界がある、SV1名で出来る仕事には限度がある。SVの仕事の進め方として5C+1Pということが言われて久しい。5Cの一つが「コーディネーション」であり、調整である。SVは、自分の能力に余ると判断すれば、本部に持ち帰り、専門家(例えば、販促、建築、立地調査等)の助言を入れて、本部の専門家を同行して加盟店に赴き、各種立案、提案をすることはSVの重要な仕事である。
 SVは万能ではない。しかし、加盟店と本部のコミュニケーションの要である。現状の、日本の飲食業やコンビニの置かれた状況からすれば、SV1名で対処できる問題点は極めて限定的であり、本部が全力を上げて、業態のブラッシュアップを図らないと生き残れない時代である。
 SVは加盟店と本部のコミュケーションの要であり、極めて重要な役割を果たす訳であるが、万能でないことも事実である。

Ⅴ 中小チェーンを選んだら「本部は頼らず利用する」が正解!

 高樹氏は結論として、次のように述べている。 {本部と良い関係にある秘訣は、「本部に頼らず、利用する」ことです。 基本的には看板がなくても営業ができるほど、しっかりした店長やスタッフを育て,QSCを徹底します。SVの定期巡回がなくても、チェック項目を立てて、オーナーがすればいいのです。それでも、本部の協力により助かることはいくらでもあります。ブランドそのものの活用は勿論ですが、新メニューの開発、店舗の成功事例、失敗事例などの情報提供、販促物の提供など、フランチャイジー側の責任としてチェーンの得意な部分を活用させてもらうのです}
 正に、この通りであり、本部と加盟店は機能分担をしている訳であり、本部はブランド力のアップ、新商品開発、情報の共有(言葉を替えればナレッジマネジメント)、販促計画の立案、製作物の提供、最終的には業態のブラッシュアップが本部の役割であり、加盟店は販売に専念して、実績を上げ、利益を出すことが目的である。

Ⅵ まとめ

 高樹公一氏は{最初は、お金を投資して、人を雇っていれば、後は売上げと利益をもたらしてくれるという甘い考えを持っていた私も2度の経営危機を経験したおかげで、フランチャイジーの役割やSVとの付き合い方など勉強しました}{5年たった今は安定した収益をもたらしてくれています。飲食を始めて本当に良かったと思っています}とまとめています。
 高樹さんは優れた店舗経営者として素質を持った方であります。すべての加盟店が、このようにハッピーエンドを迎える訳ではありません。
 FCは決して成功を約束するシステムではありません。加盟店が必死に努力し、本部も全智全能を尽くして、初めて成り立つ仕組みであります。FCに対する過大な期待(甘い期待)は禁物でありますが、自力で事業を始めるよりは成功の可能性が高いとされます。しかし、それも本部選択に掛かっています。是非、加盟店を最低10店は回って、本部の力量や誠意、将来性を考えて加盟を決意してください。

Ⅶ 最後に

 筆者は加盟店を担当するSVを、こよなく愛しております。きつい仕事でありますが、十分遣り甲斐のある仕事であります。直営店の店長の延長線上のみでは、解決できない出来事が山ほどあります。 貴方に、加盟店の皆さんが求めていることは、「売上高の確保と、投資した資金に見合う利益の確保」であります。
 契約書では、本部は加盟店に対して売上高も利益も保証しておりません。しかし、大金を投じて加盟された加盟店は、当然「売上高の確保と利益」を貴方に求めます。
 勿論、1SVが「売上高の確保と利益」を実現できるほど甘い現状ではありません。是非、コーディネーションの機能を利用して、本部を巻き込んで加盟店の幸せ実現のために頑張ってください。本部経営者の皆様も、すべてSV任せにしないで、加盟店の不振は本部の責任と考え、加盟店繁栄のために努力を傾注してください。
 これを読まれたSVの皆さん、1人で苦しんでいないで、是非私にメールを下さい。ささやかな経験ですが、お力になれれば幸せです。

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