フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

2010年フランチャイズ業界を展望する

 2010年は新しい次の10年代の初めの年として期待したい。昨年の「2009年フランチャイズ業界を展望する」で筆者は「日本の政治は混迷する」と書いたが、予想外の大差で民主党が圧勝し、鳩山総理の基で政治の混迷に終止符を打つかと思ったが、政権与党になってから僅か百日で鳩山政権に暗雲が垂れこめている。

 フランチャイズ業界を展望する前に政治、経済、社会の動向について簡単に触れてみたい。

Ⅰ  政治・経済・社会の動き

1. 日本の政治は再び混迷するか

 8月30日(日)の衆議院選挙で民主党は圧勝し308議席を確保した。
 8月31日の日経新聞は1面で「民主300超 政権交代」と大見出しを付けた。 
 正に歴史的圧勝であり、逆に自民党は歴史的大敗であった。民主党圧勝の予感は、都議会議員の選挙で既に確定していた感がった。

 31日の、日経新聞の見出しを見れば 「新政権、予算全面見直し」 「国家戦略局」「行政刷新会議」新設へ、「政治主導」めざす 「こども手当」「最低保障年金」掲げる 成長戦略や財源課題 「普天間移設」や「地位協定改訂」 対米外交 火種抱え船出 等、民主党の掲げたマニフェストに対する強い期待と、一抹の不安を覗かせている。

 政権発足後100日目の12月24日前後の日経新聞から見出しを拾ってみれば、次のような問題が浮かぶ。
 まず2010年度の予算であるが、史上最高の92兆2992億円(前年比4.2%増加)で、新聞見出しは「家計重視 借金膨らむ」であった。事実、民主党の最大の看板であった「子ども手当」の創設を盛り込み、「家計重視」を前面に打ち出した。10年度の税収は37.4兆円を見込むが、国債発行は09年度当初予算より約11兆円多い44兆3千億円を見込んでいる。国債発行が税収を上回るのは、終戦直後の昭和21年以来の64年ぶりのことであり、歳出削減が思い通りに進まず、国債と埋蔵金頼みが明らかとなった。

 人目を引いた事業仕分けは、予算作成の過程を透明化した功績は大きいが、「ムダ排除」はわずか8千億円程度であり、事前の3兆円程度の思惑には遠く及ばなかった。ガソリン税率は小沢幹事長の鶴の一言で、維持を決定した。
 また、民主党の看板政策であった「脱官僚」も、日本郵政の社長人事で元大蔵事務次官を勤めた斉藤氏を起用するに至り、脱官僚政策も放棄された感がある。

 最も懸念された対米外交は最悪の展開となった。民主党はマニフェストで「緊密で対等な日米関係を築く」とし、「日米地位協定の改訂を提起する」とした。しかし、普天間基地の移設問題を巡り日米の関係は最悪の状態になった。日経は12月23日に「米政府が沖縄県の普天間基地の移設問題をめぐる鳩山由紀夫首相の対応に不信感を強めている」として、具体手には「クリントン国務長官は21日、国務省に藤崎一郎駐米大使を呼び出し、現行の合意履行を求める米政府の立場に変更はないと伝達」「新たな移設先を探す日本政府の方針に理解を得られたと説明した首相に異例の形で警告した。」

 「オバマ政権に近い関係者によると、米政府は日本が非公式に打診した岡田克也外相の訪米も拒否」と伝えている。3ケ月前には想像も出来なかった日米関係の悪化である。不用意に日米同盟を扱うことで日本の外交安全保障を危機に追い込むことは絶対に避けてもらいたい。

 更に追い打ちをかけたのが、首相の偽装献金問題の発覚であり、おまけとして母親からの12億円に上る贈与と贈与税の未払いであった。東京地検特捜部は元秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)罪在宅起訴した。
 鳩山首相は「何も知らなかった」と苦しい弁明に終始し、「私服を肥やしたことはない」と釈明した。「潔く辞任すべき」との声も街角からは出ている。

