フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

2009年フランチャイズ業界を展望する

 2009年は世界同時不況で幕を開けた。昨年の「2008年フランチャイズ業界を展望する」では、「2008年は動乱の年になる」と予測したが、予測通りアメリカの金融恐慌から実態経済の世界的悪化へと広がり、「明日も予測できない」状態となった。フランチャイズ業界を展望する前に経済、政治、社会の動向について考えてみたい。

I 経済・政治・社会の動き

1. 世界同時不況の底は見えるか

 アメリカのサブプライムローンの焦げ付きに端を発した米欧の金融不安は、昨年9月のリーマン・ブラザー社の破綻により、一挙に世界不況へと発展し、1930年代の世界恐慌を思わせる様相を呈してきた。
 グローバル化が進んだ世界が始めて体験する世界同時不況は、誰にも予測出来なかった高速度・高震度の経済調整をもたらした。

 日経平均株価は1年間で42%下落した。円相場は一時1ドル=87円台と13年振りの円高水準となった。実質GDP伸び率は▲0.8%(予想)、上場企業の経常増益率▲32%(予想)、完全失業率3.9%(11月現在)と実態経済はわずか3ケ月で一挙に悪化した。

 昨年7月に1バレル147ドルまで急騰したNY原油先物価格は12月26日の終値で1バレル37ドルに下落し、一昨年末の価格と比較しても6割も下落している。穀物価格も大幅に下落した。(日経新聞、08年12月30日)
 新日鉄会長の三村明夫氏は日経新聞の「次の世界⑤」で、次のように総括している。(日経新聞、08年12月31日)
「過去数年間、世界経済は5%の高成長を遂げ、どの地域も好景気に沸いた。米住宅バブルの崩壊は引き金に過ぎない。天井知らずの資源高など危険信号は数々あったが、途中で引き返すことができず、急激な調整になった」
 この世界同時不況への処方箋は様々な意見があるが、堺屋太一氏が経済教室で述べられた意見を参考にしてまとめてみる。(日経新聞、08年12月31日)

 「09年に残された問題は大不況からの立ち直りである。80年代からはじまった知価社会では満足の大きいことこそ幸せと考える世の中だ。先に費って、あとで返すのが利口な生き方になった。過去30年間の過剰消費体質は、この思想で積みあがったものである。この米国人の思想に重大な変化が生じた。米国の人口構造が「先に費う」年代から「あとで返す」年ごろに比重が移る。これで米国の過剰消費体質は軽減するだろう。この間に自動車産業などの規格大量生産型の製造業は決定的に整理され「まったき知価社会」が出現するに違いない。それには少なくとも3年かかる。」

 結論として、何時経済の底に到達するかは誰にも分からないが、少なくとも09年は世界経済の最悪の時期の入り口になることは間違いないようである。

2. 日本の政治は混迷する

 アメリカの大統領選挙は民主党のオバマ氏の圧勝で終わり、1月20日に共和党のブッシュ大統領からオバマ大統領に代わる。大恐慌時に登場したルーズベルト大統領のようにオバマ大統領の登板に世界中の期待が集まっている。
 一方、日本では第二次補正予算案を1月5日から始まった通常国会に提出し、冒頭から荒れ模様である。補正予算案と2009年度の予算案、関連法案の成立を俟たないと、緊急対策の手の打ちようがない。
 政策よりも政局に持ち込む日本の政治は、この世界同時不況の時代にスピード感の欠ける混迷模様である。
 いずれ9月までには衆議院総選挙が行われ、世論が示されることになる。漸く日本にも二大政党時代となり、政権交代可能な政党が生まれたことになる。
 現実に自民党か民主党かの選択になった場合、日米関係以外はそれ程大きな変化が起きる訳ではないと思う。どの政党であろうとも、早くこの政治の混迷を抜け出し、世界と対等に渉り合う政権を樹立し、世界同時不況を乗り切る政策を実行してもらいたい。

