フランチャイズ時評バックナンバー

黒川孝雄の美

サイゼリア創業者・正垣泰彦氏の著作を紹介する


サイゼリア創業者・正垣泰彦氏が、このほど日経BPマーケティング社より「おいしいから売れるのではない 売れているからおいしい料理だ」を発表された。正垣会長は、外食業界きっての理論家として知られており、サイゼリアの店舗数は国内860店舗、中国を中心とした海外に約80店舗を展開し、売上高約995億円の東証1部に上場する優良企業である。
 サイゼリアの創業から、今日に至るまでに体得したさまざまな知恵を思う存分書かれた本である。サイゼリアは言うまでもなく、フランチャイズではない。国内の店舗のみならず、海外店舗もすべて直営店である。中国では、自社の単独出資で子会社を作り、「独資」で中国へ進出した。独資での進出を許可されたのは、外国の外食企業として初めてだそうである。
 フランチャイズを専門とするこのFC時評で、あえて直営展開にのみこだわるサイゼリアを取り上げたのは、凡そ外食を事業とするすべての人に、この本は十分役に立つ本であると考えたからである。
 なお、このFC時評を書くに当たって、サイゼリアの店舗で十回程の食事をした。従って、この紹介文は、単に著作を読んでまとめたものではなく、サイゼリアで食事を体験したことをありのままに書いている。
 なお、紹介に当たっては、本書の内容を筆者の判断でバラバラにして、全部で6章にして組み立てた、最後の7に利用後の感想を述べているものである。



1. 経営理念


経営理念とは、今さら言うまでもなく「何のためにこの店(サイゼリア)をやっているのか」ということである。
 サイゼリアの経営理念は「人のために・正しく・仲良く」というものである。「人のために」とは、お客様に喜んでいただけるかを計るバロメーターを客数と捉えて、客数を増やすことを最優先で考えよう、という意味である。常連客の数を増やすことさえできれば、売上も利益も後から付いてくるものである。
 次の「正しく」とは、「正しく経営していこう」ということで、「会社も従業員もお客様も喜ぶことを、みんなで話し合って、より良くしていこう」という意味である。サイゼリアは、その実現のためにあらゆる作業を「標準化」し、それを改善し続けているのである。
 ちなみに標準化のコツは、従業員の中で一番優秀な人間がやっている"名人芸"を誰でもこなせるようにできないか、と考えることである。
 経営理念の最後の「仲良く」とは文字通り、「従業員はみんなで仲良くやっていこう」ということである。しかし、仲良しクラブを作ろうという話ではない。
 公正で客観的な評価をしなくてはならない、という意味が込められている。人は自分が正しく評価されていると思うから頑張れるのだ。その一環として、どんなスキルを身に付け、どんな仕事をするすると時給がいくらになるかは、従業員にすべて公開しているそうだ。
 経営理念として掲げられるような事柄は、わざわざ理念として掲げるだけあって、やり続けることが難しいのも事実である。だから、経営者が自社の経営理念を従業員に話し続けなければならないし、思い続けなければ、経営者自身もその理念をおろそかにしてしまう。
 ましてや新入社員に一言いって、それで完全に分かってもらえるはずもない。だから仕事を覚えていく中で、サイゼリアの理念を学べるようにしている。一人前の店長になるまでに10年間で、洗い場での作業から管理職としての業務まで200項目にもわたって覚えなければならないことがある。
 その理念を体現した「良き習慣」が身に付くと、店長にはリーダーシップが備わっているはずで、様々な日常業務の改善案を本部や現場に提案し、実現できる人材に育っているはずだ。
 経営理念とは従業員という「同士」を集める旗だ、と正垣氏は思っている。だから、絶対に文章にまとめて、多くの人に示せるようにしなければ、優秀な人材は集まらない。
 また、正垣氏は、大切なことは目標として追う数値は1つに絞ることだとも言っている。同社の経営理念である「人のために・正しく・仲良く」という時の人とはお客様のことで、この理念のもと、「客数増」を追求しているのである。
 たった1つの数値を追う事に、徹底的に集中することで、全員の意識が高まっていく。たった1つの目標に全神経を集中するから、それぞれ、自分が何をなすべきか見えてくるのである。