 一方、民主党を実質的に支配していると言われる小沢一郎幹事長にも、政治資金規正法違反が問われている。西松建設から巨額献金事件で、東京地検特捜部は3月24日に政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたとして小沢氏の公設第一秘書、大久保隆規容疑者を政治資金規正法違反の罪で起訴した。その後、逮捕され、小沢代表は5月11日に代表を辞任し、後継に鳩山氏が選出された。
 しかも、最近小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入問題で、東京地検特捜部は近く小沢氏本人から任意で事情聴取することが1月6日に分かった。購入に当たり、小沢氏から個人資金4億円を陸山会が借り入れたが、政治資金収支報告書に記載しなかった点が問題視されている。

 このような民主党の代表や幹事長のスキャンダルで、鳩山政権に対する支持率は急降下し、就任直後は80%近い支持率が年末には50%程度まで低下した。
 世論は安定した長期政権を望んでいるが、果たして鳩山政権が長期政権になり得るかどうか、早くも疑問符が付いた。

2. 民主党の成長戦略

 かねて民主党のマニフェストを巡って「成長戦略がない。配分政策のみでは行き詰まる」との指摘は識者からあった。
 政府は暮れの押し詰まった12月30日に政府は臨時閣議で新成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」を決定した。
新成長戦略のポイントは次のようなものである。
☆ 名目GDPを2020年度に650兆円程度にする
☆ 20年度までの平均で名目成長率は3%、実質経済成長率2%を上回る
☆ 向こう4年間で失業率を3%台に改善する
☆ 20年までに環境分野で新規市場50兆円超、新規雇用140万人を創出
☆ 20年までに健康分野で新規市場約45兆円、新規雇用約280万人を創出
 重点分野として①環境・エネルギー②健康③アジア④観光・地域活性化⑤科学・技術⑥雇用・人材の6分野を挙げた。
 いずれも必要な成長政策であるが、問題点は何一つ具体策がないことである。2週間の突貫工事で仕上げた文書と言われるだけに、高い道筋は示されているが、それを実現させる具体策が全くない。民主党政権は家計や中小企業に優しいが、大企業には冷たい政策を出している印象が強い。筆者はこれを“アンチビジネス”と評しているが、本来成長を引っ張るものは企業部門の設備投資であり、研究開発である。政府の役割は、民間の資金が成長分野に投じられる動機付けである。政府や公的機関の介入や規制を少なくして、民間の判断を重視する姿勢が必要である。政府は6月までに具体策の取りまとめと、20年までの「成長戦略実行計画」を策定すると言うが、どこまで現実的な成長戦略が描けるかを見守りたい。

3. デフレ不況に出口はあるか

 1992年頃から始まったデフレは現在に至るまで終わっていない。むしろリーマンショックによる世界同時不況で一段とデフレ状況が厳しくなった。要するに供給が余って需要が不足している状態が継続しているのである。デフレが長期間続いているのは、多くの産業で過剰供給体制が残されているかだと伊藤元重教授(東京大学)は強調する。(日経、1月11日)
 伊藤教授によれば、「過剰供給体制を解消するには産業全体の新陳代謝を進める必要がある。建設業、流通業、中小製造業等は、M&Aや企業整理などを大胆に進めるべきであると説く。しかしそれだけでは雇用の増加が期待できない。雇用を創出するためには環境産業、医療や介護、農業などへの成長戦略が欠かせない。」
 「また供給過剰を解消するためには、アジアの需要を取り込むことも重要である。中国のみならず、インドネシア、インド、ブラジルといった新興国の成長には持続力もあり、輸出の拡大などで日本にも大きな恩恵があるはず」
 即ち、内需の先行き不透明な産業にはM&Aや企業整理などを進めると同時に成長産業に人員をシフトし、更にアジアの需要を取り込めとの提案である。

 成長を追い求めるためには民営化と規制撤廃が不可欠である。日本経済の中で民間が主導する経済の規模を高める必要がある。名目成長率を高めるためには、政府依存型の経済から民間主導型へ構造改革を推し進めなければならない。“アンチビジネス”では高い成長性は望めないのでは無いか。

 