3.雇用の不安が最大の社会問題

  自動車の販売不振から自動車メーカー各社が、派遣労働者の契約打切り、非正規社員の雇い止めを始め、その動きが機械、電機など製造業全般に波及し始め、雇用問題が最大の社会問題となった。
 特に年末の寒い時期に、職場と住む場所を失った派遣労働者や、非正規労働者の失業がテレビや新聞でしばしば取り上げられ、まるで経営者を悪役とする世論が横行していることには、マスコミの責任が大きいと思う。急激な販売減、需要減で赤字になった輸出企業が雇用をそのまま維持できる訳がない。需要変動時に雇用調節を行うのは、経営者の貪欲な行動ではなく資本主義に組み込まれたシステムであり、経営者を悪役にすればそれで解決するものではない。
 これは個別企業の対応ではなく、社会としてセーフティーネットの仕組みを作り変える必要があることを示唆している。
 しかし、雇用不安が派遣社員や非正規社員のみではなく、労働組合に守られた正規社員に及ぶと、さすがに大きな社会問題になってきた。
「雇用を考える(中)」で日本総研主席研究員の山田久氏は次のように述べている。(日経新聞、1月9日)
「09年、10年度と2年連続で実質成長率がマイナス1%になった場合、10年度末までに150万人の雇用が失われる可能性がある。失業率は直近で最悪だった03年4月の5.5%より悪化し、6%台前半になる公算がある」

 このような中で「労使フォーラム」が1月8日に都内で行われた。 経団連の御手洗会長は「雇用の安定に努力すべきだと強調しており、企業は最大限の努力を注いでいただきたい」と述べた。ワークシエアリングについて、御手洗会長は「企業の中には時間外労働や所定労働時間を短くし、雇用を守る検討も出てくるかも知れない」と述べている。これに対して連合の団野久茂副事務局長も「経団連がワークシエァリングを協議したいのであれば、拒むことはしない」と語っている。ワークシエアリングとは1人当りの労働時間を減らして従業員間で仕事を分かち合う仕組みであり、欧州諸国では導入の事例があるが、日本では02年に政労使が合意文書を作成したが、一般に普及しなかった。「賃上げか雇用か」という設問を離れ、ワークシエアリングが今年の春闘の最大の話題になるだろう。(日経新聞、1月7日)

 トヨタ自動車は2,3月に追加の操業休止日を設けることについて、一部の休止日は賃金を支払わない「完全休業日」とする方向で労働組合と協議に入った。これも一種のワークシエアリングである。

4. 年金問題はどうなるか

 現在の日本が抱えている閉塞感の大きな要因は年金問題である。現在の50代以下の人たちは,果たして自分達が高齢化した場合、年金が現在の高齢者と同じように払ってもらえるかどうかに対して大きな不安を持っている。
 昨年の1月7日に日経新聞社が「基礎年金、全額消費税で」という研究報告(年金制度改革研究会)を発表した。(詳細は、「フランチャイズ市場レポート」08年1月号参照)
 この基礎年金(厚生、共済年金受給者の基礎部分を含む国民年金)の財源を保険料から全額消費税に置き換え、税率の上げ幅は5%前後という日経案に筆者は全面的に賛成した。
 しかし、残念ながら政治の場では与党、野党の党利・党略がからみ前進が見られなかった。福田前首相は「社会保障国民会議」を設けたが、小沢氏の反対により民主党は参加しなかった。
 しかし年末も押し迫った12月25日に自民・民主両党の衆議院議員7人が、年金制度の抜本改革を求める提言を共同発表した。提言したのは自民の野田毅、河野太郎、亀井善太郎の3氏、民主は岡田克也、枝野幸男、吉川元久、大串博志の4氏である。