2.サイゼリアのメニユー


 正垣氏はメニューについては「核商品を作れ」と勧める。その哲学は、「大切なのは売上の確保ではなく、無駄を無くすことだ」と説く。売上が増えれば利益も増えるものではない。利益は「売上げ」―「経費」である。売上げが増えなくても、無駄をなくして、経費を削れば利益は増える。経営者は日頃から,売上げが減っても利益が増える店を目指すべきである。無駄をなくする上で一番効果があるのは、今までやっていたことをやめることである。
 飲食店ならメニュー数を絞ることが一番無駄を減らせる。同時に、自分の店にしか出せないぞ、という強いメニューを作ることである。メニュー数が増えると、勝負したい商品作りに集中できないから、強いメニューを生み出しにくいし、お客様へのアピールも弱くなる。
 つまり商品数を絞るからこそ、お客様にお値打ち感を伝えやすい。まずは、来店客の2~3割が食べてくれる「核商品」を作り、それを磨き続けることだ。サイゼリアであれば299円の「ミラノ風ドリア」などが、それに当たる。
 絞り込んでメニューを提供すると食材ロスが減り、作業効率も良くなる。無駄を省くから利益も出る。そうなってきたら利益の一部はお客様に還元すべきだから、値下げをする。すると、さらにお客様に喜ばれて、来店客数も増える。
無駄をそぎ落とすことで、お値打ち商品になるから、お客様に喜ばれて売上げも最終的に増えるのであって、初めに安売りありきではない。創業当時は、自分の給料を削って、その分だけ、原価を上げる。自分の給料をほとんどもらっていなかった。お蔭で行列が絶えることのない人気店になった。自店でしか出せない料理「核料理」を作るには、そのくらいの覚悟が必要である。
 お客様がその店の料理をおいしいと感じて、また店に来てくれるかどうかは、料理の品質と店の用途が合っているかどうかで決まる。用途に合っている料理を食べたときにお客様は「おいしい」と感じ、合っていないときに「まずい」と感じているのだ。つまり味だけで論じることには何の意味もない。
 例えば、サイゼリアは毎日でも食べられる日常食を提供する店だから、素材本来の味を生かすことが重要で余計な味付けは不要である。そうすることで、毎日のように食べてもおいしいと感じられる。世の中が豊かになればなるほど、消費者は用途で店を選ぶ。それは飲食店でも同じで、今後も用途は多様化し、細分化していくだろう。
 何かの改善に取り組んだとき、それが成功するのは正しい行動を取ったからである。正垣氏は、それを物事の「原理原則」に沿って行動した結果だと考えている。人間は何かを考えるとき、先例や成功体験を前提に自分にとって都合の良い、あるいは得をするような結論(経営判断)を出してしまいがちである。例えば、店の料理を出数順に並べて、一番人気のある料理は「おいしいから売れている」と考えがちである。この売れている料理は競争力があるのだから、もっと売るために販促をやろう、という経営判断を下すかもしれない。しかし、この販促は失敗するだろう。料理の質を不断に高める努力こそ優先すべき行動であることは言うまでもない。
 このケースの問題点は、自分の店の料理はおいしいという自分にとって都合の良い結論を無意識のうちに導き出してしまっていることだ。だから近所の繁盛店の動向を確認することに考えが至らない。自分本位に物事を考えてはならない。「物事をありのままに見る」ことで、正垣氏のいうところの「原理原則」を知り、正しい経営判断ができる可能性を高めることはできる。
 そのためには、店で起きるあらゆる現象を観察し、可能な限り、数値や客観的なデータに置き換えて、因果関係を考えるようにしている。
