フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

飲食業の究極の競合店対策 フランチャイズ時評

 「大手の競合店が目の前に進出した。少子高齢化社会の到来で日本人の胃袋が縮小した。人口減少が現実に始まった。デフレ社会で安売りが激化している。最低賃金が1千円の時代が来る。日本の飲食業は崩壊に向かっている」
 日本の飲食業界の声を代弁するならば、多分このような意見が圧倒的に多いであろう。この声は、極めて現実的であり、これを「間違っている」とか「消極的すぎる」とか批判できる人は少ないのではないか。
 ましてフランチャイズの加盟店の場合は、メニュー、売価、仕入れ原価、販売促進は、ほぼ本部の指示通りで、加盟店独自の競合店対策は打てないのが現実であり、仮に競合店に対抗するために一時売価を下げたとしても、本部はその対抗費用は負担しない(負担できない)のが実態であり、実質的に競合店対策は打ちようが無い。
 本部は可能性が残っている。例えば、海外特にアジアに進出し、国際フランチャイジングを展開する可能性はある。しかし、加盟店が自ら海外に進出し、フランチャイジーとして海外展開することは実現性が薄い。(但し、九州の加盟店にはアジア進出を考え、子息を中国語の学科に学ばせている実例はある)
 本稿では、平凡ではあるが、やれば確実に大手競合店に対抗できる事例を紹介し、日本の外食業にも明るい未来が開ける可能性があることを伝えたい。この企業の活動を通して、悩める多くの飲食業のオーナーや店長に読んでいただき、元気を回復してもらいたい。

Ⅰ 企業の概要と、大手競合店とのバッティングについて

1. 企業紹介

 埼玉県に本社を置く(有)パートナーがその企業である。このFC市場レポートの08年11月号、07年9月、10月、11月号に亘り連載した、風風ラーメン8店舗を展開する典型的な法人・複数出店社であり、社長は鈴木敏平氏(61歳)である。社員数は8名である。
 2010年7月度の売上高は、全店で4、550万円であり、1店平均570万円の、ごく平凡なラーメン店である。

 その本部であるリズム食品(株)は、福岡県北九州市に本社を構え、全国の出店数は3ブランド(風風ラーメン、桜吹雪に華が舞う、一麺亭)62店(HPから計算)であり、ラーメンチェーンとしては決して大手とは呼べない。精々中堅と呼ぶのが精一杯である。しかし(社)日本フランチャイズチェーンの正会員であり、その経営理念やNHKKと呼ぶ社員教育には定評があり、筆者は高く評価している。
 さて、パートナーは東武東上線沿線にドミナント出店し、埼玉県7店舗、東京都1店舗の布陣である。

2. 大手競合店の出店

 東武東上線の朝霞駅は各駅と準急しか止まらないCクラスの駅である。この駅に東武鉄道は、今年の4月に駅中商業施設を拡充し、新たに本屋、31アイスクリーム、ピザ屋、バーガーキング、ラーメン2店を増強した。
 パートナーは東口に1店舗、南口に1店舗のラーメン店を10年前から開店している。今回の商業施設の拡充で東口の駅中(1階)に、中華食堂日高(260店ラーメン390円)が、南口の1階にはらあめん花月嵐(フランチャイジー)が出店してきた。
 商業施設は2010年4月28日のオープンであり、当然のことながら行列の出来る毎日が続いた。
 パートナーの風風ラーメンは南口、東口2店合計で前年比75%まで低下した。また南口には昔から「ギョウザの満州」があり、ラーメンの激戦区であった。
 通常、大手競合店が近隣に出店した場合は、まず安売り、ボリュウーム増加等の短期戦略を考えるケースが多い。しかし、フランチャイジーとしての選択肢は殆どないのが実態である。本部に要請しても、安売り原資の補助はなく、勝手にボリュームを変更することは許されない。 
 パートナーの鈴木社長は本部に要請することはしなかった。鈴木社長は「安売りは絶対しない。フランチャイジーが安売りをしたら後がない。大手では絶対できない手法が必ずある。幸い当社は8店舗あり、2店舗が前年対比70%台になっても、それで会社が不安定になる訳ではない。道は開ける」と 朝霞両店の店長である木下成貴君に語ったそうである。
 この場合、オーナーがうろたえては全社員が不安になる。会社設立以来の危機ではあるが、オーナーが泰然と構えたことが社員には大きな安心となったであろう。