 「提言の柱は3点である。第一は各年金の役割の明確化である。1階部分の基礎年金は退職後の生活保障、2階の報酬比例年金は所得再配分を排した自助の制度に衣替えする。第二は財源の手当て。それぞれの機能に対応し、1階は消費税などの税金、2階は社会保険料を充てる。第三は二階部分の積立方式への移行。現役のサラリーマンがその時の高齢者の年金原資を負担する賦課方式をやめ、払った保険料は将来、自分に戻る仕組みを目指す。この移行過程では、これまでに年金の支払いを約束した額から支払い準備として積み立てた分を差し引いた270兆円の不足解消が課題になる。{二重の負担}の問題である。
 二重の負担の解消には50年以上の年月を掛けることを想定している。二重の負担は年金制度から切り離し、政治責任に基づいて解消方法を決め、実行するという。」野田、岡田両氏は「政権交代しても年金制度はころころ変えられるものではない」と指摘している。(日経新聞、08年12月26日)

 まだまだ詰め残した点は多いが、両党の政治家が自前で計算して作り上げた「年金改革」を、筆者は高く評価したい。「ねじれ国会」の中でも、年金問題のような国民生活に蜜着した政策は、党利・党略にの利用せず、こような解決策を見つけ出すことが政治の役割であろう。自民、民主両党の責任者は心して聞いてもらいたい。

5. 賃上げはどうなるか

 昨年、日本経団連は「賃上げ容認」の方針を掲げたが、結果的にベースアップは事実上殆どなかった。世界的な株式市場の動揺や、超資源高に伴う景気減速懸念などに企業は過敏に反応したからであろう。
 しかし、07年度決算は市場最高益を更新した年でもあり、企業は賃上げを行う絶好の機会を逸したことになった。
 08年度決算は、上場企業の経常利益は32%の減少が見込まれている。今年の賃上げは厳しい局面が予想される。ワークシエアリングを実施してでも雇用を確保すべきかどうかの淵に立っている。
 せめて、正規社員の雇用だけは確保してもらいたいものである。

II フランチャイズ業界の動向

1. 雇用の場の提供

 フランチャイズビジネスの大きな役割は、数千万円の投資で雇用の場を提供してきたことである。今年のように雇用不安が社会問題化する時代はフランチャイズの出番である。
 今や、フランチャイズ業界の全体売上高は20兆円を超える巨大市場に成長した。フランチャイズに加盟すればすべて旨く行くわけではない。しかし、フランチャイジーとして成功した事例は極めて数多い。  勤め人の仕事が無くなれば、フランチャイジーとして独立を検討するのも一つの道である。一昔前と違って、加盟前の情報開示はほぼ世界レベルまで上がっている。事前にしっかり調査して、既存加盟店を10店舗も歩けば、ほぼ本部の持つ力量や信頼性が分かる。
 手間ひまを惜しまずに、周到に調査すれば成功する可能性も高くなる。多くの人たちが、フランチャイジーとして再出発されることを期待したい。フランチャイズ・ビジネスは雇用を創出する機能があることを強調したい。

2. 非熟練労働者を多数雇用する場でもある

 フランチャイジーは多数の非熟練労働者を雇用する機能を持っている。雇用者数に関する正確な統計はないが、フランチャイズ協会の統計によれば、店舗数は直営・加盟店併せて23万6千店(07年度統計)ある。最低でも1店舗10名のパート・アルバイトを雇用しているとしても実に236万人を雇用していることになる。日本総研の主席研究員の山田久氏は「10年度末には150万人の失業者が発生する恐れがある」と述べられている。それに対して、パート・アルバイトとはいえ最低でも236万人を雇用しているフランチャイズ・ビジネスにもっと着目すべきではないか。
 フランチャイズ・ビジネスの持つ社会的役割は高い。

3. 人が採用できる時代になった

 今年の夏までは、殆どのフランチャイジーから「人が集まらない。正社員が採用できない。パート・アルバイトが採用できない。」と悲鳴に近い声を聞いたが、最近(10月以降)は、この悲鳴を聞く機会は減った。加盟店に聞いても、「最近はうちのような零細企業にも人が集まるようになった」との声を聞く機会が多い。
 考えてみれば、80年代から90年代初頭まで「人が集まらない。特に若い人が集まらない。廃業する時期も近い」とフランチャイズ企業は苦しんだものである。それが92年から状況が様変わりとなり、正社員はもとよりパート・アルバイトも思うように集まる時代になった。人間は何年経っても同じことを繰り返すものだと思う。
 フランチャイズ企業にとっては、人材採用の絶好の機会である。単に人数を集めるのではなく、優れた人材を選抜して採用し、しっかり教育できる時代が来た。正に絶好のチャンスではないか。

