フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

FC加盟の成功者をの詳細分析する(その3) フランチャイズ時評

 鈴木敏平氏(風〃ラーメン8店舗のオーナー)は、スズ・ナビと名づけるシステムを自己開発して活用している。(「飲食店経営」02年11月号に「情報システムで日々向上」で紹介している)飲食業は一般的に情報システムの活用が遅れている。しかも有効に活用している企業は一部の大手に限定されており、中小の飲食企業で情報システムを生かし切っている事例は少ない。

 風〃ラーメン8店舗、年商6億円という規模に達しながら、社員は6名、P/Aは約100人でも、事務員は1名もいない。これは、オーナーが現場で開発した経営管理用のスズ・ナビ・システムの成果によるものである。

Ⅰ スズナビ・システムの開発のいきさつ

 このスズ・ナビ・システムを開発したキッカケは、兄の経営する焼肉店の責任者をしていた20年前に遡る。オーナーによれば、「兄の焼肉店に勤務していたころ頻繁に会議を行っていたのですが、その内容は数値分析(売上や利益の詰め、経費の削減等)が主であり、その数字を基にした戦略を話し合う場面では参加者は疲れてしまい、今後の方向付けをしないまま散会する会議に終始していたのです。そのため店長を店から集めること自体にメリットがないと感じていたのです」
  しかし焼肉店の社長(鈴木氏の兄)は、会議熱心で、営業が終了する20時以降に会議を開き、店舗の数値の説明と、それに対する釈明ばかりであった。兄の会社の事務所では、女子事務員を2名置いて、ソロバンによる数字の集計、分析が行われていた。そこで、これらの会議により議論される内容や、事務関連などはコンピューターを活用することが効率化が図れるのではないかと考えた。
  オーナーは1987年に自分のお金で東芝製のパソコンを60万円で購入して、経営数値は会議をしなくても計算でき、かつ帳票もパソコンで作れることを証明したが、経営者である兄は自分流儀で会議を進めた。
 会議は数値の説明や、言い訳ではなく、将来戦略を語る場にしたいとするオーナーの気持ちは通じず、従来通りの会議の連続であった。
  オーナーは10年間、焼肉店(4店舗)の責任者として勤務した後、99年7月に独立して風〃ラーメンの加盟店となった。(その1で「独立は2000年」とした99年の誤りであった)オープン後は忙しかったが、3ケ月程度で落着き、改めてPCによる店舗経営管理を行う必要があると感じた。
 コンピユーターシステムに対する気後れは無かった。(その1)で述べた通り、 オーナーは入社直後、夜学で東京電子専門学校でコンピューター(現実はIBMの大型パンチャー)の勉強をしており、その後商業界の鈴木一男エルダーに飲食業や、商業に関する計数管理の教育を受けており、経営の実態をプログラムに書き換えて、管理することにはいささかの不安も心配も無かった。スズ・ナビ・システムは飲食業の管理に特化した鈴木オーナーが作り上げたシステムであるが、命名の所以は鈴木一男エルダーの指導に対するお礼の名称である。
  当時、リズム食品(株)では、毎日手書き帳票をFAXで本部に送信する義務があったが、同じような帳票をPCで打ち出し、手書きではなくスズ・ナビによる帳票に変更をすることに同意してもらい(99年10月ごろ)、漸く自分の得意とするPCが活用できる体制になった。
 オーナーによれば、事務員をおけばコストが掛かる。更に、事務員を置いたために、その人のための無用な仕事を作ることが多い。仮に、事務員の給料を月額20万円としても2人で年間480万円、それに賞与や社会保険料、事務所経費を加算すれば、事務費コストは年間1千万円は掛かる。
 加えて、事務員を置くことで情報の鮮度が落ちる。給料計算、損益計算が出るのは、どんなに急いでも10日以降である。通常、会社はこの数字を基に会議を行うが、その数字が生かされているかというと、殆ど生かされていない。
 スズ・ナビ・システムは次来何回にも亘り、改定されているが、今回は最新のスズ・ナビ・システムを紹介する。(取材日・07年11月6日)

