フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

飲食業のやさしい基本数字

 飲食業は「科学(技術)と感性の総合産業」と言われる。この両面を備えないと、飲食業として成功しない。科学(技術)とは、商品開発、原価構成、物流、 レイバーシフト、投資額、適性賃料などを指す。いずれも飲食業が成功するために欠かせない重要な要因であり、定量的に表現できるものであり、飲食業の基本数 字は、これらを数値化しその関係を明らかにすることにより、成功の方程式を導きだすものである。

 一方、感性とは「人の心」に訴えるものであり、定性的にしか表現できない。数値化が難しい分野である。しかし、全く数値化ができない訳ではない。最近では、 相互比較による数値化が進んでいる。感性を具体的に表現するならば、店舗内装、外装、ロゴ、メニューの色彩、季節感、食器、盛り付け、カラーコーディネイト、 接客など人の感性を刺激し、食事をより美味しくたべさせる技術や心配りである。

 この両者が相まって飲食業の魅力を生み出すものであり、一方だけでは魅力は永続きしない。(奇を衒う内装で人を惹きつけた飲食業の人気は永続きしなかった。 やはり回数を重ねるに連れて飽きが来るのであろう。)

 今回は飲食業を新しく開業される方のために、飲食業の易しい基本数字の解説を行い、この厳しい時代にどうすれば飲食業で成功できるかを分かりやすく解説した。

 この原稿は「飲食店経営」08年2月号の「やさしい飲食業の基本数字」を基にして、大幅に加筆訂正したものである。数字の基礎は10年間にわたり「飲食店経営 」に連載している(現在も進行中)「FCの成功者たち」からの聞き取り調査を元ににしている。従って、フランチャイズ店の数値が基礎になっており、直営店とはや や異なる部分があることをお断りする。

 飲食店の現場を回っていて、案外基本計数に無関心な人が多い。繁盛店になるためには、最低限必要な計数である。

 やさしく、誰にでも理解できる「飲食業の基本数字」であるので、是非活用して、繁盛店になっていただきたい。(不明の点、疑問に思う点があれば、下記までメー ルいただければ必ず即日ご返事を致します。fc@franchise-ken.co.jp 勿論無料です。)

Ⅰ 売上高に関する基本計数

 飲食業に限らず、すべての商売は、売上高が上がらないことには利益は出ない。だから、すべての飲食業のオーナーは売上高を上げることに熱心である。

 しかし、売上高を上げることは至難の技である。ある意味で売上高さえ上がれば、飲食業は大半の問題は無くなる。売上高を上げることが最大の課題であると言っても過言ではない。

1.売上高を上げる

 売上高は次の数式で表せる。

 売上高=客数×客単価        計算式(1)

 売上高の基礎は客数と客単価である。この場合どちらを重視するかであるが、基本的には客数である。まず、客数を増加させないと、お店の長期的繁栄はない。

しかし、客数を増やすほど難しいことは無い。客数を分析すれば次のようになる。

 客数=リピート客+新規顧客     計算式(2)

リピート客とは固定客である。すべての店舗は固定客の上に成り立っている。固定客を確保し、リピート率(再来店率)を上げることがすべてに優先する。この固定客 を確保し、リピート率を上げることは小売業なりサービス業の基本であり、この小論では深追いしないで、専門書に譲る。

 次に新規顧客の開拓は、新規顧客の獲得とそのリピート率の向上になる。実はどのビジネスでも、固定客は移動する。一番移動の多い季節は学生の新入、社会人の新 入、転勤であり4月が一番多い。それに次いで、9月、10月等企業の定期異動の時期が多い。

 だから4月は年間を通して最大の新規顧客獲得のチャンスである。ファストフードやファミレスが年間で最大の販売促進を掛けるのは4月である。

 筆者の実査では、都内のラーメン店の顧客アンケートを行ったところ、4月7日(ウイークデイ)の新規顧客は8%に及んだ。同じ店で4月15日(ウイークデイ)に同じ 顧客アンケートを行ったところ、新規顧客は3%であった。圧倒的に4月の上旬に新規顧客が多いことに驚いた。

 客数の確保は何時の時期でも飲食業では最大のテーマであるが、やはり新学期、社会人の移動する時期が重要な固定客確保の時期であることを理解してもらいたい。

 今回の世界的不況の影響を飲食業も強く受けている。影響はまず、客数減として現れ、今年に入って客単価減も加わっている。フードサービス業最強の日本マクドナ ルドも12月、1月、2月の客数は減少し、漸く3月に野球のワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)連覇記念セールなどが寄与して、4ケ月振りに既存店 客数が3.3%増加したと発表している。(日本マクドナルドはWBCのスポンサー企業)

 客単価=1点単価×買上数      計算式(3)

