フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

公取委の排除命令とセブンーイレブンの対応策

 6月23日の日経新聞は、公正取引委員会が6月22日にセブンーイレブン・ジャパン(以下セブンーイレブンと略す)の弁当・惣菜値引き販売に対して、値引き制限は「不当」として、排除命令を出したことを報じた。
 セブンーイレブンは翌23日に、店舗で売れ残った弁当類の廃棄損失分の15%分を7月分から本部が負担すると発表した。
 コンビニ最大手のセブンーイレブンの動きに対してテレビ、ラジオ、新聞各社の報道は今も続いている。
 公取委の排除命令と、セブンーイレブンの廃棄損失一部負担について、検討をしてみる。

Ⅰ 公正取引委員会が排除命令を出した

1 排除措置命令

 平成21年6月22日に公正取引委員会は「株式会社セブンーイレブンに対する排除措置命令について」という文書をを出し、「同社に対し、独占禁止法の規定に基づいて審査を行い、次の通り、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項〔優越的地位の濫用〕第4号に該当)の規定に違反する行為を行っているとして、本日、同法第20条第1項の規定に基づき、排除措置命令を行った」とした。その詳細は次の通りである。

(1) 違反行為の概要

 公取委は次のように断じている。
「セブンーイレブン・ジャパン(以下セブンーイレブン)の取引上の地位は加盟者に対して優越しているところ、セブンーイレブンは、加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、推奨商品のうちデイリー商品に係る見切り販売(以下「見切り販売」という)を行おうとし、又は行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るディリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている」

(2). 排除措置命令の概要

(1)セブンーイレブンは、前期2の行為(以下「違反行為」)を取りやめなければならない。
(2)セブンーイレブンは、「違反行為」を取りやめる旨及び今後、当該行為と同様の行為を行わない旨を、取締役会において決議しなければならない。
(3)セブンーイレブンは、前記(1)及び(2)に基づいて採った措置を加盟者に周知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。
(4)セブンーイレブンは、今後「違反行為」と同様の行為を行ってはならない。
(5)セブンーイレブンは、今後、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。
 ア 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定

 イ 加盟者が行う見切り販売の方法等についての加盟者向け及び従業員向けの資料の作成
 ウ 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての、役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

2. 排除命令の根拠

公正取引委員会が発表した排除措置命令書の主文(上記3の排除措置命令の概要)に続き、「理由」を明示している。
 官庁用語で理解しにくい点があるが、以下その概要を解説する。
 第1 事実
1 (2)セブンーイレブンはほぼ全国に所在し、平成20年2月29日現在における店舗数は、直営店が約800店、加盟店が約1万1200店の合計1万2千店であり、1年間の売上高は、直営店が約1500億円、加盟店が約2兆4200億円の合計2兆5700億円であり、店舗数及び売上高のいずれもセブンーイレブンは、わが国のコンビニの最大手の事業者である。
 エ 加盟者にとっては、セブンーイレブンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来たすこととなり、このため、加盟者はセブンーイレブンの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって、セブンーイレブンの取引上の地位は、加盟者に対し優越している。
 (3)  エ 加盟店で廃棄された商品の原価相当額については、加盟店基本契約に基づき、その全額を加盟者が負担することとされているところ、セブンーイレブンは加盟者から収受しているロイヤルティの額について、加盟店基本契約に基づき、加盟店で販売された商品の売上額から当該商品の原価相当額を差し引いた額(以下「売上総利益」という)に一定の率を乗じて算定することとし、ロイヤルティの額は加盟店で廃棄された商品の原価相当額の多寡に左右されない方式を採用している。
 オ 平成19年3月1日から平成20年2月29日までの1年間に、加盟店のうち無作為に抽出した約1,100店において廃棄された商品の原価相当額の平均は約530万円となっている。
 
2 ( 1)セブンーイレブンは、かねてから、デイリー商品は推奨価格で販売されるべきであるとの考え方について、OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー=経営指導員)を始めとする従業員に対し周知徹底を図ってきているところ、前記1(3)エのとおり、加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で
 ア OFCは、加盟者がデイリー商品に係る「見切り販売」を行おうとしていることを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を行わないようにさせる
 イ OFCは、加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を再び行わないようにさせる
 ウ 加盟者が前記ア又はイにもかかわらず見切り販売をやめないときは、OFCの上司に当るディストリクト・マネージャーと称する従業員らは、当該加盟者に対し、加盟店基本契約の解除等の不利益な取り扱いをする旨を示唆するなどして、見切り販売を行わないようにさせる
 など、見切り販売を行おうとし、又は行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせている。

