フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

ペッパーランチの国際フランチャイズ戦略について

Ⅰ ペッパーフードサービスの概要とペッパーランチについて

 (株)ペッパーフードサービスが展開するペッパーランチ1号店は1994年にFC店を大船に、直営1号店を浅草に開店した。従って同店の歴史は16年であり、比較的新興の業態である。2004年にペッパーランチ10周年には、100号店を達成し、2005年には156店となり、同年5月の日経MJでは店舗売上高伸び率第1位(前年対比55.3%の伸び)に輝き、また同年6月には農林水産大臣より「新規事業開発部門」として大臣賞を受賞した。また、2006年にはマザーズ市場に公開を果した。
 現在の同社の売上高等について、平成21年12月期の単体の決算短信から説明する。(以下同社HPより引用)

売上高
64億19百万円
営業利益
1億 8百万円
経常利益
92百万円

 売上高は会計上の売上高であり、全店売上高(直営店+加盟店売上高)は2010年5月17日の日経MJによる「第36回日本の飲食業調査」によれば
100億71百万円であり、その順位は137位である。
 同社の店舗数は10年5月28日のHPによれば

ペッパーランチ
212店
(国内 157店、海外 55店)
ステファングリル
7店
炭焼ステーキくに
10店
かつき亭
3店
炭焼ビーフハンバーグ&ステーキくに
6店
合計
238店

 ペッパーランチの業態を今更説明する必要はないと思うが、会社案内書より簡単に紹介する。
 「ペッパーランチでは、熱効率が非常に優れた特殊鉄板を、電磁調理器(特許取得)で約1分というスピードで急加熱。260度Cに加熱された鉄板にステーキ肉や野菜、ご飯を盛り付け、わずか2~3分でお客様に提供します。鉄板は20分たっても約80度Cに保たれ、お客様は音を立てて焼き上がっていくアツアツのシズル感を愉しみながら、最後の一口まで美味しく召し上がっていただけます。美味しさの決め手は,厳選された高品質の豪州ビーフに加えて、ステーキにかけたときに最大の旨みを発揮する秘密ブレンドのオリジナルステーキソースにあります。」
 「ペッパーランチの標準的店舗スタイルは15~20坪。シンプルなオペレーションで、多くのお客様にサービスが提供できる20~24席のU字型カウンター方式。もちろんL字型・ブース席設置型、またフードコート型など多用な立地に合わせて柔軟な設計で対応しています。」

Ⅱ ペッパーランチの国際フランチャイジングの歴史

 さて、ペッパーランチを語る場合、海外展開を抜きには語れない。 ペッパーランチの海外展開について、10年7月6日に一瀬社長にお話しを伺い、7月8日には電話で海外事業部長の管野和則氏にもお話を聞いた。(但し,文責はすべて黒川が負うことは言うまでもない)br> 最近、フランチャイズビジネスに於いては、日本国内の少子高齢化、人口減少を見据えて、海外特にアジアへの進出を希望するチェーンが急増している。 (詳しくは、弊社HP5月号「日本企業の国際フランチャイジングを紹介する」 を参照願いたい)
 ペッパーフードサービス(以下P社と略す)の海外展開は2003年のストレートフランチャイジングによる韓国から始まる(1店)。従って、海外展開を始めて既に7年が経過しており、10カ国、地域で59店舗(10年7月6日現在)に達しており、日本の外食企業の国際フランチャイジングでは、店舗数で第10位程度であると推定される。(「日本公業の国際フランチャイジング」によればP社は13位であり42店舗となっている。データの時期は2009年9~12月であり、比較的新しい)
 P社が国際フランチャイジングを意思決定した経緯について、一瀬社長に聞いてみた。

  1. P社が海外進出を考えるというよりは、むしろ海外からの出店要請、サント リー系の企業の要請があった。

  2. 当時(2003年頃)は,P社としては少子高齢化の影響は無かった。むしろ
       前年比は伸び続け、国内市場は伸びていた。「しかし、海外に進出する
       チェーンは伸びるが、出られないチェーンは伸びない」という気持ちはあっ
       た。

  3. 社長自身も「世界へ出て行くためには、広く、薄くかせぐことが重要である。進出先の相手企業に利益を与えることにより、日本とは比較にならな   い程の大きな利点が出る」と感じていた。

  4. いま、振り返れば良いキッカケであった。

 さて、海外フランチャイジングの展開によって、フランチャイズパッケージはどのように変化したのであろうか。  管野海外事業部長によれば、当時の日本型ペッパーランチとは大きく変化したそうである。
  1. P社独自のU型カウンターは消え、レストラン型大型店舗になった。具体的には70席程度の大型レストランが多数を占めるようになった。

  2. 日本では前売り方式のチケット販売機が多かったが、海外では食事後のレジ会計になった。カウンターでメニューを申し込んでもらって、テーブルまで運ぶウオークアップ方式に変更することにより、グローバルスタンダードになった。(この方式は後日日本でも広く取り入れられて、最近カウンターのみの店は減少しているように感ずる)

