フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

アメリカにはスーパーバイザーという職能名称はないか?

Ⅰ スーパーバイザーという職能名称はアメリカには存在しないのか?

 「商業界8月号別冊」(1890円)が発売された。テーマは「フランチャイズで成功する」で、正にフランチャイジーに加盟して、成功するための要因を各方面から分析した雑誌であり、一読の価値はある。
 この特集号の中で異色の文章を発見した。フランコープジャパン代表取締役・池田安弘氏の「こんなに違う日米FCシステム」である。
 フランチャイズ市場の格差(日本の5倍)から、米国のフランチャイズ本部の生産性の高さを論じている。最後に「サポートシステム」の項で、池田氏は「一人の担当者が、複数の州を担当するのが普通になっており、これを合理的に実施するためにIT活用が進んでいる。」として、IT活用の具体例を説明している。
 この「一人の担当者」に括弧を付けて、(残念ながらスーパーバイザーという職能名称がアメリカには存在しない)と述べられている。
 事実、筆者もアメリカで発行された文献(邦訳のあるもの)を読んでも、確かにスーパーバイザーという職能名称は、ここ20年ほど見たことがない。
 フランチャイズ発祥の地、アメリカでは「スーパーバイザー」の名称は無いのであろうか。

Ⅱ 80年代まで、アメリカにも「スーパーバイザー」という職能名称はあった。

 筆者は、アメリカ式フランチャイズを73年から74年に掛けて、トーマス・サカモト氏から学んだ。
  トーマス・サカモト氏は1926年、米国生まれの日系アメリカ人であり、青年時に日本へ留学して熊本商大を卒業。共同通信社を経て、熊本日日新聞記者となる。その後、出生地のアメリカに帰り、カリホルニャ大学で新聞学を専攻した。
  1963年、ロスアンゼルスのコーリンズ・フード・インターナショナル社に入社して、同社のケンタッキー・フライド・チキン部門を担当した。1970年3月ケンタッキー・フライド・チキンの日本上陸に際して同社から派遣されて来日した。
  その後経営コンサルタントとして独立。トーマス・サカモト・アンド・アソシエーションを設立した。
 当時、アメリカのフランチャイズの実務についての第一人者であったと思う。 トーマス・サカモト氏は1971年(昭和46年)5月から、72年(昭和47年)7月までの1年2カ月にわたり、日経流通新聞に「フランチャイズ入門」というコラムを連載した。この「コラム」は、当時話題を呼び、川越憲治先生(弁護士)も熱心に愛読され、アメリカ式フランチャイズを学んだものだと、「トーマス・サカモト氏を偲ぶ会」で述べられたことは、まだ昨日のことのように覚えている。
 この「フランチャイズ入門」というコラムに加筆、追記して出来上がった本が「フランチャイズ・チェーン」(日本経済新聞社刊、昭和48年2月17日初版)である。この本は良く売れて、筆者の手元にある本は昭和54年5月版で、4版3刷になっているので、当時のベストセラーであろう。
 アメリカ発のフランチャイズ入門であるから、当然伝統的フランチャイズもフランチャイズの中に包含されており、その意味でも古典的名著である。初版以来40年近い歳月を経ているので、今では古本屋でも入手は困難であろう。 この「フランチャイズ・チェーン」には随所にスーパーバイザーの名称が用いられている。すべて引用する訳にはいかないので第4章 「フランチャイズ企業の運営」の第6項「継続指導」を中心に引用して説明する。
 トーマス・サカモト氏は、「フランチャイザーがフランチャイジーの提供するサービスの内容は、以下の二つの種類に区別して考える必要がある」として、 一つは「イニシアルサービス」であり、もう一つは「継続サービス」と呼ばれるものであるとしている。
 継続サービスの内容として、「①地域担当スーパーバイザーによる定期的な加盟店訪問指導、②マーチャンダイジングと販売促進のプロモーション活動、③従業員に対する継続的な研修の実施、④品質管理の点検制度、⑤全国、地方的な宣伝キャンペーン、⑥一括購買システム、⑦マーケットデータ処理システムおよび管理方法の設定、⑧帳簿記載法の指導監督、⑨加盟店の福祉システムの開発など9項目にわたる」と、詳細に述べている。  明らかに、継続的サービスの筆頭に、地域担当“スーパーバイザー”による定期的な加盟店訪問指導を揚げている。 トマス・サカモト氏自身も“スーパーバイザー”を経験がしたことがあり、その経験に則って「営業分析表」の作り方を指導してもらったことがある。(同著116,117P)
 第6項の「継続的指導」の中に「スーパーバイザー」という一項目を置いて、スーパーバイザーの重要性について述べている。最後の部分で、トーマス・サカモト氏は次の言葉で結んでいる。
「フランチャイズ・システムの最大のポイントは加盟店の管理をいかに展開するかに有ると言っても言いすぎではない。そして、どのようにシステムがすぐれていても、そのシステムを運用するのは人間である。その意味からシステムの最前線にあるスーパーバイザーにいかに優秀な人材を確保するかが、フランチャイズの成否を決めるといえるだろう」
  ほぼ、日本フランチャイズチェーン協会の「スーパーバイザー」と同じ位置づけであり、アメリカ直輸入の「スーパーバイザー」であることが分かる。
 但し、トーマス・サカモト氏はあまり意識しないで、随所に「フィールドスーパーバイザー」という単語も用いている。
 ひょっとすると、「スーパーバイザー」ではなく、「フィールドスーパーバイザー」が、一般的な使用名称かもしれない。セブンーイレブン・ジャオパン社では「オペレーション・フィールド・カウンセラー」(OFC)という役職名で、当初からスタートしている。
  しかし、少なくとも1970年(アメリカから滔々とフランチャイズシステムが日本に導入された時代)から1980年頃までは、アメリカでも「スーパーバイザー」「フィールドスーパーバイザー」という職能名称が用いられていたことは間違いない。