 その一環として、正垣氏は創業期から、お客様が喜んでくれているかどうかを「客数」という数値に置き換えて考えてきた。店が気に入れば再来店してくれるはずだからで、客観的に検証できる。何らかの試みで客数が増えれば、それはお客様が喜んでくれている正しい行動だと考えて継続する。一方、客数が下がれば、間違った行動だったと認め、それをやめれば良いわけだ。
 何らかの事象を観察するときは「なぜ、そうしたことが起きているのか?」と考えるだけでなく、「なぜ自分はそう思うのか?」と何回も自問すること。そうすることで、「売れないのは立地が悪い」→「自分は売上げ不振を立地のせいにしていないか?」→「悪立地でも繁盛している同規模の店を調べてみよう」という行動につながり、正しい経営判断を導けるようになる。
 こういう考え方を習慣にすると、見えなかったことが見えてくる。例えば商品開発は、次のように考える。まず、あなたの店の料理名を縦に順に書き出し、それぞれの食材を料理名の横に書き出してみよう。サイゼリアの「ミラノ風ドリア」なら米、牛乳、バター・・・となる。すべてのメニューを書きだしてみると、ほとんどのお客様が食べている食材が分かるはずだ。ほとんどの人はメニューそれぞれをもっと売るにはどうするか、という視点か考える。しかし、どんな食材をお客様が口に入れているのか、というデータに変換してみると、店の料理をもっと売るには、最もお客様に食べられている食材から順番に品質を良くしていく方が効果的かも知れない、という仮説に気付く。
 流行を追って、ちまたのヒットメニューを取り入れることを考えるより、何かに絞って地道に特定の料理を磨く方がよほど、長い目でみると、どこにも負けない自店のヒットメニューを作ることにつながる。だから、店を長く続けたいと思う個人経営の店にとっても、流行に振り回されないことは重要である。サイゼリアも含め、一つの業態を長く続けたいと思う店がヒットメニューを作るには、次の二つの事柄を極めることが必要である。
➀「お値打ちで料理に合ったおいしい素材の開発」と、➁「より料理をおいしくする加工方法の開発」である。当たり前に聞こえるかもしれないが、どこよりもお値打ちでおいしい料理を提供できるなら、その店の料理は必ず売れて、ヒットメニューになる。
➀の素材開発については、サイゼリアで言えば、自社の料理に合ったトマトやレタスなどの野菜を開発しているし、最近ではドリアのホワイトソースに合うオリジナルの牛乳を、乳牛への飼料を調整するといった工夫で開発した。
 そこまでは一般的な飲食店にはできないが、かって著者自身もやっていたように、毎日のように朝4時から食材を仕入れに出掛け、自店の料理に最適な良質の食材を選んで買ってくるといったことはできるはずである。創業期、正垣氏は仕入れた食材を自ら店舗に配送していたが、10店舗以上を回っていると、せっかくの食材の質が徐々に劣化していくことに気付くのである。この経験が、農場での出荷直後から、運送トラック内、カミサリー、店内の厨房まで野菜の温度を4℃で保ち、鮮度を管理するという仕組み作りのきっかけになっている。
➁の加工方法については、サイゼリアではフライパンで焼く、オーブンで焼くというグリル料理に特化している。
 正垣氏は、安売りが流行っている時に、値下げで割安感を演出するのは危険だと警告している。お値打ちな料理とは価格が安いのではなく、その品質が「この値段なら、この程度の価値が必要だ」という水準を上回っている状態のことである。だから値下げをしても価値を伴わない料理は売れないはずで、自分の首を絞めるだけである。
 正垣氏は「おいしい料理」とは「売れる料理」だと思っている。正にこの本の題名をいみじくも語っている。