Ⅱ 売上高予算とその達成状況

 (有)パートナーという会社の面白い点は、事業の成否を分ける売上高予算を店長の実行予算に任せる点である。通常、どこの企業でも、売上高予算は、会社の最高意思決定であり、事実上各部門の積上げ予算でも、最終的には代表者の「ヒトコト」で、何%かのカサアゲが行われるものであり、東証一部上場企業でも、事情は同じである。
 具体的な毎月の売上高予算は、前月の曜日別売上高合計を基礎として、店長判断で売上高予算を作る。しかし、決して前年並みという予算ではなく、前年、前月に比較して必ずプラス?が加算されているようである。例えば、北朝霞店の11月6日の営業日報を見ると、日別予算262千円に対して実績は236千円で、当日の余実比は90.1%である。累計売上高予算は158万円に対して、実績は157万円であり、累計余実比は99.5%である。前年対比は累計で105.3%であり、まずまずの数字である。
 営業日報には、客数、人時売上高予算対比の当日、及び累計の結果、在庫の本日在庫と先月在庫の比較比較、粗利益比率の当日と累計の数値、帳票を書いた人のコメント、労働時間の当日及び累計(個人別)時間数など細部にわたる数値がインプットされている。
  オーナーの説明によれば、客数は7日までは前月の客単価で売上高を割って計算し、8日以降は当月の客単価で売上高を割って計算する。
 原価の確定は、毎週土曜日に実地棚卸しを行い、その週の原価を確定している。その前の1週間分は、その前の週の原価率を適用して計算する。従って、粗利益率は、ほぼ正確に毎日推計されるため、日時決算が毎日の営業時間が終了した段階で決定できる。
 お客が一人来店すると、すべての原材料の消費量が前月の数字で計算できる。だから3日前の発注目安となり、発注時点における実棚を行い、発注量を決定する。発注は、店長業務ではなく、副店長の作業である。「在庫は0.8日分で済む」というオーナーの説明には驚くばかりである。0.8日をクリアーすれば、店長に5千円、副店長に2千円に成果給が支給される。
 店長は発注業務という日常業務に煩わされることなく、店長業務に専念できる。繰り返しやる仕事は標準化するというオーナーの意思が明確に示されている。

Ⅱ  労働時間管理と人時売上高管理

 (有)パートナーにはタイムカードは存在しない。タイムカードがあると日字決算が出来ないそうである。毎月のワークシフト表が1ケ月分店長が作成して掲示する。そのシフト表の作り方が独特である。前月の曜日別平均シフトを貼り付けて、店長は微調整を行って完成する。そのシフト表は、一般の企業であると、何時から何時までの勤務を指示する線で示されるものであるが、当社では30分単位の記号で示される。■は接客、●は麺場、★は洗い場、◆は仕込み、☆はトイレチェック等、30分単位の勤務指示と業務指示を示す。
 すべて指示通り動くわけではなく、中には欠勤、勤務替え等が発生する。その場合、従業員は指示マークに対して異なった勤務をした場合は×を打って、変更を示し、最終的にこの変更されたワークシフト表が給料計算の基礎となって社労士の手に渡る。社労士は毎月5日に来て、この決定版シフト表をもらい、給料振込の手続きまでしてくれる。給料明細書には30分単位の勤務明細が入るので、間違いのクレームはない。
 ワークシフト表は、前月までのシフト表で曜日別シフト表のパターンを予め作り、細部は店長に任せる。店長は人時売上高(売上高/ 総労働時間数)予算を達成でき、かつ接客に問題が生じないないようにワークシフト表を完成して掲示する。決まった時間はP/Aに管理してもらう。P/Aは1ケ月間の労働時間が確保され、シフト減少の不安はなくなる。
 人時売上高は当社の管理の一切の基本であり、店長に対する日報には「シフトの管理は店長の大事な仕事です。曜日別、時間帯別売上データを参考にキメ細かく組むこと」と書かれており、例えば11月4日のW店長の日報には、当日の人時売上高が4550円であり、P/Aの当日時間数とワークシフト表、累計時間数が明示されている。
 人時売上高は昨年の10月依頼、一貫して上昇しており、生産性が向上していることが一目で分かる。この人時売上高が1年間以上にわたり、上昇している事例は飲食業では極めて珍しい現象である。
 筆者は飲食業界の生産性(この場合、人時売上高で代替している)を、この8年間注目し続けているが、生産性の上昇は殆ど見られない。今国会で最低賃金法の改正が見込まれている。民主党のマニフェストによれば、最低賃金は全国平均で1千円に引き上げるとしている。2~3年後には、参院第一党の民主党のマニフェストが実現されるであろう。全国平均の最低賃金を1千円に引き上げた場合に、どれだけの飲食店やコンビニが経営続行に耐えられるか、大きな不安を感ずる。
 飲食業のオーナーは、人時売上高をどのように引き上げ、最低賃金が1千円に引き上げられても生き残れる体制を今すぐ構築する必要がある。