Ⅲ 「ハーバードのフランチャイズ組織論」にはどんな名称が使用されているか

 ジェフリーL.ブラダック著(河野昭三監訳)の「ハーバードのフランチャイズ組織論」では、どのような名称が用いられているのであろうか? 第3章「チェーン組織の構成要素:直営方式とフランチャイズ方式」に詳しく論じられているので、適宜引用して考えてみたい。
 第3章の冒頭で、次のように述べている。{フランチャイズ部門と直営部門に配置されたチェーン組織本部所属の現場担当者の職務記述書を見ると、それぞれ「フランチャイズ・コンサルタント(franchise consultants)」と「エリア・マネージャー(area managers)」となっており、このことはまさしく、直営方式とフランチャイズ方式において対照的な管理戦略が用いられていることを示していた。すなわち、エリア・マネージャーは会社従業員を「管理(managed)」 し、フランチャイズ・コンサルタントはフランチャイジーと「協働(worked with)」していたのである。}
 この文章によれば、直営店を担当するスーパーバイザーは「エリア・マネージャー」、フランチャイジーを担当するスーパーバイザーは「フランチャイズ・コンサルタント」と呼ばれているようである。
 直営店のエリア・マネージャーとフランチャイズ・コンサルタントの担当する店舗数について、興味のある表が示されている。

表―1  チェーン組織本部フィールド・スタッフの管理スパン

会社名
フランチャイズ・コンサルタント
直営店のエリア・マネージャー
 
フランチャイジー数
フランチャイズ
店舗数
直営
店舗数
KFC社
15
90
ピザ・ハット社
175
ハーディーズ社
35
ジャック・イン・ザ・ ボックス社
45

 明らかに、「フランチャイズ店舗の管理スパンは、直営店のそれよりも広くなっている。」その理由として、{KFC社のフランチャイズ・コンサルタントであるPaulHeadley氏は「説得の対象はフランチャイジーたちであって、彼らの店舗ではない」と述べていた。直営方式と比べて、フランチャイズ方式では管理スパンが広くなるのは、多店舗所有のフランチャイジーたちが、直営方式と同じ管理構造を採用している結果であった。}と述べている。
 換言すれば、直営店のエリアマネージャーの仕事は店舗に対する指揮・命令であるのに対して、フランチャイズ・コンサルタントの仕事はフランチャイジーと協働(WORK WITH)することであり、個々の店舗には訪問しないのである。
 それにしても、直営店の管轄店舗数(平均7店舗)と、フランチャイズの管轄店舗数(平均86店舗)との差は大きすぎる。
KFC社のフランチャイズ・コンサルタントの言葉を正直に計算してみると、平均フランチャイジー数10社となり、フランチャイズ・オーナーとのみ接触すれば良いと解するならば、合理的管理スパンと言えるかもしれない。

表―2  管理組織の差
直営店の管理組織 フランチャイズ店の管理組織
直営事業部長 フランチャイズ店事業部長
 
ディストリクトマネージャー  
 
リージョナルマネージャー  
フランチャイズ・コンサルタント
エリア・マネージャー  
 
店舗マネージャー  
*原著の一部を、直営事業部長、フランチャイズ事業部長に変更した。

 この表から、明らかな通り、「フランチャイズ・コンサルタント」の社内位置づけは、直営部門の「エリア・マネージャー」より上、「リージョナルマネージャー」より下である。さしづめ、日本の職位で言うならば、課長、もしくは次長ということになり、日本のSVの社内位置づけとは異なる。
 また、フランチャイジーのオーナーとの接触のみで、店舗指導はしないとなると、仕事の内容も、日本のSVとは明らかに違う。
 日本のSVに匹敵する、役職は、今のアメリカのフランチャイズには無くなったのであろうか。
 ここで、今一つ興味のあるデータを示そう。(同著 78P)