  3. カジュアル・クイック・ダイニングという位置づけになった。

  4. しかし、ショッピングセンター内のフードコート式の店舗の数も多い。

  5. 社長によれば、メニューの大枠は日本と同じものであるが、チキン、ポーク、やハラルの限定食材(イスラム教により限定される食材)を使用するメニューもあり、現地メニューは現地開発本部承認の手続きを取っている。

 同社の国際フランチャイジングの大きな特徴は、アジア全域(一部を除く)をサントリー・フード・ビヴァレッジ・インターナショナル(SFBI)にマスターフランチャイズ権を与えており、アジア各国のエリアフランチャイザーの選定についてはSFBIに任せている点である。これは、P社が日本国内でも知名度が十分高くない2004年度から、国際フランチャイジングを展開する場合には、サントリーの持つ知名度、信用度、資金力等が大変役に立ったものと思われる。

 以下、簡単にアジア各国のフランチャイズの現況について述べる。  まず台湾は2005年にSFBIがエリアフランチャイザーとして展開し、現在3店舗である。台湾の店舗は大型で繁盛店であるそうだ。
 シンガポールもSFBIの直営で2005年に高島屋の地下1階に大型店を直営で開店し、大繁盛店となった。一瀬社長は、1国で認知度を高めるためには、その国1番の繁華街に大型店を出店することが成功の要因であると言う。これは将に、マクドナルドが第1号店を1971年に銀座三越に出店した戦略であり、確かに知名度を飛躍的に上げる有力な戦略である。シンガポールは1号店の大成功により、現在22店舗と最大の店舗数となっているが、いずれもSFBIの直営店であり、サブフランチャイズの展開には至っていない。
 インドネシアは2006年にSFBIが現地資本にエリアフランチャイズ権を与え、2社のフランチャイジーと併せて11店舗を展開している。

 アジアでサブフランチャイズ化したのはインドネシアのみである。
 香港は2007年にSFBIが直営で1号店を開店し、現在5店舗に至っている。すべて直営で、サブフランチャイジングはしていない。
 タイは2007年にSFBIが現地資本にエリアフランチャイズ権を付与し、現在6店舗を展開している。すべてエリアフランチィザーの直営である。
 フィリッピンは2008年にSFBIが現地資本にエリアフランチャイズ権を付与し、現在3店舗に至っている。すべてエリアフランチャイザーの直営店である。
 マレーシャは2008年にSFBIが現地資本にエリアフランチャイズ権を付与し、現在3店舗展開している。これも、すべて直営店であり、サブフランチャイズは行っていない。
 中国全土のマスターフランチャイズ権は、SFBIに付与し、2009年に広東省広州の現地資本にエリアフランチャイズ権を付与し、現在3店舗を直営で展開している。
 また、北京には2010年にSFBIが現地資本にエリアフランチャイズ権を付与し、現在1店舗である。
 オーストラリアはP社が直接マスターフランチャイザーを選び、2007年に現地資本にシドニーのエリアフランチャイズ権を付与し、現在1店舗である。
 従って、P社の国際フランチャイジングは(7月10日現在)10カ国・地域(但し、中国は1国で計算)で、店舗数は59店舗に達する。 P社の規模、経歴から見れば、この国際展開の経歴は見事なものである。

Ⅲ P社の国際フランチャイジングの成功を予測した人がいる

 P社は2006年9月21日にマザーズに上場した。その記念パーティーが11月22日にホテルイーストで行われた。その記念式典には加盟店,OGMグループ、日本フランチャイズチェーン協会、日本フードサービス協会関係者、関連業者、従業員など約500名が参加した。
 その席上、いろんな方が挨拶されたが、特に次の挨拶は今日のP社の国際フランチャイジングの成功を予測するものであった。

 「一瀬社長は決して格好よい社長ではない。むしろ下町のイメージが強く、私は職人だと思っている。一瀬社長は今年64歳であるが、私にはケンタッキー・フライド・チキンの創業者カーネル・サンダースのイメージと一致する。

 カーネル・サンダースはガソリンスタンドを経営して、1956年にお客の要望により食事を出すドライブインを始めた。非常に好調であったが、ハイウエイの出入り口が他に移ってしまい、店の経営が悪化したので、この店舗を売却して同店の主力商品として自ら開発したフライド・チキンを車に乗せて各地のレストランへ売り込みにいった。
カーネル65歳の時である。彼の方法はフランチャイジーに圧力釜やスパイス等のセットを買ってもらい、3日間ほどのトレーニングを行い、チキン販売量に応じてロイヤルティを受け取るというものであった。
車による行商を始めたが遅々として進まなかった。この味が理解されるようになったら、1年も経ないうちに加盟者が増加するようになった。その後もサンダースは様々な工夫を試み、レストランへ売り込む方式から独立した店舗による持ち帰り方式をテストした。この評判が良く、システムは店舗方式に切り替わっていき、これがファーストフード方式の専売店になった。
90歳で亡くなる1980年には全世界で1万店のKFCが成功していた。私もカーネルから厳しくフライド・チキンの製造方法を習った一人であるが、それは職人の誇りをかけた仕事振りであった。