Ⅱ フランチャイズ業界の動向

1. 2010年も厳しい1年になるだろう

 2008年度のフランチャイズ統計は幾つかの点で統計開始以来の数値を示した。一つは、増え続けたフランチャイズチェーン(本部)の数が僅かではあるが減少に転じたことである。また総店舗数も減少した。売上高は小売業の健闘により、前年を上回る実績を残した。しかし、09年度は中心勢力であるコンビニがタバコ自動販売機のタスポ効果が剥げ落ちて7月より既存店ベースで大きく落ち込み、10年2月期には既存店は落ち込み、総売上高では微増と見られている。この調子でいけば、10年は売上高の予想は厳しい1年になるものと覚悟しなければならない。
 しかしエコノミストの見解は、今年前半は踊り場を迎え厳しいものの、その後は旺盛なアジア需要の取り込みや政府の子ども手当、高校授業料無償化等の施策が効いてくるとの意見も強い。

 飲食業は07年度、08年度と2年連続で総売上高を落としたが、今年もデフレ不況の中、既存店ベースでも総店舗ベースでも売上高は落ち込むものと考えられる。しかし物価下落と景気悪化が際限なく続くデフレスパイラルに陥ることはないだろう。政府や日銀は最大限の努力をするものと思う。

 サービス業は08年度で大きく総売上高で前年比を落としたが、この傾向は10年も続くであろう。

2. 学習塾には明るいきざしも

 僅かに子ども手当の6月支給で学習塾のみが、7月からの夏季講習会から好調を取り戻すと見られているが、少子化の影響で中長期的に見れば、閉塞感は否めない市場であるだけに、学習塾各社は合従連衡を通じて生き残りの道を求めるであろう。
「東進ハイスクール」を運営するナガセは06年に四谷大塚を子会社化したほか、子供向け英会話教室事業の専門部署を設けるなど拡大路線を進んでいる。
早稲田アカデミーは09年5月、20%以上の株取得を目指す株主に事前の説明を求める買収防衛策を導入した。ナガセは6月の株主総会で防衛策継続に反対したが、覆せなかった。(いずれもFC企業ではない)

 みずほ証券の渡辺英克氏は「学習塾の再編は避けられないが、規模のメリットを生かし難い。無理な投資をせず堅実に成長している事例もあり、各社の戦略が問われる」と述べている。(日経新聞、1月13日)

3. スーパーバイザー臨店指導はFCに不可欠な要素と東京高裁が判決

 09年12月28日の「フードリンクニュース」は次のような情報を伝えている。
 「F社東京高裁で敗訴。SV(スーパーバイザー)の指導力不足を認定。」

 この内容は概ね次のようなものである。「元加盟店が12月25日に東京高裁で勝訴した。経験と指導能力に乏しい若手社員をSVに充て、経営指導義務を果さず、損害が発生したとしてF社に損害賠償約4700万円の支払いを命じた。」
 東京高裁の判決文には、かってF社の加盟社であった3社が、F社及び加盟店開発並びにスーパーバイイザー(以下SV)業務を担当したV社に損害賠償を求める訴訟であり、加盟社3社が勝訴したものである。
 この判決文は73ページに及ぶ長文であり、かなり込み入った内容で、SV指導のみでなく、F社のビジネスモデル、不動産確保の難しさ、杜撰な立地診断、初期指導の実態、SVの指導の欠如等およそフランチャイズシステムに関するすべての事項が問題になっているが、中でも「SVの経営指導」について厳密な判断をしており、今後SV指導を巡って大いに参考になる内容であるので、詳細に紹介したい。(部分的に引用した)

(1)SVの臨店指導の本件FC契約上の位置づけ

① わが国においては,SVによる臨店、経営指導はFC契約の不可欠の要素であり、経営指導についての専門性を有するSVによる指導を受けることができるのが通常であると広く認識されている。特に、知名度の低いフランチャイズチェーンに加盟する場合、これらの指導がなければ、フランチャイズにかかる料金(ロイヤルティの意味か)を支払う意味は皆無である。

② SVの量の確保を十分に行わず、SVの質の向上のために必要な社内研修、社内教育を十分に実施せず、これら質および量の確保のための必要な費用の支出を惜しむ一方で、比較的経費をかけずに実施可能な「チェックリスト100」の作成とその運用などにより乗り切ろうとしていたものと推認される。経験者とペアで仕事をさせて若手社員を育成するという実例もみられないことから、そのような人的余裕もなかったものと推認される。