4. 資金が出難くなった

 昨年10月以降、信用力の比較的高い中小法人が、フランチャイズ加盟に際して銀行や信用金庫に融資を申請しても資金が融資されない事例が増えてきた。これは銀行の貸し渋りというよりも、大企業が社債やコマーシャルペーパー(CP)などで市場からの資金調達が難しくなり銀行借り入れに依存するようになったからである。全国銀行協会が1月9日に発表した2008年末の都市銀行6行の貸出し残高は07年末から5.2%増加して18年振りの伸びであると伝えている。残高そのものも5年ぶりの高水準となった。(日経新聞1月10日)

 中小企業向け融資を全国の信用保証協会が100%保証する緊急融資保証制度の保証枠は現在6兆円であるが、20兆円まで広がる第二次補正予算案が、現在衆議院で審議中であり、これが決定すれば、中小向け融資が拡大すると見られている。いろんな理由はあるだろうけれども、ここは中小企業の資金繰りを維持・補強するためにも与党、野党の別なく協力してもらいたいものである。

5. 来客数が落ち込んでいる

 フランチャイズ・ビジネスの将来像を明るく語りたいが、現実は厳しい。来店客数が減少に転じていることは明らかである。コンビニはタスポ効果に助けられて、既存店ベースの売上高も客数も増加している。しかし、それ以外のフランチャイズ・ビジネスは一般的には来店客数は減少している。
 例えば、個別学習塾では、「経済的理由」により受講生が減少している事実がある。また外食で最強を誇る日本マクドナルドHDも08年12月の既存店ベースの客数は前年同月に比べ3.4%減少したと伝えている。客数の前年割れは06年12月(0.6%減)以来2年ぶりであるが、既存店売上高は「クオーターパウンダー」等高額商品の投入による客単価の上昇により8ケ月連続のプラスを維持したそうである。(日経新聞、1月10日)
小売業でも売上高が増加しているのは食品スーパー、コンビニ、ユニクロ等ごく一部である。ユニクロを展開するファストリテンリングは「ただ安いだけではなく、本当にいいものを安く買いたいという需要に応えられた」と述べている。(日経新聞、1月10日)
 フランチャイズビジネスでも全く同じことが言える。価格の割りに価値の高い商品を提供できるチェーンのみが、お客様から支持されるのである。

6. フランチャイズ企業が有望企業銘柄に登場

 毎年1月3日に日経新聞に発表される有望5銘柄(株式上場銘柄)に今年は珍しくフランチャイズ企業が何社か登場している。
 例えば、ダスキン、ローソンが5点、日本マクドナルドが4点を取っている。 (経営者、有識者40名が有望銘柄を5銘柄選び出し、1位と認定すれば5点、2位と認定すれば4点と配点する。2名以上の人が選べば、合算される)
従来、セブンーイレブンが選ばれることあったが、他の銘柄が選ばれることは珍しい。ダスキンを1位に、日本マクドナルドを2位に選んだ経営者は「原材料価格の反落や円高による調達価格コストの低下の恩恵を受け、消費者ニーズに応えた適正な価格で商品を提供できる企業に着目」とコメントされている。         
 まさに的を得た指摘であり、ほぼすべてのフランチャイズ・ビジネスに当てはまる判断理由である。
 極めて厳しい時代ではあるが、輸出企業に比べれば、内需産業は恵まれている。フランチャイズ企業は円高メリット、穀物価格の低下メリットを享受できる産業である。ここはフランチャイズ企業に頑張ってもらいたい。

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