3.料理に合った素材の開発と仕入

 

サイゼリアは関連会社の白河高原農場(福島県白河市)と契約農家約230戸で形成するサイゼリア農場は88年に、西白河郡東村(現・白河市)の農地に目をつけたことから始まった。当時はまだ18店舗しかなかったにも関わらず「いずれ1000店舗を達成する。一緒にやろう」と地元農家に声をかけて始まった。この白河高原農場は「農業ルネサンス」と言って、農業を高収益の産業にするための試行錯誤を続けてきた。多店舗化に成功した後、「種から野菜を開発する」ために自社専用の農場を作ったり、原材料を安価に調達できるオーストラリアに工場を建てたりした。
 育苗工場まで持っていて、レタスやトマトの新しい品種も開発し、野菜や米だけでなく牛まで飼って壮大な実験農場を運営していた。
 しかし、東京電力福島原子力発電所の事故のために、福島県内の葉物野菜から基準値を超える放射性物質が検出されたとの報道を受けて、サイゼリア農場からはすべての野菜の出荷を見合わせた。
 現在、宮城県に新しい農場を、若手生産者グループを支援して作っている。
 世界で一番売上高のある野菜はトマトで、穀物は小麦だと分かった。日本ではそれほど普及していなかったが、オリーブオイルも、相当な量が世界中で作られていることを知った。
 トマト、小麦粉で作るものと言えばパスタ。「何だ。世界で一番食べられている料理はイタリア料理か」とひらめいた正垣氏は、それを検証するためヨーロッパに視察旅行に出かけた。そして、料理やワインの組み合わせの豊富さを目のあたりにし、日常食として豊かであることを確かめ、イタリア料理に特化することを決めた。
 食材の仕入については、同じ取引先と長く付き合って、相手が提示した価格で取引をしてきたが、不都合を感じたことはない。そもそも長期的に考えると、買い叩くことで、こちらだけが得をするというのは不可能ではないかと思う。多少、交渉して数円安く仕入れても削れるコストは知れている。そんなことで頭を使うより、最大のコストである人件費を削ることを考えるほうがよほど生産的である。
 実際、サイゼリアが世界中の食材原産地から同じ品質の中で最も安いものを仕入れる「ソーシング活動」で、食材コストを削れるようになったのは500店舗を超えたころからである。仕入れで最も大切なのは、とにかく安く買うことではない。
 一番大切なことは、仕入れ業者との間で、納品してもらう食材の品質について下限を決めることである。つまり、事前に決めた一定の水準を下回る食材は納入させない。もしも、基準以下の食材を納入したら、返品し代わりの食材を納品してもらうことである。
 正垣氏の持論では、料理の良し悪しは80%が食材で決まる。料理人の技能など、その他の要因は残りの20%に過ぎない。だから、食材の品質の最低ラインを死守することはとても大切である。
 そしてもう1つ、必ずやらなければならない重要なことが、仕入れた食材の品質が、約束の条件を満たしているかどうか、仕入の都度、検品することである。「検品」には、品数が発注通りか調べる「検数」と、品質が発注内容通りかを調べる「検質」という2つの役割がある。「検数」はチェックしても「検質」まで気が回っていないという店は多い。しかし、それは重大な誤りで、検質こそ、経営者が必ず自分でやらなければならないと言っても過言ではない重要な仕事である。
 サイゼリアが今、社会の変化に合わせて、実験を続けているのが「ヘルスフード」だ。ヘルスフードとは文字通り、体に良い・健康的な料理のことだ。有機野菜を使っていることや栽培農家を宣伝するような"ヘルシー志向"とは全く違う。サイゼリアの目指すヘルスフードとは、数値で示せる健康な食事だ。具体的には「カロリー」「塩分」「糖分」「脂肪」の4つを引き下げながら、お客様に満足をしていただける料理を作ることである。
 若年者が減少し、高齢者が増加する時代を迎えたときに、サイゼリアが、お客様に喜んでもらうには、ヘルスフードという視点から、料理の改良を進めることが欠かせない。それは多くの飲食店にも当てはまると思う。
 だから力を入れるべきは野菜だ。サラダならドレッシングを除けば、カロリーをほぼセロに近づけられる。直営農場を持ち、料理に合う野菜を種子の開発から手掛けるサイゼリアには一日の長がある。ハンバーグもなるべく赤身を使ってカロリーを減らす。唐辛子やハーブを使った味付けを進めることで、塩分を減らすことができる。


4.チェーンストアー理論を学んだ渥美俊一先生とペガサスクラブ


昭和30年代に読売新聞社の記者であった渥美俊一氏は、日本で初めて"チェーンストアー理論"を講じ、ペガサスクラブを主催し、ダイエーやイトーヨーカ堂など名だたる大手小売り、外食の経営者たちが、渥美氏の教えを受けた。
 渥美先生は「みんなの暮らしを豊かにしたい」という純粋で壮大なロマンを持っていた。コンサルタントというより、同士を募って世の中を変えていく宗教家や哲学者のような方だった。ペガサスクラブに参加する経営者たちもまた「お客様のため」「社会のため」というロマンを持って仕事に取り組む人ばかりであった。それでも経営者は、目先の出来事に右応左応してしまいがちだ。そんなとき、渥美先生の講義を聴くことで、初心に戻ることができた。
 ある意味、ビジネスは心を磨く修業の場のようなものだ。正垣氏自身も含め経営者は「もっと楽に商売をしたい」という誘惑と常に闘っている。そんな経営者たちの揺れ動く心を初心に立ち返らせる役割を果たしていたのが渥美俊一先生であった。
(黒川注  渥美氏は、流通の分野で大きな影響力を持ち、チェーンストア理論を流通業界に浸透させた。これは流通分野に止まらず、外食業でも大きな影響を受けた経営者は多い。中でも、大きな影響を受け、かつ事業も順調に拡大しているケースとして挙げられるのは、サイゼリアの正垣会長とニトリHDの似鳥社長である。正垣氏の述べられる理論はいずれも渥美氏の影響が大きい)


