フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

FC加盟の成功者を詳細分析する(その2)

 前号に引き続き、鈴木敏平氏(風〃ラーメン8店舗を埼玉県内で展開する複数出店者の代表者,年商6億円)の記事を書く。

Ⅰ 資金を作る

 オーナーとの出会いは2001年7月である。「飲食店経営」に連載する「FC加盟店の成功者たち」を取材する目的で、北九州に本部のある「リズム食品」に加盟店紹介を依頼したところ、埼玉県志木市に本店を置く、(有)パートナーを紹介された。当時、私の担当であった砂田記者と志木柏店を訪問し、オーナーと面談した。
 面会初回から、オーナーの逸材振りには驚かされた。まず、フランチャイズ加盟の資金作りであるが、1号店は自己資金と埼玉県の制度融資でまかなったが、2000年50歳の独立であるにも関わらず、2001年7月には、富士見野店、朝霞北口店、志木南口店と4店舗に拡大していた。
 独立から1年程度の間に、4店舗の展開である。その資金作りに興味を持ち、徹底的に資金作りの過程を聞き出した。1店舗2千万円としても、6千万円の大金を1年程の期間に作り出すことは常識では考えられないスピードであった。
 4店舗の売上高は年商3億6千万円に達しているので、地方銀行、信用金庫ならば、資金を貸すことも考えられたが、2001年頃は、銀行の不良債権を一掃するために、竹中大臣が、都市銀行の不良債権比率を2%以下に縮小するよう強権を発動しており、大銀行の貸し渋りは頂点の時代であった。
 貸し渋りは、都市銀行のみではなく、庶民の味方である筈の信用金庫や地方銀行すら、融資をためらう時代であった。このような時代背景の中で、オーナーはどのような資金作りをしたのであろうか。ここから先が逸材と呼ぶ由縁である。
 オーナーは店舗開店の都度、友人から金利5%の約束で借入れをしていた。友人から引き続いてこれだけの借入れを起す力は、正にオーナーの個人信用力である。
 銀行へは毎日、売上高を入金し、パートナーの販売力は計算できたにも関わらず、毎回都市銀行の支店長に借入れを申し込んでも、不動産担保を持たない人には貸せないという態度で一貫していたそうである。
 この都市銀行(現在はその行名も消えてしまった)の融資態度に不審を持った筆者は、FCに対するファイナンスを広範囲に調査をしてみた。殆どの銀行は不動産担保至上主義であり、ビジネスモデルなり、そのFC加盟店の社長の経営力を審査する能力も意思もなく、不動産担保か、本部保証が付かなければ融資しないのが基本姿勢であった。
 筆者は、調査書の中で、「極言すれば銀行はフランチャイズというビジネスモデルを理解していない。不勉強も甚だしい」とまで,罵っている。その勢いは連載第21回の「FC加盟店の成功者たち」の文章にも随所に現れており、オーナーは、記事が掲載された「飲食店経営」2001年9月号を持参して、当該銀行の支店長にその記事を見せ、「フランチャイズに対する理解がまるで無い。これでは銀行業の先行きは暗いのではないか」と、述べたそうである。
 「時代が違う」と言えばそれまでであるが、銀行に融資の主体性がないことが、今日の都市銀行の大合併、メガバンク化への歩みになったのではないかと考える。
 今でも、将来独立を考える人は、「給与振込銀行は、絶対メガバンクにしてはならない。必ず地方銀行か信用金庫にしなさい。メガバンクは独立の際には、絶対に力にならない。成功して、年商5~10億円になるとすりより、猫撫で声で融資の話を持ち込む。万一何かの事故があった場合に、親身になって世話をするのは、信用金庫か地方銀行だよ」と、筆者は語り続けている。

Ⅱ 従業員に夢がない 夢を持たせることが私の仕事

 1号店を開店(2000年6月)に当り、「明るく、元気で夢のある人」と題して募集を開始したところ、多数のアルバイト(若者)の応募があった。(2000年頃は就職氷河期と言われ、若年層の失業率は10%に迫り、ヨーロッパ並みの失業者が巷に溢れていた)驚いたことに「夢」を持って人が一人もいなかった。京都のサンクラブで「心の勉強」をしたオーナーは、そこで「想念実現」(思ったことは実現する)という言葉を思い出したが、若いアルバイト希望者に「思い」(将来に対する夢、希望)がない。これでは次世代が駄目になってしまう。若い人に夢を与えることが自分の使命であり、この使命を実現しないと、日本の国は大変なことになると考え,従業員に夢,希望を語らせ、持たせることに全力をささげることにした。
 今から6年前の体験であるが、非常に大きな衝撃を受け、何とも素晴らしい人材育成方法ではないかと感激した。(「飲食店経営」2001年9月号参照)
 オーナーの「夢を持たせる」という仕事は、現在も続いている。2007年9月10日に面談して、取材を行ったが、「人生目標を紙に書いてもらう」という形で、次のような事例を見せてもらった。
Y君の夢    2007年8月9日
30歳     ハリアー(車)に乗る
35歳     課長、年収1千万円
40歳    5千万円で、庭付き1戸建てに住む
 オーナーは、「若い人たちの育った環境が違う。私たちの世代と比較するとハングリー精神がない。私たち(団塊の世代)は、ハングリーに育った。現在の親は、子供に十分な事をしている。社会の構造も変わった。夢の無い人には行動力がない。オーナーとして一番大事な仕事は、従業員に夢を持たせ、夢を紙に書いてもらって、その夢の実現に向けて、一人ひとりに考えさせることが大事である。そうすれば、アルバイトとも、夢、希望について語りあうことができる。」と語った。それは6年前と変わらず、むしろ進化していることが判る。 (2001年9月号の「飲食店経営」9月号には「SVの声」として岡本慶大氏(現リズム食品代表取締役社長の、次の文章を掲載している。)
  「鈴木敏平オーナーが成功した要因は、当チェーンの理念と独自の教育システムをよく理解されている点です。また、店舗運営、販促活動や自社の教育について、常に創意工夫されており、良い企画を次々に本部に提案していただくなど、自社のことだけではなくチェーン全体、さらには出店地域全体のことを前向きに考え、行動するところです。その人柄が、従業員、顧客も含め多くの人から人望を集め、その結果、飲食店として異例ともいうべき経営成績を記録し続けているのだと思います」