 飲食業で言うならば、1点単価とはメニュー価格である。現在のように厳しい経済環境下にあっては、メニュー価格を上げる(既存業態のままで)ことは考えない方が 良い。むしろ、如何に1点単価を下げる、あるいは下がったように見せるかがポイントである。フードサービス協会のデータを見ていると、客単価は、押しなべて下がっ ている。買上数とは出皿数である。これも今の時点では増加は見込み難い。むしろ、皿単価を下げてでも、出皿を維持することが今の重要課題であろう。

2. 人時売上高(ニンジウリアゲダカ)

 人時売上高=月間総売上高÷総労働時間         計算式(4)

 売上高を把握していない飲食業者は絶対いない。一番の関心事である。しかし、分子の月間総労働時間数を把握している飲食業者は極めて少ない。ほとんどいない と言っても言いすぎではないと思う。

 月間総労働時間とは、社員の労働時間(残業時間を含む)とパート・アルバイト(以下P/A)の総労働時間の合計である。オーナーの労働時間は、店舗に入って 実質的に労働した場合は、総労働時間数に含める。管理的労働で、直接店舗運営に入らない場合は除外する。

 人時売上高は高い方が良い。生産性も高くなるし、支払い労務費の原資にもなる。一般的に客単価の高いビジネス、営業時間の短いビジネス、客席回転率の高いビ ジネスは高めに出る傾向がある。

 しかし、高ければ良いというものではない。あまり高いと、お客様へのサービスが行き届かない恐れがある。お客様へのサービスへしわ寄せが行っては元も子もない。 重要な指標ではるが、誤った遣い方をするとお客様を失う恐れがあるので注意してもらいたい。(コンビニでは、この数値を人時生産性と呼ぶ人がいるので、注意して もらいたい)

 業種別の現状と目標は次の通りである。(目標とは望ましい数値であり、現実に実現している店舗が多数存在する)

業種 通常 目標
うどん、そば、ラーメン 
3,500円 4,500円
焼鳥、居酒屋、焼肉店
4,000円 5,200円
喫茶店
2,500円 3,500円
ハンバーガー、チキン
4,500円 5,500円

3.月坪売上高(ツキツボウリアゲダカ)

 月坪売上高=月間売上高÷店舗坪数          計算式(5)

 飲食店として使用している店舗面積、倉庫、事務室(坪数)を分母にし、月間売上高を割って計算する。

 この数字は本来、賃料との関係で決まるものであり、立地の良し,悪しを示す指標であるが、店舗の効率を表す極めて重要な指標である。

 ビルの2階、地階、郊外型店舗は比較的低い数字になる。駅前繁華街、ショピングセンターのフードコート、宅配ビジネスは非常に高い数字が出ることがある。

客席の有無が大きな影響を与える。

業種 現状 目標
うどん、そば、ラーメン 
20万円 25万円
焼鳥、居酒屋、焼肉店
20万円 30万円
喫茶店
15万円 20万円
ハンバーガー、チキン
25万円 35万円

Ⅱ 経費関係の計数

1. 原価率(ゲンカリツ)

 原価率=総原価÷月間売上高          計算式(6)

 原価率が高いということは「良い原料を多く使っている」という側面があり、飲食業で成功する要因でもある。しかし、原価率が高ければ、競争力が低下する恐れも あり、高ければ良いというものでもない。またロス率が高く、効率の悪い一面もある。

 逆に、原価率が低いということは「良い原料を多く使っていない」「安い原料を使っている」という側面があり、競争力が低下する恐れがある。

 チェーン店であるならば、良い原材料を大量取引によりコストダウンして購入することが競争力を強化する原点である。

 単独店もしくは,2~3店経営ならば、産地限定もしくは生産者限定の原材料を使用することが、多少原価率が上がっても、競争力強化につながるだろう。

 フランチャイズの場合、本部がリベートを自社に取り込んだり、運送費を食材に上乗せする場合が多いので、直営店より高めになることが多い。

業種
現状 目標
うどん、そば、ラーメン 
33% 30%
焼鳥、居酒屋、焼肉店
35% 32%
喫茶店
25% 20%
ハンバーガー、チキン
38% 35%

2. 人件費率(ジンケンヒリツ)

 人件費率=月間総労務費÷月間売上高       計算式(7)

飲食業にとって、人件費は原価と並んで、最も重要な数値である。社員の労務費は固定費であるので、いかに社員労働からP/A労働に切り替えるかが課題である。 特にチェーン化する業態ではP/A比率を上げることに注力している。

労務費対策の決め手は,P/Aの労働時間管理である。

P/A人件費=労働時間×時給

時給はある程度世間相場で決まるので,主にコントロールできるのは、労働時間数である。お客様の満足度を高めながらP/Aの労働時間をいかにコントロールする かが人件費管理のポイントである。

P/A労務費を管理するためには、毎日のチェックが重要である。

人件費を毎日チェックするには人時売上高(計算式4)の管理で十分である。但し、毎日の実績と当日までの累計人件費を常に把握する必要がある。

昨今のP/Aの時給のアップは飲食業には大きい。今後、最低賃金は時給1千円を目指して毎年上がると思われるので、きっちりとしたレイバーシフト管理をしない と飲食業は成り立たない時代が来る。