5.正垣会長の教える飲食業の経営指標


生産性を高めることは、製造業であろうが、外食であろうが、一番大切なことである。
 適正な利益を確保するという意味で、正垣氏が創業時から重視する経営指標が「人時生産性」である。「人時生産性」とは、1日に生じた店舗の粗利益を、その日に働いた従業員全員の労働時間で割ったものである。

人時生産性=1日の粗利益÷従業員の1日の総労働時間

(式1) 飲食店なら、人時生産性は1時間当たり2000~3000円というのが標準的な数字である。サイゼリアの場合、人時生産性は1時間当たり6000円を目標としている。飲食店の賃金は安いとよく言われるが、その中でサイゼリアが、他産業並みの待遇を実現するために必要な生産性の水準と考えているためだ。既に店舗の人時生産性は、低い店で4000円、高い店で6000円に達している。
 生産性を高めるために工場を活用しているのは当然であるが、サイゼリアで行っていることの1つが、生産性の高い店と生産性の低い店を比較することだ。
生産性の高い店で行っている良い部分をまねて、生産性の低い店の無駄な点を減らす。効率が悪かったとしても、問題は「人」にあるのではない。「作業」にある。正垣氏は、仕事とは「作業」の集まり。その作業の中で、時間のかかるものを短くできないか、無くせないかと考えることが、一番の効率化である。
 財務戦略や設備投資についても明確なルールを決めておくことが大切である。
 新規出店や改装など何らかの設備投資を行うときの判断基準として大切なのはROI(投下資本利益率)である。
投下資本利益率=利益÷投下資本×100      (式 2)
利益は店段階の営業利益、投下資本は出店に要した総投資額に置き換える。 この「投下資本」の部分は、投資で取得した「資産」でもあるので、ROA(総資産利益率)という指標で考えてもかまわない。
総資産利益率=利益÷総資産×100        (式 3)
 正垣氏が新規出店の判断をするときは,ROIの予測が30%に達するかどうかを基準にしている。出店後は、少なくとも20%は絶対に確保しなければならないと思っている。何故、正垣氏が20%にこだわるかと言えば、世界の主要国の銀行預金金利で一番高い金利は歴史的に見て、およそ7%前後(経済危機時を除く)。もろもろの手間やリスクを考えると、その3倍を稼げないくらいなら、高金利国の銀行に預金をした方がましだからだ。
ROIに当たる(営業利益率÷投下資本×100)を20%以上の数値にするためには、売上高は投下資本の2倍以上、営業利益率は10%以上を目指さなければならない。

●正垣会長が投資の意志決定で重視する会計ルール
  営業利益÷総資本(投下資本)=0.2以上 (式  4)
 売上高÷投下資本=2以上         (式  5)
  営業利益÷売上高×100=10%以上   (式  6)

個人経営の店が繁盛店であり続けるためには、原価率は40%以上であるべきだと思う。                 (式  7)
 確かに、サイゼリアの原価率は34.2%(09年8月期)に抑えられている。これは、野菜の種や肥料まで自社開発しコストを抑える、世界中の生産地からコンテナ単位で買い付けるなどの工夫の結果である。もしも、同じ品質の食材を普通に仕入れていれば、原価率は40%を大きく上回っているはずだ。食材の質を下げて利益を出そうと思ったことは一度もない。 なぜなら料理の味の良し悪しの80%は食材の質で決まるからだ。料理人の技能は15%、残りの5%が店内での食材の保管状態というところである。
 だから、サイゼリアでは食材保管時の➀「温度」と➁「湿度」、収穫からの➂「経過時間」、運搬時の食材への➃「振動」の4つにこだわる。
 料理人の技能が料理の良しあしに与える影響は15%に過ぎないと言ったが、料理人には別の重要な役割がある。それが「売上高」から「原価」を引いた「粗利益」を一定にすることだ。
粗利益を一定に保つために何よりも大切なのは、意外に聞こえるかもしれないが、料理の味を一定に保つことだ。仕入れられる食材の質は毎日微妙に異なる。
また店には、暇な時間もあれば多忙を極める時間帯もある。そんな中で毎日、どんなときでも同じ味にするのは簡単なことではない。
店の粗利益率は、60%を超えない水準に保つことが望ましい。
獲得した粗利益のうち、40%を「人件費」(教育研修費も含む)に振り分ける。家賃などの「不動産関連費用」(設備投資の減価償却費などを含む)と水道光熱費など「その他の経費」にはそれぞれ20%ずつを使う。そうすれば粗利益の20%が営業利益として残る。
20%が営業利益として残る。 ●長く愛される店を作るための経費配分ルール   (式  8)
 粗利益率は60%以下に

