フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

「フランチャイズ・システム経営近代化について」

序文

筆者は、この提言を田島義博編「フランチャイズ・チェーンの知識」(日経文庫、昭和58年6月第1版1刷)付録として掲載されていることで知った。長くこの提言をした人達を気にしていたが、「旧版、フランチャイズハンドブック」の290頁に名簿が掲載されていることを後日知った。
 中小企業診断士東京支部フランチャイズ研究会の会合で、2010年11月8日に「フランチャイズ本部の格付けについて」と題する講演を行った。講義の内容はダイヤモンド誌(2010年9月11日号)の「フランチャイズの悲鳴」の中に掲載された「上場129社経営力ランキング」を中心とした、経済誌が過去に行った「本部格付け」に対する分析である。(詳細は2010年9月号FC時評「週刊ダイヤモンドのFC経営力ランキングについて」を参照)
 その中で本部格付けが生まれた背景として、本部登録制度があり、その最新版が「ザ・フランチャイズ」であると説明した。しかし、本部登録制度を提言した「経営近代化について」を知る人は一人もいなかった。この提言を記載した「旧版、フランチャイズハンドブック」を持っている人は1名のみであり、今は絶版となっている。また「フランチャイズ・チェーンの知識」も絶版であり、これからフランチャイズを勉強したい人には、この提言を入手することは極めて困難である。
 そこで、FC時評5月号を利用して「経営近代化について」を再現することにした。この著作権は、日本フランチャイズチェーン協会に属すると思うが、無償の情報提供であるため、敢えて利用についての承諾は得ていない。

本文

フランチャイズ・システム経営近代化推進遽議会・昭和57年7月5日

わが国におけるフランチャイズ・システムは、本格的に導入されて以来約20年を経過し、今日までそのシステムの特徴である優れた機能性により、経営近代化のための手法として幅広い業種・業態にわたって採り入れられ、その伸長は、近年著しいものがある。
 フランチャイズ・システムが、今後とも健全な発展を遂げて行くことは流通の近代化にとって極めて重要であるばかりでなく中小小売・サービス業の振興施策の一環としても大きな役割を果たすものと考えられる。
 このため、本協議会においてはフランチャイズ・システム経営の近代化の基本的方向につき鋭意検討を進めて来たところであるが、この度、以下の通りまとめを行った。

Ⅰ フランチャイズ・システムの役割と課題

 フランチャイズは、本部事業者(フランチャイザー)が加盟者(フランチャイジー)との間に契約を結び、自己の商標、サービス・マーク、トレード・ネームその他営業上の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチァイザーの指導及び援助のもと事業を行う両者の継続的関係をいい、フランチャイジーの資本・労働力と連携することによって経営の効率化が可能となり、一方フランチャイジーはフランチャイザーの持つ知名度の高い営業標識,優れたノウハウ及び継続的指導・援助の提供を受けることによって既存小売店の活性化が図られ、また、リスクの少ない新規事業の開始、事業の転換及び経営の多角化が容易になるものである。
 フランチァイザー・フランチャイジー双方がその機能を分担することにより経営上の効率化・合理化が可能になるとともに独立事業者でありながらレギュラーチェーンと同様のスケールメリットが享受でき経営近代化のための手法として優れた特徴を有している。
 また、以上のようなフランチャイジーの経営効率化に加え、国民経済的にみても➀流通近代化の促進➁中小小売・サービス業の振興➂多様化する消費者ニーズへの対応➃サービス経済化に伴う事業及び雇用機会の増進等評価すべき成果をもたらしている。
 しかしながら,我が国におけるフランチャイズ・システムについては、次のような解決すべき課題が存在している。
(1)フランチャイザーの経営方針とフランチャイジーのシステムに関する期待の乖離
 消費支出の低迷、消費者ニーズの多様化等競争環境の変化の中にあってフランチャイズ・システムの経営方針は➀商品開発➁指導・教育➂その他のシステム開発等本部機能の充実よりもチェーン展開によってフランチャイズ・システムの成長を図るという方向に重点が置かれる懸念があり、フランチァイジーもこのような方針に不安を抱いている。
(2)フランチャイズ契約の不明確さとフランチャイザーの一方的有利性
 フランチャイズ・システムにおいては、契約は最も重要な要素であるが、国民性からくる契約概念の乏しさに加え、契約に不慣れな者も契約当事者になり得るところから一部項目について契約上不明確な場合又は明記されていない場合もある。
 また契約そのものは予めフランチャイザーの定めた内容によることもあって契約の期間・更新・解除・他チェーンへの加盟禁止、契約解除後の営業制限等の条件がフランチャイザー側に一方的に有利となっているケースもみられ、後々のトラブルを生ずる原因となっている。
(3)フランチァイザー・フランチァイジー間のコミュケーションの欠如
 フランチャイズ・システムは、本質的にはフランチャイザーとフランチァイジーがそれぞれの機能を分担しつつ一体となってその発展に努めていくべきものであるが、フランチャイジーサイドにおいては、フランチャイザーの事業運営に対し十分な意見を提示する機会がないこと等から不満及び将来における不安も見受けられるところである。
(4)不十分な情報提供及び紛争に係る専門的処理体制の不備
 フランチャイズ・チェーンへの加盟は多額な投資が必要であるが、加盟しようとする者は、そのほとんどが中小企業者であり、また、いわゆる「脱サラ」組も多い等フランチャイズ・システムに精通している者はわずかなものに止まっているのが現状である。
 一方、フランチャイズ・チェーンへの熱心な勧めによるものが多いが、勧誘に当たっては収益の見込み,必要な運転資金等について適切な情報の提供が行われていない場合もあり、また、フランチャイザーが誇張した情報を提供する場合もなしとしない。
 また、フランチャイザーとフランチァイジーとの間で契約等について紛争が起きた場合十分な対応ができる専門的処理体制が十分とは言えない状況にある。
(5)中小小売商業振興法による開示義務の遵守
 中小小売商業振興法による開示義務の遵守状況については、昭和53年度及び56年度に調査が実施されているが、今後はこれを更に充実し、運営の適正化を図ることが要請されている。