Ⅲ 粗利益率管理

 当社の全店舗の粗利益率の最低は67%と定めた。換言すれば原価率33%以上の店舗は評価の対象にしないのであり、これに連れて、成果給の支払い方法も変更した。(その1参照)
 即ち、粗利益率67%をクリアーして1ポイント、上位2店舗には更に1ポイント追加されて、2ポイントとなり、店長は、翌月2万円の成果給が支給される。

Ⅳ 原材料の単品管理

 オーナーはある飲食店の店長から「売上高は上がっているが、利益が出ないのは何故か」という質問を受け、現場調査をしてみたら原価率が異常に高く、ロス率が高いのが利益の出ない原因であることが分かった。
 以来、自社の店舗でも原材料の単品管理に注目するようになった。単品管理というと、コンビニ経営の専門用語と思い勝ちであるが、飲食業における単品管理とは、原材料の日々の管理であり、原材料在庫の理論値と実地棚卸しの差異を最小に抑える手法である。
 メニュー基準値(メニューを横軸に、原材料を縦軸に取り、1メニュー毎の原材料消費量を一覧表に現す)に出皿数を掛ければ、原材料の理論使用量が出る。(在庫+入庫量―理論使用量)が、実際の棚卸しから計算される使用量と差異が出る場合は、ロスが出たことになる。本来、理論値と実際値は一致すべきであるが、一致しないと言うことは、廃棄、量りこみ、量目不足、不正、私用等の原因が考えられる。特別過剰に使用された原材料はマークを付ける。
 これを徹底すれば、不祥事は事前に防ぐことが出来て、従業員に対する牽制になり、差異は激減する。
  この単品管理の実施により、理論値と実際原価率の差異は極小にまで縮小され、長年の経営課題が解決された。

Ⅴ 入力

 コンピューターによる管理をすると、入力が問題になる。当社の営業日報から入力の必要な部分を示すと次の通りである。
  まず、店舗別売上高、客数、客単価、時間帯別売上高、メニューの出皿数は、毎日の営業時間が終了したら、レジのジャーナルからインプットする。ジャーナルと同じ順番なので、間違いは少ない。次に、原材料の発注は、発注と同時に営業日報にインプットされる。発注は3日後に入荷されるが、入荷日に発注量と納入量をチェックすれば、簡単に誤差は発見できる。
  人手を要するのは、営業日報に書かれたコメント欄であり、ここは日報作成者の意見であり、オーナーが一番重視する場所である。1日は早番と遅番の2回のコメントが書かれる。
 その他の数値は、基本的に転記はない。ジャーナルの転記が1回あるのみで、その他の記録は、原始記録がそのまま営業日報や給料計算、給与明細票につながるように工夫されている。転記すれば、誤りの元であり、余分な時間が掛かるので、原始記録がそのまま、最終帳票につながるように考えてある。
 だから、ラーメン店8店舗、年商6億円でも、事務員0、事務所無しで済むのである。

Ⅵ スズ・ナビの未来像

 飲食業の経営管理に特化したスズ・ナビ・システムの将来像はどうなるであろうか。
 ロータス・1・2・3を使用しているが、配布希望者にはUSBで書式を渡し、以後のブラッシュアップはメールによる添付ファイルで済ませることにしている。
 現在、利用しているのはSラーメン店(3店舗)であるが、利用条件は次の通りである。
① 使用料は1店舗につき、毎月1万円を支払うこと
② チャイルド・スポンサー(その1参照)になってもらうこと。(毎月4500円)
  オーナーの手に渡るのは、1店舗1万円のみであり、手間賃にもならない金額である。オーナーは「私の目標は飲食業界の発展に役立つことである」と割り切っている。スズ・ナビ・システムは刻々と変化し発展する。1ケ月振りに取材すると、相当の変化を遂げている。変化・進歩こそスズ・ナビの本質である。
 オーナーは飲食業はヒューマンビジネスであり、ヒューマンの主体はお客と従業員であると考えている。
 お客=売上高
 従業員=働く時間
であり、両者をつなぐ鍵は「人時売上高」であると考えている。 この新しい物差し「人時売上高」で図ることが、飲食業界を楽しい業界に変化させる要因になる。