Ⅱ 排除命令の受け止め

1. セブンーイレブンの反応

 以下主として日経新聞の記事を引用しながら、この事件の流れを追ってみる。
 日経新聞は6月23日の朝刊の一面に〔「値引き制限不当」セブンーイレブン公取委が排除命令〕とした記事を載せた。
 この記事によれば、公取委は価格の決定権が「FC加盟店側の経営判断にある」と判断したうえで、30~40店で「値下げを制限された」との証言を得て独禁法違反と認定したと伝えている。
 同社の井坂隆一社長は22日の夕刻、本社で記者会見し「一部加盟店と一部社員との間で(値引き制限の)強制ととれる発言があった可能性がある」としつつ、「排除命令を受け入れるかどうか慎重に検討していく」と語っている。
 また、同紙の11面では井坂隆一社長は「一部社員に値引き制限強要ととられる言動があったかもしれない」としつつ「多くの店から見切り販売に反対する意見をいただいた」と強調している。
 同紙によれば、公取委は「契約上も自由だと言っておきながら手足を縛り、不利益を被らせている。明らかな違法で悪質だ」(幹部)と説明している。値引き制限は業界全体の“慣習”とされる中、公取委は最大手の違反という点にも着目した。公取委幹部は「命令はFCシステム自体を否定するものではない。加盟店の自主的な創意工夫による努力の道をふさぐことは許されないということだ」と話している。
 また、22日、東京・霞ヶ関で記者会見した東京都や千葉県のFC加盟店のオーナーら数人は「本部が圧力をかけていたことが認められた」と公取委の命令を評価した。すでに全国で120~130のセブンーイレブン店が見切り販売に踏み切っていると報じている。

2. 公取委と会社側の意見の差

 公取委の判断とセブンーイレブン側の判断にはかなり大きな食い違いがある。会社側は「一部社員に値引き制限強要ととられる言動があったかもしれない」として、組織的関与は無いような発言とも取れる。
 それに対し、公取委は「セブンーイレブンは、かねてから、デイリー商品は推奨価格で販売されるべきとの考え方について,OFCを始めとする従業員に対し、周知徹底を図ってきている」と会社主導で値引き制限を徹底していた事実を上げている。

3. 従業員の一部の行為か組織的行為か

 また、この場合、組織的な行為であったかどうかも問題である。排除措置命令書によれば、「OFCが見切り販売を阻止しようとしても聞かない場合はOFCの上司に当るディストリクト・マネージャーと称する従業員らは、加盟店基本契約の解除等の不利益な取り扱いをする旨を示唆するなどして、見切り販売を行わないようにさせる」と述べており、組織的的行為として排除措置命令を出している。

4.会社の取りうる措置

 これだけ大きな意見の差異がある場合は、セブンーイレブンは排除措置命令書に対し不服申し立て(審判請求)をすることが出来る。事実井坂隆一社長は22日の記者会見で「排除命令を受け入れるかどうか慎重に検討していく」と語り、排除命令を受け入れるかどうか、まだ会社として意思決定していない旨を述べている。
 常日頃、親しくしている弁護士の意見を求めたところ、「多くの企業では不服申し立て(審判請求)をするので、セブンーイレブンの今後の動向が注目されます」とのことであった。

Ⅲ 廃棄ロスの一部を本部負担

1.廃棄ロスの本部一部負担が決定された背景

 日経新聞は6月24日の朝刊で、「弁当廃棄損失15%補てん」と大きく報じた。6月23日にセブンーイレブンは店舗で売れ残った弁当類の廃棄損失の15%分を7月分から本部が負担すると発表した。各社テレビ局も23日の夜には一斉にこの動きを報じた。
セブンーイレブン1社で年間600億円強の廃棄損失は、従来加盟店全額負担であったが、同社は損失の一部(廃棄損失の15%)を負担することにしたのである。
  6月26日の日経MJによれば、〔公取委から排除措置命令を受けた翌日、セブン&アイ・HDの鈴木敏文会長より井坂隆一社長に「午前8時半までに役員を集めておくように」との電話連絡があった。急遽開催された役員会で話題になったのは排除命令を受けたことによる加盟店の反応であった。「オーナーが発注に消極的になっている」との報告を受けて、鈴木会長は「店舗の品揃えが縮小均衡に陥らないように、廃棄ロスの15%を本部が持つ」とその場で決断したと伝えている。新しい制度で本部が負担する金額は年間100億円であり、加盟店1店舗当たり6万円強の利益改善につながる計算〕だそうだ。

2.加盟者はこの措置をどう受け止めたか?