③ 他方、加盟店の多くは、契約締結前に、SVの指導の実態が、このような経験と能力に欠ける若手社員による、チェックリストに頼った形式的な現状分析に基づくレベルの低い指導であり、SVの人員も十分に確保されていないことなどを知っていたら、本件FC契約を締結しなかったものと推認される。

 この判決文は、現在FC展開をしているFC本部にとっては必須の内容であるので、是非全文を入手して熟読していただきたい。

4. フランチャイズ業界に対する規制は進むか

 2009年はフランチャイズシステムにおける本部と加盟店との対立が多発し、社会的にも注目を浴びた1年であった。

 特にセブンーイレブンの弁当値引き販売に対する本部行動は、公取委が優越的地位の濫用に当るとして排除命令を出し、最終的にセブンーイレブン・ジャパン社は排除命令を受け入れた。
 加盟店側では、09年8月に加盟店のオーナーが全国規模で「コンビニ加盟店ユニオン」(本部・岡山市)を設立した。当時民主党の代表代行であった小沢氏は、次のように挨拶したと伝えられている。
 「中小企業いじめ防止法を制定することをマニフェストでも明確にうたっています。皆さんが改善を求めているチェーン本部とコンビニ各店舗の契約もこの法律の適用対象とすることと致しております。」(日経ビジネス「民主党」) 同ユニオンは9月10日付けで連合岡山に加入することが認められた。日経新聞9月12日号によれば、オーナーは個々の加盟店を運営していることからこれまで経営者と位置づけられていたが「コンビニ本部の権限が強く、実質的な労働者」(連合岡山)と判断した。しかし、岡山県労働委員会には、同ユニオンから「労働組合としての認定」は出していない模様である。

 本部と加盟店の対立を重視してか、(社)日本フランチャイズチェーン協会は09年10月に「本部と加盟店の関係改善に向けた研究会」を発足させた。アンケート調査の実施、10年3月末をメドにトラブル防止に向けた対応策をまとめたり、加盟店向けの相談センターも設置している。

 民主党も、加盟店ユニオンなどの意見を反映しながら、フランチャイズ・システムにおける加盟店と本部の平等な関係を目指してフランチャイズ法の成立へ向けて勉強会をスタートさせたと伝えれている。
 フランチャイズ法規制については02年4月に中小小売商業振興法の改訂や公正取引委員会のフランチャイズガイドラインの見直しが行われたが、その後のフランチャイズ・ビジネスの広がりや変化に併せて変更することは考えられる。
 一般的な意見を述べれば、フランチャイズ加盟の事前の情報開示は中小小売商業振興法によっているが、この法の制定は古く(1973年9月)、かつ適用も小売業(含む飲食業)に限定され、サービス業が漏れている。
 そこで「フランチャイズ情報開示法」を新設し、現在以上に加盟店希望者に契約前の情報開示を行うことは必要であり、かつ有用であり、立法としても妥当な措置であると思う。
 しかし、フランチャイズ契約の内容にまで規制の網を掛けることについては反対である。先進国のフランチャイズ法は「契約自由」の原則に従い、国家権力がむき出しに契約内容まで踏み込む規制は少ない。

 小塚総一郎氏の「フランチャイズ契約法」は世界各国のフランチャイズ契約に関する立法を詳しく解説しているが、その中に次の一文がある「フランチャイズ法の効果はつねにコストとの比較において検証される必要があること、一般にフランチャイズ・システムに対する規制のあり方は自主規制を含む様々な類型の中から選択となること、そしていかなる規制もフランチャイズ契約の特質と機能を十分にふまえて設計されるべきであること、などである」「これらの教訓が忘れられるとき、権利義務の組み合わせによって当事者に最も効果的なインセンチィブを与えようとするフランチャイズ契約の目的は十分に達成されなくなるであろう」
 誠に、熟読玩味に値する意見である。
しかし、月刊コンビニに掲載された川辺信雄氏(早稲田大学教授)の「2010年の加盟店問題はこうなる」の次の文章は大いに不安になるものがある。 「10年は、民主党による政権交代が実現したために、こうしたフランチャイズ法の実現可能性が高まったと言える。その内容も、加盟店と本部のとの利益の平等な分配を図るために、ロイヤルティの上限を決めるなど、かなり直截的な内容になるものと思われる」(月刊コンビニ10年1月号「2010年コンビニ業界大胆予測」)

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