Ⅱ フランチャイズ・システム経営の近代化の基本的方向

(1)本部機能の充実
➀フランチャイズ・システムにおいてフランチャイザーの果たす機能は極めて重要で、システムの成否及び成長はこの機能に懸っていると言っても過言ではない。
 本部機能として、中小企業庁が作成したフランチャイズ・システム・マニュアルは⒜原・資材開発機能⒝商品・サービス開発機能⒞教育・訓練・指導機能⒟販売促進機能⒠金融機能⒡情報機能⒢経営管理機能及び⒣これらの機能を有機的に統合して「フランチャイズ・パッケージ」を作り上げるシステム開発機能等を挙げているが、これらはフランチャイザーの最も基本的な機能となっている。
 今日のような情報社会においてはPOSシステムの導入などの情報管理システムを採り入れて経営の近代化を進めるとともに、今後ますます進展が予想される競争環境の変化、消費者ニーズの多様化等に対応していくため、フランチャイザーは常にこれらの諸機能の充実に努め体質強化を図る必要があろう。
➁フランチャイズ・システムの成長は、本部機能に依存するところが大であるが、かなりのフランチャイザーにおいてはスーパーバイザー、商品担当者、販売促進担当者ともわずかなものに止まっており、更に、フランチィザー自らも本部人材の不足を認識しているものがかなりあり、本部体制は必ずしも十分であるとは言い得ない実情となっている。
 また、フランチャイジーの中には、⒜期待したほど利益がない⒝期待したほど本部が適切な指導をしてくれない⒞期待したほど本部の商品・標章に価値がない等の不満を有しているものも少なからず見受けられるところである。  本部の事業運営に対する評価についても、同業者間の競争の激化からフランチャイザーの採る経営方針が本部機能の充実よりもチェーン展開に重点を置きがちで、これに伴い多くのフランチァイジーは、今後成長が鈍化していくにもかかわらず新製品・新事業の提供、適切な指導が受けられなくなるという将来に対して強い不安を感じている。
 このようなことから、フランチャイザーとしては本部機能の充実に努めるとともにその充実の度合いに応じたチェーン展開すなわちフランチャイジーの募集を行う必要があろう。
 また、スーパーバイジングのあり方について(社)日本フランチャイズチェーン協会等においてマニュアル化を検討するとともに中小規模のフランチャイザーのように独自ではスーパーバイザー等本部スタッフの教育・養成をなし得ないものに対しては、同協会等の助力を得て本部スタッフの充実に努めることが要請される。

(2)適切な契約の推進
 本来、フランチャイザー・フランチャイジー間の関係は契約が基本となるものであり、その意味で契約上の権利・義務関係が契約上明確にされていることが必要である。
 これによりフランチャイザー・フランチャイジー間の紛争の大半は未然に防ぐことができるものと思われる。
 しかしながら、契約書をフランチャイザー・フランチァイジー間の法律関係を決定するものとして重視している者は全体のほぼ半数に止まっているのが現状である。
 文書により権利・義務関係を明示している場合においても契約項目は各チェーンにおいてまちまちであり,重要な項目についても契約上不明確又は明記されていない場合が見受けられる。
 また、フランチャイズ契約は、予めフランチャイザーの定めた内容によることもあってフランチャイザーに一方的に有利になる条件になるケースも見られる。
 以上を踏まえ、適切な契約の推進するためには契約内容を文書により明確なものとするとともに、その内容についてフランチャイザーは以下の点に考慮する必要がある。