Ⅶ 鈴木(オーナー)語録

 オーナーと話していると、実に多彩な言葉が飛び出す。鈴木オーナー語録として、まとめてみた。
① タイムカード不要
店長が作成したレイバーシフト表に、本人がその通り実施した場合は○、変更した場合は×を打つ。入店時にレジの両替0と打ち、本人が捺印する。時刻入りレジが毎日1人につき1枚できる。これが余裕出勤につながり、かつ監督署対策ともなる。
② ベテランと新人の違い
ベテランは情報・データを持っている。新人にはそれは無いため時給が安い。新人が情報・データを持つとベテランになる。 ベテランー新人=データ
③ データに語らせる
データは使う人が作るのが一番よい。データは現場にある。情報を活用するのも現場である。管理者ではなく、データに語らせることが一番である。
④ 日次決算が柱
月次決算は大砲であり、現状では役に立たない。税務申告のために作成。 10日に1度の決算も、現場では役に立たない。
日次決算は誘導ミサイルであり、正確な日次決算は企業経営の柱。
⑤ 指示待ち族は作らない
目標を設定したら、経営者は途中でなるべく言わない。従業員に考えさせる。 指示待ち人間は作らない。
⑥ 夢・実現
若い人に夢がなく、ボーと生きているのが心配。仕事を始める前に本人の夢を聞きだす。貯金をさせる。年利5%で預る。独立時に同額を年利5%で貸し出す。独立開業資金に使ってもらう。埼玉県のY社長の事例。
⑦繰り返してやることは合理化・標準化で利益
レイバーシフト、発注、営業報告書の作成、キャストの教育・トレーニング、繰り返してやることは合理化・標準化して時間を節約して利益につなげる。
⑧ ロス対策
どうして原価率が高いか解らないと言われた。 原材料の単品管理をしている。これによって原価率は33%に下がった。粗利益率は68%以上で1ポイント、更に上位2店舗には1ポイント加算して2ポイントとなる。店長で2ポイントは成果給2万円が翌月支払われる。
⑨ 求人対策
その地域で一番高い時給を払うこと。その為には生産性の高い仕事をする必要がある。成果給の導入によって時給は1400円に(結果として)なった。お店独自に育児補助制度、卒業クルージングを実施し、喜ばれている。働きたい人がウェイティングがかかる会社にしたい。
⑩ スズ・ナビ・システム  
オーナーは独立するとき、本当はこの仕事をしたかった。(IT関連もしくはシステム開発)今ではパソコンは10万円足らずで買えるのに活用しない。 ハードに比べてソフトが進歩していない。パソコンを活用すると利益になる。  スズ・ナビ・システムは1店舗月額1万円で利用できる。

Ⅷ 最新版成果給一覧表

 (その1)で役職別成果給一覧表を示したが、2ケ月後にはかなり変更されている。取材時の最新版を改めて示す。

役職別成果給一覧表

役  職
前年売上高
人時売上高目標
粗利益率%
エネルギー
在庫率
店  長
1万円
1万円
1万円
5千円
5千円
副店長
5千円
3千円
2千円
2千円
2千円
キャスト
時給+10円 時給+10円      
*粗利益率は68%以上で1ポイント、上位2店舗は更に1ポイント加算
*在庫率は0.8日分以下にすれば店長、副店長に支給
(鈴木敏平氏の記事を3回に分け連載したが、最後まで読んでいただき、有難うございました。特に第3回のスズ・ナビ・システムは、帳票を添付しなかったため、理解し難いと思いますが、生産性の向上を図らないと、サービス業は生き残れない時代となりました。何とか、理解をして、鈴木オーナーの実現した高い生産性を参考にしてもらいたいと思います)

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