Ⅲ 社員独立支援制度

 オーナーの夢は風〃ラーメンを10店舗に増やすと同時に、10名の社員を独立させ、社長を作ることである。具体策は計数管理とマネジメントが出来る人材を育成して、貯金を貯めさせることである。ご承知のように、誰でも貯金をすることの困難なことである。
 (有)パートナーは社員の貯金作りを次にような形で支援している。まず、100万円までは種金として貯金する。貯まった100万円を会社に預ければ、会社は5%の金利を付けて回す。わずか、300万円の資本金の会社に虎の子の100万年を預ける人がいるだろうか?それがいる。結構、大勢の社員が、会社に100万円単位の貯金をしている。これは、オーナーに対する絶大な信用であり、信頼すればこそ、銀行では無く、(有)パートナーに預けるのである。 100万円から始まり、逐次100万円単位で貯金が増加する。社員にとっては、5%の金利は有り難い。銀行金利は、定期預金にしても1%に満たない。それを会社に預ければ、5%の金利が付く。従業員にとっては、銀行以上に鈴木オーナーの方が信用できるのである。
 貯金が500万円貯まったら、今度は会社が500万円まで、金利5%で貸し出す。合計1千万円の(自己)資金が貯まったら、国民金融公庫でも、地方自治体でも、自己資金と同額までは貸してくれる。
 2千万円の資金が用意できれば、リース、割賦等の方法を利用すれば、3千万円以上の金策ができる。
 ここでも、オーナーは500万円を貯金した人に、500万円を貸し出すことにいささかの不安も感じていない。せっせと貯金をして独立を目指す人に裏切られる筈はないと言う善意が、オーナーのすべての行為を支えている。
 大金を会社に預ける社員の信頼と、500万円を無担保で貸し出すオーナーの社員に対する信頼が生み出した、相互信頼の環が、この独立支援制度の鍵である。
 しかも、独立には特段の条件は付いていない。飲食業でもサービス業でも小売業でも良い。特定のフランチオャイズ加盟を条件付けているわけではない。 社員の希望する業種・業態を選んでよい。仕事中に、自分で新業態を生み出したら、それはすべて無条件で利用してよい。
 凡そ、飲食業に働く社員の半数は独立希望であると言われている。大手フランチャイズには、社員独立制度を持っている事例は多い。例えば、大庄の事業組合制度、ココ一番屋のブルームシステム等は著名である。しかし、考えてみれば、すべて自社のブランドに加盟した場合にのみ融資する制度であり、社員の希望する業種・業態に融資する事例は聞いたことがない。極論するならば、社員独立制度とは、自社の加盟店増加政策にすぎない。
 それに比較すると、(有)パートナーの独立支援制度は、世にも稀な自由裁量があり、全く従業員の夢実現のための制度である。これほど、徹底して社員の独立を支援する会社が、どこにあるだろうか?
 社員独立の際の最大の課題は1号店の資金作りである。この資金の都合が付けることが独立の最大の課題である。1号店が順調に軌道に乗れば、2号店以降の資金作りは、比較に成らないほど楽になる。
  この制度を利用して埼玉県で風〃ラーメンで独立したY君がいる。資本金僅か300万円の会社で、このような支援制度を作り、独立社員が2名もいる。名目だけではなく、実績のある独立支援制度である。
 飲食業が、働く人にとって魅力ある職場になるためには、このように独立の際に必要となる計数管理やマネンジメント能力(その1、成果給を得る過程で身に付く)を付けさせ、かつ1号店の資金作りの具体策を実行してくれる会社にすることである。(「飲食店経営」2007年11月号参照)
 少子高齢化社会の到来により、若手従業員の採用は、かってない苦しい状態である。独立させれば、人手が足りなくなると心配する声もある。しかし、心配は無用である。独立を積極的に支援する制度があれば、若い人は集まる。 人手に苦しむのは、働く人の真の声を聞けないオーナーのみではないか?

 

やりようによっては、面白い時代である。(以下その3へ)

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