ご即位特別記念 正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美(1)

この度、天皇陛下のご即位に祝意を込めて、ご即位記念展覧会「正倉院の世界ー皇室が、まもり伝えた美」が開催された。本展覧会は、天皇の勅封によって厳重に守られてきた正倉院宝物を中心に、東京国立博物館が所蔵する法隆寺献納宝物なども合わせて展示し、古代日本の国際色豊かな文化を紹介することが目的である。正倉院宝物は、光明皇后が聖武天皇の御遺愛品をはじめとする品々を東大寺の廬舎那仏に捧げられたことに由来する。その内容は、まさに「シルクロードの終着点」とも言われるほど当時のアジア大陸の面影を留めており、世界でも比類のない文化財である。正倉院宝物の一般開放は、昭和24年な奈良国立博物館に始まり、これまで71回を迎えた。井上靖の小説「漆胡樽」(しっこそん)に、第1回の正倉院宝物展の様子が詳しく述べられているが、あれから71回目を迎えることになったのかという思いが強い。私自身も、京都に住んでいた頃には、しばしば「正倉院宝物展」を見学したものである。法隆寺献納宝物は、明治時代に法隆寺から皇室に献納され、その内容は飛鳥・奈良時代の美術を代表するものとして、正倉院宝物と双璧をなす。正倉院宝物は、大部分が東京国立博物館に常時展示されているが、(小仏像及びその群像類)今回展示されるものは、「秘宝」として博物館に奥深く内蔵された宝物である。この展覧会は前期、後期に分けて展示されるため、この原稿も2,3回に分割して執筆することとなる予定である。

正倉院宝物 国家珍宝帳(東大寺献物帳)紙本墨書 一巻 奈良時代

天平勝寶八歳六月二十一日、聖武天皇の四十九日にあたり、光明皇后は天皇遺愛品を中心とする六百数十点を東大寺の廬舎那仏に捧げた。本品はその際の献物帳である。目録は名称や数量のほか、寸法、材質、技法、ときに由来に及んでいる。末尾に当時権勢を誇った藤原仲麻呂以下の署名がある。

国宝  法隆寺献納物帳  一巻 奈良時代  天平勝宝8歳(756)東京国立博物館

天平勝寶8年5月2日に崩御した聖武天皇の供養のため、その遺品を、皇女・孝謙天皇が7月8日に法隆寺へ献納したことを記す。聖武天皇が生前大切にし、身近に置いたもので金光明寺(東大寺)をはじめとする十八寺に分けて納めると述べる。「東大寺宝物帳」と同じく庶務天皇の遺愛品を、后・光明皇后が、法隆寺に献納したことを示す。

正倉院宝物 平螺鈿背円鏡 中国・唐時代 8世紀  正倉院

「国家珍宝帳」に記載のある円形の平螺背円鏡。背後に夜光貝や琥珀の薄板を張り付け文様を表す。文様は宝相華文様を表す。琥珀の下には、緑や赤の彩色を伏せ、文様に変化を与える。鏡胎は青銅鋳造製である。

国宝  海磯鏡 青銅製鋳造 中国・唐または奈良時代 東京国立博物館

青銅製の大型鏡であり、鏡全体に山水文様を表す。天平8年2月22日に光明皇后が法隆寺に六面の白銅鏡を献納したことが記されている。法隆寺献納宝物帳には、この海磯鏡が二面とも伝わっている。

正倉院宝物 銀平脱合子 中国・唐または奈良時代 8世紀 正倉院

碁石を収めた円形の容器。「国家珍宝帳」に記載された聖武天皇遺愛の品である。紅芽、紺芽、黒、白の四種類の碁石とともに、同形の容器四合が伝わる。

正倉院宝物 鳥毛帖成分書屏風 六扇のうち二扇 奈良時代(8世紀)正倉院

      

「国家珍宝帳」に記載された六扇一畳の屏風。緑青地あるいは園地に鳥毛を用いて意匠化された楷書を表す。各扇ともに二行八字で君主の座右の銘を表しており、天皇の身辺に置かれた屏障具としてふさわしい。文字は日本産の雉の羽毛を貼り重ねている。

正倉院宝物  墨画仏像  麻製 墨絵 奈良時代(8世紀) 正倉院

「麻布菩薩」と呼ばれる、文字通り麻布に乗雲の菩薩を墨で描いたもの。菩薩は大きな宝髮を結い、左肩から斜めに丈伯をかけ、下半身には裙を着け、一群の霊芝雲に座する。天衣は風にたなびき大きく弧を描き、天空から下降してくる姿を描いている。中国盛唐の仏像やその影響を受けたものに作例がみられる。

正倉院宝物 花氈(かせん) 中国・唐時代・8世紀  正倉院

花氈とはフェルト製の敷物で、文様のあるものを差す。本品は、唐代に流行した打球(ポロ)に興じる唐子を中央に置き、二種の花卉紋の列を交互に並べ、四周は淡青色の帯で縁取る。唐子の細やかな表情までもが、描線ではなく羊毛材を用いて巧みに表現されている。

正倉院宝物 黄熟香(おうじゅくこう) 沈香材 東南アジア 正倉院

香木の沈香(じんこう)で、東南アジアに産し、舶載されたものである。樹脂や精油が沈着している。外面は黒褐色色を呈し、内部は殆ど空洞であるにも関わらず、11.6キログラムもの重さがある。有名な「蘭者待」(らんじゃたい)で、室町時代に名付けられた雅名である。足利義正や織田信長などが切り取った記録記録として残る。また明治天皇が截香(せつこう)した小片を火中に投じた際、「勲咽芳芬として行宮に満つ」と記すほど芳香を放ったという。

香木の沈水香(じんすいこう)東南アジア  東京国立博物館

インドから東南アジアにかけての熱帯や亜熱帯地域に生える樹木には、芳香を放つ樹脂を出すものがあり、これを香木という。日本では香木は産しないので、舶来品が用いられた。仏教の礼拝において香を焚くことが欠かせないので、香木は仏教伝来とともに伝わったものであろう。古くから寺院に香木が収蔵されており、法隆寺においても沈水香や白檀香などが伝えられた。

 

前期に陳列された正倉院宝物、法隆寺宝物から有名な宝物を選んで記事にしてみた。選択は私の意志で選んだ。8世紀から16世紀頃までの名品を選んだ。奈良国立博物館で開催される「正倉院展」は今年で71回目を迎えたが、未だ陳列されなかった寺宝も、今回は展覧されている。素晴らしい展覧会でああった。後1~2回に分けて報告する。

 

(本稿は、図録「ご即位特別記念展 正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美 2019年」、図録「平成5年 正倉院展図録  1993年」、図録「平成6年  正倉院展図録  1994年」を参照した)