➀ 契約の期間は、フランチャイジーの投資の回収可能性を考慮したものとすること。(契約の期間が短期のものにあっては更新条件についてこの点を考慮する必要がある。)
➁ 契約の解除は、フランチャイジー側も可能となるような措置すること。また、解除条件を明確に規定すること。
➂ 加盟金,保証金、ロイヤルティ等フランチャイジーの負担金については、その負担根拠を明確にするとともにフランチャザーの提供する指導についてはその内容を明らかにすること。
➃ 他チェーンへの加盟禁止及び契約解除・終了後の営業制限については、正当な理由がある場合に限るものとすること。
 このため、現在(社)日本フランチャイズチェーン協会においてフランチャイズ契約書作成の指針が策定されているが、本指針を上記視点を踏まえより一層充実させるとともにその普及が望まれるところである。

(3)フランチャイザー・フランチャイジー間のコミュニケーションの緊密化
 フランチャイズ・システムの健全な発展のためには、フランチャイザーの意思決定に当たってフランチャイジーの意見も十分反映されることが望ましいものであるが、前述のとおりフランチャイジーの中にはチェーンの事業に関し意見を提示する機会がない等の不満を有しているものも少なくない。
 現在、約4割のフランチャイズ・チェーンにおいていわゆる加盟店会が設置され、フランチャイザーのフランチャイジーへの意思伝達、フランチァイジー相互間の情報の役割を果たしているが、フランチャイジーがその意見を事業運営に効果的に反映させるシステムとしても有用なものとなっており、その円滑な運営と健全な発展を図るためかかるシステム等を通じ、フランチャイザー・フランチャイジー間のコミュニケーションを緊密にすることが望まれる。
(4)フランチャイズ・チェーン業界に対する適切な指導
 フランチャイズ・システムが健全な発展を遂げて行くためには、フランチャイザー・フランチァイジー双方がその特質を生かしつつ、経営体質の確立に努めることが肝要である。
 しかしながら、前述のとおり本部体制が必ずしも十分でないフランチャイズ・チェーンが多く、加盟する際既存加盟店・直営モデル店の営業成績等収益の見込みについての情報が十分に提供されない、又は過大に提供されるといった不満を有しているフランチャイジーが多いのが実情である。
 各フランチャイズ・チェーンにおいては、上記のような事実に鑑みその健全な発展を遂げるため最大限の努力を払うことが望まれるが、フランチャイズ・システムの健全な発展を図ることを目的として設立された(社)日本フランチャイズチェーン協会においては、今後、以下のような措置を講ずることが要請される。
➀ フランチャイズ・チェーンへの加盟を希望する者に対して適切な選択の指標を提供すべく一定の基準に合致するフランチャイザーについて登録制度を確立すること。
➁ 協会内に学識経験者からなる委員会を設け、苦情処理等フランチャイザー・フランチャイジー相互の公正な関係の維持を図る体制を確立すること。
➂ 既に協会においては「フランチャイズ・スーパーバイザー学校」を開催する等本部スタッフに対する教育・研修事業を実施してきているところであるが、今後本事業の一層の拡大を図ること。
 なお、各フランチャイズ・チェーンにおいては上記のような(社)日本フランチャイズチェーン協会の諸事業に対し積極的に協力することが望まれるところである。 (5)中小小売商業振興法の積極的活用
 中小小売商業振興法では、フランチャイズ事業の運営の適正化という観点からフランチャイザーはチェーンに加盟しようとする者と契約を締結しようとする者との契約を締結するときには、あらかじめその者に対し、法律で定められた事項を記載した書面を交付し、説明することを義務付けている(法第11条)。  当該規定の遵守状況調査は、昭和53年度及び56年度に実施され、指導が行われてきているところであるが、本規定の遵守を一層周知徹底するため以下の事項について検討する必要がある。
➀ 同法第11条の周知を図るための講習会、説明会等を実施す必要がある。
➁ 本規定の書面の標準化、遵守状況の把握体制及びその後の指導体制の整備について検討する必要がある。
➂ 同法第11条は、小売商業(飲食業を含む。)についての規定であり、サービス業は適用されないものとなっている。
 現在、フランチャイズ・チェーンに占めるサービス業の比率は12%となっているが今後は増加することが見込まれるため社会的要請が高まればサービス業についても振興及び運営の適正化が図られるよう検討する必要もあろう。