表―3  フランチャイズ方式に関する数値データ
会社名 フランチャイズ店舗数 フランチャイジー数 フランチャイジー所有の平均店舗数 最大規模
フランチャイ ジーの店舗 数
全店舗の
半分を
何%のフラ
ンチャイジ
ーが所有
するか
全店舗の
半分を何
人のフラン
チャイジー
が所有する か
1店舗のみ を所有する フランチャ イジー数
KFC社 3,592 178 4.6 270 11 17 350
ピザ・ハット社 2,984 149 20.0 339 29 18
ハーディーズ社 2,058 250 8.2 432 88
ジャック・イン・ザ・ボックス社 320 120 2.7 30 16 19 51
F社 360 16 22.5 100 19

 1店舗のみの加盟店は結構ある。
 ケンタッキー・フライド・チキン社では350店舗、ピザ・ハット社では18店舗、ハーディーズ社では88店舗、J社は51店舗である。
 オーナーにのみ接触すれば良いとしても,KFC社では350名の1店舗オーナーがいる。ハーディーズ社では88名の1店舗オーナーがいる。ジャック・イン・ザ・ボックス社では51名の1店舗オーナーがいる。これらを、すべて「フランチャイズ・コンサルタント」が接触しているとは、考え難い。やはり、 「フランチャイズ・コンサルタント」とは異なる職分があると考えるのが妥当ではないだろうか。

Ⅳ 「マクドナルド・わが豊饒の人材」では、どのように記述されているか

 やや古くなるが、ダイヤモンド社刊「マクドナルド・わが豊饒の人材」(ジョン・F・ラブ著 徳岡孝夫訳、昭和62年3月5日初版)には、次のような記述がある。
{ターナー(2代目社長)は「現場評価一覧表(案)」を作って、レイ・クロックに提出した。(中略)ターナーがこの一覧表を使って最初の店を評価した結果は、ドライブイン経営に関する最も詳細、完璧な報告書といえるものだった。(中略)その次の現場報告書から、ターナーはABCDFの5段階(F=ファイアー、つまりクビにするの意。この評価が下がると即ライセンスを取り上げられる)に分けて各店を採点することにした。}
{1950年代の後半期には、各店舗の評価を行う現場コンサルタントが置かれた。これは最初のうちは店の検査員ではなく、経営者の相談役として従業員教育、開店準備、地域の納入業者の斡旋、営業の向上、販売計画などを助ける役目だった。しかし、本社の他の部門がそうした個々の相談を引き受けるようになるにつれ、各店舗が営業基準に従っているかどうかを検閲するスペシャリストになっていった。1960年代の中ごろには、ターナーの採点表を参考に各経営者に店の増設を許可するか否かを決めるようになったので、現場コンサルタントは生殺与奪の権を持つことになった。このポストを経験しなければ、本社内でのライン昇進も覚束なくなった。現在(1986年)、マクドナルドには約300人の現場コンサルタントがいる。1人が18店を受け持ち、年に4回、各店を回って評価を出している。}
  この記述から明らかな通り、スーパーバイザーの職務(名称はともあれ、経営相談等の実務)は、現場コンサルタントから、本部の他の部門が担当するようになり、現場コンサルタントは、検閲者として、加盟社の複数出店化について、生殺与奪の権利を持つに到った経緯が分かる。
 即ち、SVは経営者の相談役、従業員の教育、開店準備、地域の納入業者の斡旋、営業の向上、販売計画などを助ける役目となり、現場コンサルタントとは、別の役職となったのであると推察される。

Ⅴ 「フランチャイズ・アドバンテージ」はどのように記述しているか

 ダイヤモンド社刊「フランチャイズ・アドバンテージ・FCビジネス立上げの極意」(ドナルド・D・ボロイアン、パトリック・J・ボロイアン共著、木原健一郎監修)では、どのように記述されているであろうか。
 ちなみに、2人の著者は親子で父は、アメリカ・フランコープ社の設立者、子は現フランコープの社長(1987年現在)であり、池田安弘氏が社長を勤めるフランコープ・ジャパンの親会社である。