40%人件費 20%不動産関連費 20%その他経費 20%営業利益

この費用配分こそ、飲食店が環境の変化に左右されずに、繁盛店で有り続けるための理想形だと思っている。
食材に十分なコストを掛けることで、粗利益を過剰に取らず、お客様に還元するからこそ、店は長く続けられるのである。

6. 店長、社員の教育、経験

 不況下で、大切なのは売上げの確保ではなく、無駄を無くすことである。ある意味、既存店の売上げが落ちるのは当たり前と考えた方がいい。だからサイゼリアでは、店長に売り上げ目標を課していない。店長の仕事は人件費、水道光熱費など経費をコントロールすることだ。店の売上げは「立地」「商品」「店舗面積」で決まる。売り上げが悪くなれば、商品開発をする本社の責任である。
 チェーンストアーでは、店の売り上げは「商品」「立地」「店舗面積」で決まる。店長の努力が及ぶところではない。
 サイゼリアの店長の最重要の仕事は、過去の売り上げ推移から予測される来店客数と店舗スタッフの能力から算出される1週間単位のスタッフの総労働時間(=1週間分の人件費)内で、月曜日から日曜日までの人員配置を決め、それを守ることだ。これを「稼働計画」と呼んでいる。
大切なのは、週単位の人件費を決めてしまい、それ以下の金額に抑えようと知恵を絞ることにある。その「稼働計画」を達成するために必要な考え方やスキルは、従業員への計画的な教育で伝えている。
 具体的には,店内での仕事を接客や調理のように「来店客数に応じて増減する仕事」、掃除のように「来店客と関係なく毎日する仕事」、さらに「週に1回で済む仕事」や「月に1回で済む仕事」などに分けて考えるのが基本だ。予想に反して、お客が少ないときに、倉庫の整理など「週に1回で済む仕事」などを前倒しで済ませることで、人件費の節約ができるからだ。これで固定費(人件費)を変動費に変えられる。
 よく成功体験から学ぼうとする人がいるが、成功とはほとんどの場合"まぐれ"みたいなものだ。そこから何かを学ぶのは不可能に近い。失敗を繰り返し、その経験から学んでこそ、成功に近づける。ここで大切なのは、失敗したのは自分の物の見方が間違っていたからだという自覚である。
みんなが、より楽に仕事ができるようにする方法を考える。これがサイゼリアの店長の仕事である。無駄なことをやめれば、体は楽になり、効率良く働ける。だから、効率化とはいかに楽をするかを考えることだ。
 チェーンのように、店数を増やし、会社の規模を大きくしたいなら、社員を教育して人材を育成する仕組みが大切だ。教育とは社員に「知識」を与え、「経験」を積ませることだ。身に付けてもらうのは「技術」である。この「技術」は「技能」とは明確に異なる。技術は決まった手順を覚えれば、誰もが同じ結果を出せる。社員の仕事上の能力を左右するのは、知識が2割、経験が7割、経営哲学の理解が1割といったとこだと思う。つまり能力を一番左右するのは、経験を積ませたかどうかである。
 教育とは「知識」と「経験」を与え、「技術」を身に付けさせることだ。頑張っている人を見たら、褒めてあげるのもよいが、もっと大切なのは従業員を公平に「評価」することである。
 仕事が楽しいと感じるには、きちんと評価されていなければならない。人は評価されることが喜びにつながる。そして「評価」とはイコール「報酬」である。評価が上がるなら、それに応じて報酬も増えなければならない。「仕事」と「評価」、「教育」、「報酬」の4つが連動しているからこそ、次は何を頑張れば正しい評価がされるかが分かるのだ。こうした仕組みがなければ、従業員たちはやる気を失っていくのではないだろうか。

7.サイゼリアを利用して感じたこと

従来サイゼリアを利用したことは殆どなかった。郊外店が多いこと、極端に合理化を進め、品質に不安を感じたこと(一時食事に白い粉が混じったと報じられたことがあった)等が原因であった。
 今回、正垣会長の著書を読んで、「理論は立派だ。しかし利用して見なければ判らない」と考え、高幡不動店(SC内の2階)に1ケ月に10回程度頻繁に通って、主として夕食(1回は昼食)であったが、深く感ずるところがあった。