Ⅱ 大手競合店対策

1. お客様の名前を覚える

 元来、パートナーと言う会社はデータを大切にする会社である。2000年の創業以来、顧客台帳を整備し、お客様の誕生日にはバースデイカードを送り、来店の際には「全部盛りラーメン」を提供するなど、様々な顧客サービスに勤めてきた経緯がある。
 しかし、個人情報保護法が制定された後は、住所、電話番号まで入った顧客台帳の利用は、情報流出の恐れがあり、活動が手抜きになっていたことは間違いない。
 そこで鈴木社長は、「お客様の名前を覚えろ。お客様の好みを覚えろ。お客様からオーダーを戴いてから作るのではなく、お客様の顔を見たら○○さんようこそ。いつものもので宜しいですかと聞け。サービス業はお客様の顔と名前を覚えることが原点だろう。原点に戻ろう。」と指示したそうである。
 そこで、新しい顧客名簿を再度作ることにした。名簿には名前、住所、お客様の特徴、ラーメン、トッピング、サイドオーダー、生年月日などが書き込まれている。(すべてのデータが書き込まれている訳ではない。要はお客様の名前と好みのラーメン、トッピングを覚えることである。)
 まだ始めて間もないことから、全店では200名から50名程度の名簿しか出来ていない。従業員の意識によってお客様ファイルの完成度は変わる。鈴木社長は「注文を聞くようではサービス業ではない」と断じている。

 話は変わるが、「飲食店経営」2010年8月号に「店長の裁量」という特集号が組まれている。フードサービスコンサルタントの梅谷羊次氏(元ロイヤル取締役)が「店長の仕事」として、③「店長はキッチンからダイニングへ、顧客の名前を覚える」の項で次のように述べている。

 「米国の経営者の言葉によれば、ネイバーフッドレストランの成功要因は、店長が顧客の1割程度の500~1500人の名前を覚えること。大変な数だが難しいことだろうか。
 はやっている元気な居酒屋では従業員全員が名刺を持ち、初めてのお客さまにあいさつしている。店長は1年で数千枚の顧客の名刺を持ち、実に多くの顧客の名前を覚えている」

 梅谷氏は「飲食店経営」に毎号「江頭匡一に叱られて」(8月号で連載20回)を連載されている。ロイヤルの創業者江頭匡一氏(日本の外食業の創業者)に直接指導を受けた記録であり、貴重な証言である。毎回連載を筆者は楽しみにしているが、梅谷氏の発言はロイヤルで40年近く勤務された外食業の現場からの発言であるだけに、十分記憶に値するものがある。
 多分、お客様の名前を覚えるということは、フードサービス業の原点なのだろう。ネイバーフッドレストランで無くても、居酒屋でもラーメン店でも来店客の顔や名前や好みを記憶することは当然のことかも知れない。500名は無理としても100~200人程度までなら、ある程度の努力で可能ではないかと思う。

 問題は、従業員にいかにしてお客様の名前や好みを覚えてもらうようにするかの方法論である。鈴木社長は、オーダーを受けてからではなく、お店側から「いつものラーメンで宜しいですか」と話かけた場合には1件につき店長50円副店長(PA)50円を支払うことを始めた。わずか100円ではあるが名前で呼んだり、好みでお客様に提供できた場合は、従業員に支払われるのである。即ち、「安売りはしない。原資は従業員に支払う。お客様がどちらを選ぶかは、自ずから明らかである」と断言している。
 これだけが要因では無いだろうが、朝霞両店は7月度で前年比90%まで回復している。全店ベースでは7月度で95%まで回復している。全店日報には「名前で注文顧客登録数」の月末と月間の実績が店舗別に記録されている。

2.競合店との差別化を行う

 ラーメン屋は、どうしてもラーメンで勝負をしようとする。それ以外に競合店と差を付ける方法がある筈である。例えば、夜はラーメン店でも居酒屋的な利用はある。まず、ラーメンではなく、ビールを注文する人には、まずドリンクの提供をスピーディーに行い、併せておつまみを早く出せるものから出す。例えば冷やっこはビールと同時に提供する。不況の時代に一番人気のあった業態は「立ち飲みや」であった。「立ち飲みや」以上のスピードで提供できれば、お客さんは喜んでくれる。
 この居酒屋化は大いに当ったと木下店長が語ってくれた。