 「フランチャイズ・アドバンテージ」の第10章「チャイザーとチャイジーの関係」の第2項「システムの充実運営」において、次のように述べられている。{フランチャイズの販売というのは比較的容易な仕事であると言ってよい。むしろ問題なのは、システムを実際に運営していく作業である。まず第一に適正なチャイジーを選考しなければならないし、次いで細部にわたってのトレーニング、指示・監督・サポートが必須となる。(中略)フランチャイズ・オーナーは常にチャイジーの支援要求に応じられるポジションにいなければならない。また、現場でユニットの立地選定、リース交渉、機器・備品の購入、在庫の品揃え、開店イベント、販売促進活動について新米チャイジーの不備を補い、バックアップする必要がある。(中略)}
 {チャイジーが販売の仕事になれ、顧客との間に一定の交流が生まれ始めると、そしてユニットの経営とはどのようなものであるかがある程度分かってくると、彼らはもはや親鳥の100%身を守られたヒナ鳥ではない。フランチャイズ・オーナーも、親身のコンサルタント、先輩パートナーといった立場に身をひくほうがよい。その一方で、事前に決められた支援プログラムの実施に入っていく必要がある。開店当初はできる限りオーナー自身が出向き、強力なバックアップを行う。その後は特定の監督・支援担当者による巡回指導を行う。などである。販売帳簿のチェックと共に、ロイヤルティに関する点検も必要である。巡回指導員は、ユニットに顔を出すたびに帳簿、報告書類を点検し、仕入れ商品コスト、労務費、その他経営関連コストに目を通し、実情把握に努めることになる。
 一定の基礎が出来上がったフランチャイズ・システムの場合。巡回指導員は10軒から25軒程度のユニットを担当するのが普通となっている。}
 この巡回指導員こそ、日本のSVと同じ実態ではないだろうか?確かに、スーパーバイザー(SV)という名称は消えているが、同じ機能を果たす巡回指導員は、現在まで機能しているのではないだろうか。

Ⅵ 日本の実務者の意見

 日本の実務者の意見を伺ってみた。
1人は、中小企業診断協会東京支部副支部長の杉本収氏である。杉本氏は、フランチャイズ研究については、わが国の権威であり、かつ米国でコンビニ経営を自ら行い、米国永住権を持つ、日米のフランチャイズに詳しい研究者である。
 杉本氏によれば、「スーパーバイザーという職能名称は、現在も存続しており、その役割及び権限は日本と相当違いがあって、かなり強い権限を持っており、場合によっては店舗の一時営業停止命令も出せるそうである。
 なお、チェーンによって呼称は違っているかもしれないが、あくまでも一般名称はスーパーバイザーであると理解している」とのことである。
 「また、日本のSVのように加盟店を月何回か訪問して、指導する仕組みは存在する。これがFC本部の基本的役割と考えている。直近の動向は分からないが、全てITによる指導を行っている本部はあまり多くないのではないか」との意向であった。
 もう一人は元日本フランチャイズチェーン協会の職員であった岸田弘氏である。岸田氏は、(社)日本フランチャイズチェーン協会が1995年に「スーパーバイザー士」の資格認定を始めたときの実務担当者であり、フランチャイズに関する著作も多く、特に「スーパーバイザー」につての見識は高い。
 岸田氏によれば、アメリカ人の口から「フランチャイズ・コンサルタント」「オペレーション・フィールド・カウンセラー」「スーパーバイザー」という言葉が出ることは多く、「スーパーバイザー」が死語になっているかどうかについては、不知とのことであった。
 岸田氏は、更に{フランチャイズ・ビジネスについては、いまやアメリカを踏襲する必要はないと思う。狩猟民族と農耕民族の違いがある。つまり、アメリカは「フランチャイズ・パッケージ」をセールスするといい、日本ではリクルートするということである。「お客様あっての加盟店、加盟店あっての本部」という日本文化はアメリカ人には理解できない。従って、日本のフランチャイズ本部は「スーパーバイザー」「オペレーション・フィールド・カウンセラー」を日本流に定義して使用していると思う。フランチャイズについては、日本はアメリカに学び、日本の文化として成長したのではないかと考えられる。}と述べられた。
 両大家の意見は、必ずしも一致していないが、いずれにせよ「スーパーバイザー」的機能は、フランチャイズ本部に欠かせない基本的機能であり、その機能がIT化して、人間はあまり必要無いということには、否定的見解であった。
 筆者も、ほぼ両大家の意見と同一であり、「スーパーバイザー的」機能は、フランチャイズ本部の基本的機能であり、単純にITに置き換えることは出来ない機能であり、「フェース・ツー・フェース」の関係は何時の時代でも重要な機能であると理解している。
 しかし、同時に、店舗数の拡大につれてSVの人数を増加させることについては、SVの将来的処遇と言う意味で、極めて大きな問題であり、ITに置き換える部分があるならば、IT化することに反対するものではない。

本文の無断引用は禁止いたします