  直接加盟店の意向を聞いていないので、日経MJの記事を引用する。
  6月26日の日経MJは1面で取扱い、「セブン、新たな“共栄”を探る」として、加盟店11店の見切り販売に対する主な声として招介している。見切り販売に消極的な人から、見切り販売をしたいとする人まで様々であり、ただ1人が「本部の15%負担で見切り販売を思いとどまる店は多いと思う」とコメントを述べている点は注目する必要がある。
 日経MJでは新制度導入でも見切り販売の拡大を食い止められるかは不透明であるとして、千葉県の数店舗では見切り販売をすることによって、従来1ケ月あたり30数万円であった廃棄損失が約10万円減少したと報じている。

3. 筆者の意見

 セブンーイレブンの迅速な意思決定には取りあえず敬意を表したい。負担率に対する意見もあろうが、排除命令の翌日に決定したスピードには感心した。
  フランチャイズ・ビジネスは本部と加盟店の共存共栄をその理念とする。発注の最終権限と責任は加盟店にある。だから、廃棄ロスはすべて加盟店負担とする論理には、ほころびが生じてきたのでは無いだろうか。コンビニを取り巻く環境は激変している。店舗や備品、商品類をすべて自己負担で開業するAタイプは減少して、店舗、備品、商品のほぼすべてを本部が用意し、加盟店希望者は僅か300万円程度の加盟金のみで商売が始められるCタイプ店(ターンキー方式)が激増し、コンビニの店舗数も4万店以上に増加し、デイリー商品類の構成比も40%近くまで増加している。この商品廃棄の本部一部負担は、いずれにせよ時間の問題であり、他のコンビニチェーンにも影響は広がるだろう。

4. マスコミはどのように評価しているか

  日経編集委員の井本省吾氏は6月29日の日経MJで、要約すれば次のような意見を述べておられる。
 〔セブンーイレブンの値引き制限問題の肝は、同社のFC制度の根幹にある「共存共栄」の精神にある。(中略)その意味で、セブンーイレブン本部が弁当類の廃棄損失の15%を本部が負担する仕組みを導入したのは、15%という率に議論の余地はあるものの評価できよう〕
 大変妥当な意見である。しかし少し物足りない。大先輩に対して失礼な意見とは思うが、物足りない気持ちには変わりはない。

Ⅳ では、本質的解決策は

1. 再び井本省吾氏の提言に耳を傾ける

 日経編集委員の井本省吾氏は、日経MJ3月2日号で「もったいないで解決を」と主張されている。時間は遡るが、FC市場レポート4月号でも引用したが、再度引用させていただく。「発注の最終権限と責任は加盟店にある。売れ残り品の廃棄損失が全額加盟店負担という司法判断が出る背景にあるのもこの点だ。とすれば廃棄品を値下げ販売する自由と権限も加盟店にあってしかるべきで、独禁法の値引き販売についてのガイドラインもそうした延長線上にある」として「加盟店の発注と値付けの自由の拡大が、本部の商品開発の強化と相まって、コンビニの集客力を高めると考えたい」と結ばれている。
 この論理の延長線上で廃棄商品の15%を本部が負担することを評価されたものであろう。
 しかし、この提言には更に大切な本質的課題が述べられている。更に引用する。「最善は需要予測の精度を高め、不良在庫を出さないことだ」。これこそ究極の解決策である。流石に、流通に関する第1人者だけあり、ポイントをついた発言である。