3. お客様を楽しませる

 さて、パートナーでは「安売りはしない」と書いたが、実は月に1回「夫婦の日」を設け、その日に限定して商品サービスをしている。毎月22日を夫婦の日として、来店客全員とキャストがジャンケンをして、お客様が勝てば、餃子1皿無料提供をしている。
 あいこでは駄目である。あくまでもお客様が1回のジャンケンで勝った場合のみ無償提供である。これにも裏がある。勝率3割3分3厘以上の従業員には、1日1千円の褒章が出る。お客様に勝ってもらって楽しませる試みであるが、従業員にも楽しく働かせる仕組みである。
 お客様とキャストがジャンケンをするとか、お客様の名前を覚えるとかいうことは大手チェーンでは不可能である。特に外食業の場合は外人労働者が多く、満足に意思疎通もできない状況で、このような仕組みは無理である。中小チェーン、フランチャイジーだからこそ出来る仕組みではなかろうか。

4. マンガ本を戦略的に利用する

 風風ラーメンは、まんが本を必ず店内に並べている。数百冊という規模である。これは、本部方針であり、契約にも明記されているようだ。鈴木社長も最初は、「お客様の回転が悪くなる。無駄な空間ではないか」と自問したそうである。しかし8店舗を展開するうちに、このまんが本の効果に気付いたとのことである。およそ、飲食業でまんが本を数百冊の規模でかならず揃えているチェーンはない。個人経営のカフェや理髪店では雑誌やまんが本を見ることはあるが、チェーン店では絶対にない。やはり坪効率、客席回転率などを考えたら無駄なものだろう。
 しかし、鈴木社長は「まんが本を戦略的に活用する。単に本部から強制されるから、いやいや置くのではなく、人気のまんが本をキチント揃え、お客様に喜んでいただく空間を提供することが風風ラーメンの大きな武器である」と強調された。フランチャイジー店がしたたかに生き残る戦略としてまんが本の活用を考える姿勢には共鳴した。
 筆者の世代になると、まんが本の楽しさを知らない。しかし、現在NHKで放映されている「ゲゲゲの女房」は実に面白い。毎日何回も見ている。内容も面白いが、時代背景が東京オリンピック、大阪万博など日本の高度成長の時代が描かれており、他人事ではない面白さがある。
 ちなみに、「ゲゲゲの女房」の視聴率は20%を超えている。NHKが力を入れている大河ドラマ「竜馬伝」は17%台であり、3%も超えている。このまんがの面白さに気付いたのは筆者のみでは無いようだ。

Ⅲ しかし最後の勝負は生産性の高さである

1. 人時売上高が一番大切

 かねて鈴木社長は、飲食業に取って一番大切な計数は人時売上高であると主張されている。
           人時売上高 = 月間売上高 ÷ 総労働時間
 この値を高くするためには、売上高を上げるか、売上高を維持して労働時間を減らすか、2つに1つしか道がない。
 これと似た概念で人時生産性がある。これは月間粗利益÷月間総労働時間 で求められる。粗利益は売上高―原価であり、生産性を示す。原価率が一定ならば、人時生産性に替えて人時売上高が利用できる。

 手元にあるパートナーの資料を見ると、
     
売上高
  
前年比
    07年5月度の全店売上高
4,750万円
  
 
    08年5月度の全店売上高
5,150万円
  
108.4%  
    10年7月度の全店売上高
4,544万円
  
88.2%(5月比)

 単純に5月売上高と7月売上高を並べるのは間違いである。季節指数から言えば、当然ラーメンの売上高は7月よりも5月の方が高い。
 あえて比較したのは、手元に10年5月の実績が無いからであるが、実は5月実績は最悪の数字である。5月に比較すれば、前年対比の数字は5%も上がっている。そこで無理を承知で7月の数字を並べてみたのである。
 しかし、売上高も基本数字であるが、問題は人時売上高である。

     
人時売上高
    06年(1月~12月)の人時売上高
4,560円
    07年(1月~12月)の人時売上高
4,795円
    10年7月度の     人時売上高
4,908円

 なんと売上高が低下(07年5月対比88.2%、09年7月度対比94.6%) する中で、人時売上高は向上している。これぞ、正にパートナー式経営である。
 手元にあるデータを利用してみると、次の数字がある。

    08年10月度の総労働時間数
9,855時間
    10年7月度の総労働時間数
9,259時間(08年比93.9%)