フランチャイズ・システム経営近代化推進協議会委員名簿

    備考
田島義博 学習院大学教授 (座長) 故人
川越憲治 弁護士  
松崎来輔 (社)日本フランチャイズチェーン協会  専務理事 故人
三浦 功 (社)流通問題研究協会専務理事  
和田茂穂 日本経済新聞社論説委員  
駒井茂春 (株)ダスキン取締役社長 故人
鈴木敏文 (株)セブンーイレブン・ジャパン社長  
藤井和郎 (株)不二家専務取締役  
大久保省三 小僧寿し東京小僧会会長  
大野宏明 ファミリーマート太閤三山店主  
国府田勇 珈琲館グループ運営委員長  
三谷久也 ケンタッキーフライドチキン加盟店会理事  
山西利夫 ミスタードーナッツフランチャイズ共同体理事長  
  (順 不同)  

加筆(黒川)  学者、学識経験者、フランチャイズ本部代表以外に加盟店代表を入れている委員会は(社)日本フランチャイズチェーン協会の委員会では、初めての試みではないか。なお、肩書はいずれも当時のものである。また,故人としたのは筆者が理解している範囲であり、それ以外もあるかも知れない。



まとめ

  1. 1. 本提言の発表された昭和57(1982)年は、協会が設立されて10年が経過した節目の年であり、協会としては様々な基礎固めが一段落した時期である。
    倫理綱領、契約の指針、運営規則作成の指針、フランチャイズ用語集等一応の姿を整え、10周年を前にして当時の通産省が昭和56年10月に「フランチャイズ・システム経営近代化推進協議会」の設立を協会に働きかけ、設立されたものである。

  2. 2. 協議会のメンバーは、当時の協会としてはベストの人選であり、論客を揃えた感じである。また、日本経済新聞社の論説委員にもフランチャイズに関する論客がいたことが判る。既に書いたが、協会の設立した委員会で、フランチャイジーの代表者が入っているのも前例がないし、その後も事例はない。

  3. Ⅰの「フランチャイズ・システムの役割と課題」は、フランチャイズの定義と諸課題を述べたものである。課題としてはかなり切実に「フランチャイズ契約の不明確さ片務性の指摘」「ジーとザーのコミュニケーションの欠如」「ジー希望者に対する不十分な情報提供と紛争解決体制の不備」「商振法による開示義務の遵守」等を述べている。
    これの問題点は約30年前の問題点であるが、昨年協会が発表した「本部と加盟店のよりよい関係のあり方研究会」の最終報告と比較しても、それ程大きな差は無いとも見られる。これの問題点は約30年前の問題点であるが、昨年協会が発表した「本部と加盟店のよりよい関係のあり方研究会」の最終報告と比較しても、それ程大きな差は無いとも見られる。
    さすがに、法定開示書面の不備は正会員については絶無であろうが、世間一般の理解としては、まだまだ不十分であり、3分の1程度の本部の開示書面は、平成14年の改正前の書式に従う事例があり、驚くことがある。また、協会の正会員でない本部が、協会の定めた「フランチャイズ契約の要点と概説」を丸写しして、「経済産業省に提出しているものです」と記している事例は開示書面の大半である。
    要するに丸で理解しないまま、「要点と概説」を丸写しして作成しているのである。その意味で「商振法は理解されていない」と断じても間違いではない。
  4. Ⅱの「フランチャイズ・システムの経営近代化の基本的方向」については、(1)の本部機能の充実については、やや内容は古くなったが、現在でも指摘できる本部は多い。(3)の「ザー・ジー間のコミュニケーションの緊密化」  は、むしろ現在の方が強く要望される内容であり、加盟店会の設置については約4割の本部が設置していると述べている。現在、調査してみたらどうなるであろうか。むしろ比率は低下しているのではないだろうか。
    (4)の「フランチャイズ・チェーン業界に対する適切な指導」のうち、➀の登録制度は、「ザ・フランチャイズ」に姿を変えている。「ザ・フランチャイズ」を読んで見ると、データの更新がされていない事例が多く、到底「加盟を希望する者に対して適切な選択の指標を提供」できているとは考えられない。データを更新しない本部に対しては、適切な要望を行い、期日までに更新しない本部は「ザ・フランチャイズ」から消去することが望ましい。
    ➁の「協会内に委員会を設け、苦情処理の体制を確立する」ことは、昨年の「あり方研究会」の結論と類似している。
    (5)の「中小小売商業振興法の積極的活用」の➂で「サービス業についても振興及び運営の適正化が図られるよう検討する必要もあろう」と指摘しているが、正にその通りであり、開示書面の交付・説明は小売業、外食業のみではなく、サービス業にも広く適用できるような法改正が必要であろう。
まとめれば、30年前の提言であるが、現在でも十分価値のある提言であり、広くフランチャイズ関係者に読んで頂きたいものである。


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