(1)食材の原産地について

サイゼリアはHP上で、すべてのメニューの原材料の産地を公開している。(中には国産と報じているものもある)日本の飲食業で、原材料の産地を公開している企業は、モスフードサービス程度しか知らない。特に野菜の産地は季節と共に変動するものであり、900店近いチェーン店が、野菜産地を公開することは、かなり困難であると思う。しかし、サイゼリアでは、野菜の産地を公開している。文中にあった通り、福島県白河農場の葉物野菜に放射能汚染の恐れがあったため、現時点においてレタスは静岡、熊本、他、トマト(サラダ用)は熊本、福岡、栃木、他とされている。豪州工場加工用のトマトはオーストラリア、国内工場加工用はイタリア、きのこは埼玉、長野、岡山、他である。キャベツは国産とあるのみで、産地表示はない。9月は2回も台風と大雨の被害にあい、キャベツの産地は転々と変わって、HP上に産地を公開する余裕が無かったと思われる。米は国産のみの表示で、店舗によって異なる産地を用いていると思われる。
 牛肉はオーストラリア、チキン(手羽中)はタイ、チキン(もも)はブラジル、焼肉(豚肉)はアメリカ、卵は国産であった。
スパゲッテイはイタリア、ピザ生地は国産・イタリアの併記であった。
 とにかく、すべての使用食材の原産地を公開している態度には敬服した。

(2)美味しかった料理

正垣氏は、「お客様がその店の料理をおいしと感じて、また店に来てくれるかどうかは、料理の品質と店の用途が合っているかどうかで決まる。用途に合っている料理を食べたときにお客様は"おいしい"と感じ、合っていないときに"まずい"と感じているのだ」と述べている。
 著作を評価するために、お店に行くことは「用途に合っていない」ことで、ここで美味しい、美味しくないと評価するのは間違いかも知れない。従って以下の文章は、筆者の主観であり、客観的な評価ではない。
➀サラダ
 全品美味しい。特に野菜(レタス)の新鮮さと、温度管理は素晴らしい。ホテルのレストランよりも上である。これが299円から459円で選べるのだ。これに勝るお値打ちのサラダは、日本には無いと思う。
➁スープ
冷たいパンプキンスープ、ミネストローネ、コーンクリームスープの3種は、いずれも180円で、文句なく美味しい。これは毎回、注文してみたが、毎回感心した。
➂アペタイザー
 食べたのは辛味チキン(299円)、真イカのブリカソース(189円)、プロシュート(399円)の3品である。プロシュートは美味しい。その他は安いけれども、それだけの商品であった。 ➂ドリア
 売れ筋であるだけにミラノ風ドリア(299円)、半熟卵のミラノ風ドリア(368円)、エビと小柱のドリア(499円)はいずれも美味しい。特にミラノ風ドリアは群を抜いている。
➃ピザ
 ピザはいずれもピザ生地とチーズの量がアンバランスで、筆者の好みは、チーズ一杯である。399円の価格は各段に安い。しかし、食べたいとは思わない。
➄米料理
 いずれも食べていない。
➅パスタ
 ペペロンチーノ(299円)、タラコソースシシリー風(399円)は美味しかった。価格もべらぼうに安い。但し、ほうれん草のクリームスパゲッテイ(499円)は好きではない。要するに、クリーム系は好きではない。
➆ハンバーガー&ステーキ
 ディアボラ風ハンバーグステーキ(499円)、ハンバーグステーキ(399円)、若鶏のグリル(499円)は、いずれも群を抜く美味しさであった。確かに塩分も控えめで、ヘルシーフードであった。
 しかし、リブステーキ(929円)は硬くて、何のためにメニューに採用されているのか理解に苦しんだ。とにかく、硬いだけで、美味しいと思う部分が何一つなかった。
➇デザート
 1品も食べていないので、評価はできない。

(3)気になったこと  

ベンチシートが1ケ所破れている。1ケ月経っても修理されていない。店長権限で修理できるようにすべきであろう。
 ポテトの原料が2回切れていた。アメリカ、ベルギー産なので、震災とは関係ないはずである。単なる発注ミスと思われる。キッヅメニューとしては欠かせないアイテムであるだけに、気に掛けてもらいたい。




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