 売上高は減少した。それに連れて総労働時間数も減少し、最終的に人時売上高は上昇し、生産性は上がったのである。
 鈴木社長によれば、売上高が前年比90%の時は、営業利益も前年比90%程度で終わると言う。一般的に売上高が10%下がれば、人件費、家賃などは固定費であるため、営業利益は60%程度まで低下するものである。しかし、人時売上高経営を行えば、売上高に比例する程度でしか、営業利益(これは経常利益でも同じ)は低下しない。正に、売上高縮小時代に適した経営手法である。

2. 人時売上高を上げるために何を行ったか

  1. 人時売上高を上げるためには、店造りの段階(レイアウト)から考えねばならない。パートナーの店舗はすべてカウンターのみである。4人客などの客席はない。コの字形のカウンターである。真中が厨房であり、ラーメン作りが見られるオープンキッチンである。極論するならば、一人で厨房と接客が可能である。この店作りがパートナーの高い人時売上高を可能にした。
  2. どの店のレイアウトは同じである  8店舗のパートナーの店舗は、面積の差や店舗の形(例えば入り口が広い、置く行きが浅い等)の差はある。しかし、厨房やカウンターの形(レイアウト)はすべて同じである。だからパート・アルバイトの移動が簡単に出来る。  しかも、ドミナント出店であるため、東武東上線を利用すれば、隣の店は5分も掛からない。PAの店舗間移動は簡単に出来る。PA不足を考慮して、やや大目のPAを採用する店が多い。パートナーは全店共通で利用できるPAであるため、余分な人を抱える必要は全くない。むしろPAは足りない位が一番良いそうである。
  3. 一人制担当の奨励給は1時間2百円に上げた

 パートナーには様々な奨励給制度がある。(これについては08年11月号の「FC市場レポート」に詳しく報告している。)
その中に「アイドルタイムの一人営業」という項目がある。大切なところなので、再度引用してみる。
「ラーメン、うどん、そばのような業態は1日フル営業をすると必ずアイドルタイムが生じる。従来はアイドルタイムも2人制を敷いてきたが、考えて見れば、一人営業も不可能ではない。そこで08年5月より、できる店からアイドルタイム一人営業に切り替え、その時刻に働くキャスト、副店長(いずれもPA)の時給を100円アップしている。これによりその時刻の人時売上高は高くなり、働く人も100円アップになる」 
10年5月から、一人営業の時間帯の奨励給は200円にアップした。これはカウンター席だから可能であった。200円時給をアップしたことにより、一人営業制を希望するPAが増加した。売上高の低下と共に労働時間数も減少しているので、一人営業時間帯の勤務を希望するPAが増加したのであろう。仮に200円アップしても、2人営業に比較すれば人時売上高は2倍となる。それを労働強化と考えるか、収入増と考えるかは個々のPAの判断で強制はしていない。問題は喜んで働いてもらえる環境作りである。
 ちなみにパートナーの営業時間は、朝11時~翌日午前5時(又は3時)である。1人制営業時間帯は店により異なるが、概ね見当は付く。ここまで考えて、働く人の同意を得ながら1人制営業時間帯を延ばして人時売上高を向上させているのである。

3. 人時売上高向上は外食産業の地位向上につながる

 今の日本の外食産業は、情け無いほど暗い面ばかりが強調される。本来食は豊かなものであり、人の心を温め、愉しみを与えるものである。
 鈴木社長は、日本の外食業界全体を明るくしなければならないと熱心に説く。自分の会社が良ければ良いのではなく、飲食業界全体を明るくする方策が必要である。
 間違いなく人時売上高を上げれば、飲食業界全体に利益が出る。従業員にも明るさが戻る。儲からなければ、売上高を上げても意味がない。利益が出て初めて明るくなる。外食産業の社会的地位向上のために、もっと多くの関係者に人時売上高の重要性を理解してもらい、人時売上高の向上に努力してもらうことを強く希望したい。
 外食産業全体の社会的地位の向上を考えよう。 

参考資料:
フランチャイズ研究所HP 「飲食業の利益の源泉は人時売上高に有り」
                             2008年11月号
フランチャイズ研究所HP 「FC加盟の成功者を分析する」
               「   〃 (その1)」 2007年 9月号
               「   〃 (その2)」 2007年10月号
               「   〃 (その3)」 2007年11月号

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