 ペッパーランチは、外国でも高い評価を受けている。日本食はブームで、海外ではどのブランドも成功しているように見られているが本当に成功している店は数えるほどしかない。ペッパーランチは日本で成功したが、むしろ海外ではもっと成功するモデルであると見ている。一瀬社長はカーネル・サンダースと同じ位の年齢で成功されたが、これから海外で一段と大きな成功が待ち受けているだろう」

 このご挨拶はジェーシー・コムサ大河原毅会長(元日本KFC社長、元日本フードサービス協会会長)のものであった。 (ブログ「フランチャイズ日誌」2006年11月25日より引用)  大河原氏はカーネル・サンダースと重ねて、一瀬社長の国際フランチャイジングの成功を予測したのである。

Ⅳ P社の国際フランチャイジングの特徴

 以上、2003年から2010年に至るP社の国際フランチャイジングの歴史を見てきたが、幾つかの特徴が見られるので私見を述べてみる。

  1. 2003年という比較的早い段階から国際フランチャイズに取組み、7年間で10カ国・地域で合計59店舗を展開したスピードと広がりは立派なものである。

  2. この成功にはサントリー(SFBI)のアジア圏におけるマスターフランチャイズ権の付与が大きな成功要因となっていることは言うまでもない。
    SFBI(むしろサントリーと言うべきであろう)の知名度、信用力、資金力、過去の飲食事業の成功事例などの貢献が大きいことは論ずるまでもない。

  3. また、一瀬社長の世界戦略である「広く薄く(利益は少なくても良い)」の理念は見事に果されている。
    因みに、国際フランチャイズのもたらす売上高は年間1億2千万円(単独決算の50分の1という低さ)で、粗利益は8000万円程度であるそうだ。(平成21年度の利益貢献はそれなりに高いが、売上高貢献は低い)
    因みに、売上高に計上するのは電磁調理器、皿、調味料、ロイヤルティ等であり、如何にロイヤルティが低めに設定されているかが判る。筆者の推定では売上高の1%程度ではないかと見ている)

  4. アジア展開の広がりは大きいが、1国1国の店舗数はシンガポール、インドネシアを除けばいかにも少ない。日本と同じでドミナント出店が原則ではなかろうか。

  5. サブフランチャイジングが進んでいない。インドネシア以外は、すべてマスターフランチャイザー若しくはエリアフランチァイザーによる直営展開のみである。
    これはP社に限定した話では無く、凡そ日本の国際フランチャイジングは現地資本によるサブフランチャイズが極めて少ない。
    P社のオペレーションは極めて簡素、スピーディーであり、ある期間の店長研修を行えば、簡単に技術移転がし易い業態であり、サブフランチャイジングは、比較的容易であると思う。

  6. しかし、進出しているすべての国で売上高は前年比をクリアーしており、ア ジアの力は感じられる。

Ⅴ P社の今後の国際フランチャイジング戦略

 以上のようなP社の国際フランチャイジイングに関する問題点から、一瀬社長にP社のこれからの国際フランチャイジング戦略を語ってもらった。
一瀬社長の回答は明確であった。

  1. アジアはサントリー(SFBI)に任せたので、サントリーに頑張ってもらう。サブフランチャイズも展開してもらいたい。特に中国では米飯が売れている。ペッパーライスが一番の売れ筋商品であり、中国人は米飯、胡椒、醤油、牛肉が大好きであり、ペッパーライスが好評の理由である。

  2. アメリカではP社が、出来れば合弁企業を作って、そこへマスターフランチ ャイズ権を付与したい。 その場合の1号店は、全米で話題となるような絶好の立地を選びたい。シン ガポールで成功を収めたように、路面店で知名度を高める店舗を出店した い。しっかりとした立地を選んで、着実に出店したい。 P社と合弁会社により、アメリカに最大の力を投入し、サブフランチャイズ もアメリカでは積極的に展開したい。 2011年にアメリカ西部のロスアンゼルスへの出店を計画している。海外 でもペッパーライスが一番の売れ筋であり、米飯を食べるアメリカ西部に適 した業態であるので、まずカリフォルニアからスタートしたい。 2012年のアメリカフランチャイズショーにも出展して、サブフランチャ イズの可能性にも挑戦したい。兎に角アメリカに最大の力を注ぎたい。

  3. カナダも有力な市場であり、ここもP社がダイレクトフランチャイジングか、合弁事業の立上げを考える。

  4. その他、イギリス、ブラジル、ドバイ、ロシアからも商談が来ている。あまりにも多くの国から商談が来ているので、簡単には進められない。当面、アメリカ、カナダに力点を置いて進行したい。

  5. SVの育成については、サントリー(SFBI)が既にSV研修能力を保有している。アメリカでサブフランチャイズを展開する場合には,P社のノウハウが有効に活用される。マニュアル体系は、日本のマニュアルと同じ内容で英訳されており、全世界は、このマニュアルで通用する。

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