朝10時から午後10時まで、同じ人員を配置している飲食業を見かけるが、仕事の繁閑に応じてレイバーシフトを組む技術は絶対必要である。

業種 現状 目標
うどん、そば、ラーメン 
30% 25%
焼鳥、居酒屋、焼肉店
28% 25%
喫茶店
25% 20%
ハンバーガー、チキン
27% 25%

3. FLコスト(エフエルコスト)

FLコスト=原価率+人件費率           計算式(8)

 飲食業ではFLコストをプライマリーコストとも呼び、最も重要な数値である。飲食業では、FLコストは60%以下が絶対条件と言われるが、回転寿司のように フードコストを掛けて(例えば50%)、高い売上高を作り、賃料や一般経費の比率を低くして利益を出す業態もあり、一概には言えない。しかし、

一般論として、すべての業種・業態でFLコストは60%以下が求められる。

 フランチャイズの場合には、ロイヤルティが加算されるので、FLコストにロイヤルティを加算したFLRの尺度が必要である。

 FLR=原価率+人件費率+ロイヤルティ     計算式(9)

 フランチャイジーにとっては、ロイヤルティはフードコストと同様に自分の力ではいかんともしがたいコストなので、フランチャイズパッケージを作る過程では、 FLRを意識してロイヤルティを定める必要がある。昨今の飲食フランチャイズパッケージは、収益力を抜きにして5%程度のロイヤルティを科す事例が多いので、 加盟する場合には十分な計算が必要である。

FLRを60%に収めれば、ある一定の売上高を越せば必ず利益が出ると言っても過言ではない。せめてFLRは62%程度に収める技術力が本部に求められる。

4. 賃料率(チンリョウリツ)

 賃料率=1ケ月の実質賃料÷月間売上高        計算式(10)

 賃料率は江戸の昔から売上高の3日分(凡そ10%以内)と言われている。この10%以内という数値は業種・業態を問わず当てはまる数値である。

 昨今、ショピングセンターのフードコートで売上高の15%以上の賃料を耳にするが、よほど大きな売上高がないと採算が合わなくなるだろう。また百貨店なども売 上歩合で20%程度の賃料を要求されることがあるが、これではまともなお食事を提供していては採算が合わないのではないかと心配である。

フラッグシップ(旗艦店)のような意味合いで出店するのでなければ、止めた方が良いだろう。



Ⅲ 利益関係の基本計数

1. 営業利益率(エイギョウリエキリツ)

 営業利益率=営業利益÷月間売上高        計算式(11)

 

 営業利益=売上高―原価―人件費―賃料―減価償却費―ロイヤルティー諸経費                  計算式(12)

 売上高から諸経費を控除した金額が営業利益であり、それを売上高で割った数値が営業利益率である。

 営業利益率は、高ければ高いほど効率が良いと言える。一般的に新規投資をして、飲食業を開店するためには、最低でも10%の営業利益率が必要であると思われる が、必ずしもすべての業態で10%の営業利益が確保されている訳ではない。例えば、ファミリーレストランでは各社とも百店以上の閉鎖を実行したが、閉鎖店はすべ て赤字店と思われる。永い年月にわたって10%の営業利益率を確保することは至難の技である。

 しかし、新規開店する場合には、業種・業態に関わらず営業利益率は10%が必要である。

 目標は営業利益率15%である。15%の営業利益率が実現すれば、複数出店(加盟店ならば複数出店社)を検討することが可能である。

2. 投下資本回転率(トウカシホンカイテンリツ)

 投下資本回転率=年間売上高÷総投下資本        計算式(13)

 投下資金が年間何回転したかを示す指標である。投下資本回転率が高ければ、投下資本が有効に利用されていることが分かる。

 投下資本回転率は、事業の収益性を示す重要な指標である。

 東京地区は地価が高く、物件取得費が異常に高い。そのため、投下資本回転率が低めに出ることが多い。確かに東京地区は消費者も多いが、競争相手も多いので、 他地区から東京地区に参入するには、よほど慎重に検討する必要がある。

 フードコート、宅配ビジネスは概して回転率は高い。

業種 現状 目標
うどん、そば、ラーメン 
1.3回転 1.8回転
焼鳥、居酒屋、焼肉店
1.5回転 2回転
喫茶店
1回転 1.3回転
ハンバーガー、チキン
1.8回転 2.5回転

飲食業を管理する上で必要な計数はまだ沢山ある。しかし、ここに挙げた計算式13項目を管理できれば、日本の飲食業者としては優等生である。あまり多くの 計算式には目もくれず、この基本数字を管理していただければ、貴方は十分飲食業で成功する可能性が高い。

 アメリカ発の大不況が日本の製造業を直撃している。この嵐は当然飲食業にも、雇用者の解雇、リストラ、企業倒産の形でかぶさってくる。今こそ、しっかりした武 装をしないと飲食業も大変な目にあう。是非、皆さんがこの不況の嵐を乗り切ることを期待しています。

本文の無断引用は禁止いたします