2.廃棄ロス最低化の需要予測を構築せよ

 廃棄ロス一部本部負担は所詮本質的解決策にしかならないと思う。しかし、それでも15%負担を打ち出したセブンーイレブンの決定は、筆者も評価する。しかし、長期的に廃棄ロスの圧縮を真剣に求めるならば、井本氏の提言通り、「需要予測の精度を高め、不良在庫を出さない」技術の開発が基本である。本部の従来の経営努力は、売り損じの機会ロスを追求するシステムであったと思う。しかし時代は変わった。むしろ廃棄量を最低にするシステムへ転換すべきでは無いだろうか。
世界に誇る「タンピンカンリ」を生み出したセブンーイレブンの力を持ってすれば、「機会ロスの排除を追求しながら、廃棄量を最低化する技術」の開発は不可能ではあるまい。是非、この排除命令を一つの契機として、この提言をお考え頂きたい。
3. フランチャイジーは命令では動かない。説得と納得がFCの原理原則である。 
 フランチャイジーは独立した経営者である。直営店の従業員とは根本的に違う。従業員ならば、会社の命令に対して従うのが当然であり、少々不審に思っても、上司の指示通り動くのが当たり前であり、いやならば退社する道もあるだろう。
 しかし、フランチャイジーは契約上は本部と対等であり、価格決定権も有している。本部が加盟店になし得ることは、説得し、納得させることである。
 日経MJ6月26日の「セブンーイレブン井坂社長一問一答」には、次のような素晴らしい事例が掲載されている。記者が井坂社長に「値引き販売を喜ぶオーナーもいるのでは」と質問したところ、次のように回答されている。
 「一時的に廃棄損失の縮小につながっても長い目でみれば、売上も下がる。実際に実施している店舗のデータを見ても,売り上げが10%程度下がっている。値下げしている店の粗利益率も26%ぐらいまで下がっている。全社の平均は30%程度だ。店の権利だから禁止とは一切申し上げるつもりはないが、値下げが縮小均衡になることはデータが物語っている」
  この井坂社長の述べられた事実を全OFCに徹底させ、値引き販売が決して長期的に加盟店にプラスにならないことを全加盟店に説得し、納得させることが緊急の課題であり、正しい解決策につながるものである。

Ⅴ コンビニの値引き販売は本部・加盟店双方にマイナスになる

 コンビニと言う業態は、何故急速にお客様の支持を得て成長したのであろうか。GMS、スーパー、百貨店等既存の流通業が苦しんでいる中で、成長したのは、当然理由がある。
  筆者はコンビニは顧客に利便性を提供して競争力を強化してきた業態であると考えている。顧客がコンビニに求めているものは価格だけではない。商品力とサービスの価値の提供である。コンビニを利用する顧客は、コンビニに「利便性という効用」を求めている。利便性と言う価値があるから、価格が多少高くてもコンビニを利用しているのである。
  コンビニの利便性を更に細かく分類すれば、「全国どこにでもある」「何時でも開いている」「ATMでお金が降ろせる」「公共料金等を待たずに支払える」「弁当、サンドイッチ等が何時でも買える」等多数ある。しかし、利便性の中で一番求めているのは「欲しい商品が何時でも豊富に品揃えされている」ことである。勿論、中には、昼の12時30分に行くと欲しい「サンドイッチ」が切れているコンビニもある。そのような品揃えの悪い店には2度と利用しないものである。
  利便性の基本は「必要な商品を何時でも絶やすことなく品揃えが出来ている」ことが基本条件であり、欠品の多い店は顧客から信頼されない。
  必用な商品を絶えず品切れしない状態で維持することはなかなか困難である。コンビニ本部が常に「豊富な品揃え」を強く主張するのは、顧客満足度を高めるのに必要欠くべからざる条件だからである。
 「豊富な品揃え」は、下手をすれば「大量廃棄」につながり、加盟店の利益を圧迫する要因になりかねない。
  売れ残った弁当類や惣菜を夕方に値引き販売するスーパーマーケットやデパ地下とは異なり、コンビニは値引き処分はしないのが原則である。コンビニは利便性を武器に定価販売を維持し、粗利益を確保して、それを本部と加盟店が分かち合う業態として発展してきた。
  アメリカでセブンーイレブンを展開していたサウスランド社は、石油精製事業に多角化した戦略的失敗が倒産の原因と考えられている。しかし、最も手痛い打撃を受けたのはスーパーマーケットやデイスカウント・ストアー等と価格競争に走ったからであると考えられている。
  このアメリカの教訓からも、日本のコンビニは安売り路線ではなく、利便性という効用を追求した戦略が成功したのである。
  既存コンビニ店の売上高低下、それに伴う加盟店の業績悪化は、安売りで解決するものでは無い。弁当類の値引き販売は、加盟店の立場に立てば「一時的な利益の確保」「止むを得ない措置」と言えるかもしれないが、長期的なコンビニの競争力強化を考えるならば、それは決して取るべき手段ではない。
  しかし、だからと言ってFC本部が「弁当類の値引き販売制限」を強制することは、独占禁止法違反であることは明らかである。セブンーイレブンは、加盟店に対して「弁当類の値引き販売は、長期的に店舗の粗利益の低下になり、売上高が低迷する」という事実を根気よく説得し、納得させる以外に方法は無いだろう。フランチャイズとは手間ひまの掛かるビジネスであり、直営店の論理で押し切ってはいけないものである。

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