ご即位記念特別展 正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美(2)

毎年奈良で行われる「正倉院展」は、通常70点程度の展示であり、中には素晴らしい宝物が含まれるが必ずしも一級品ばかりではない、中には「会計文書」「作物帳」「如来興顕経」など、仏教専門家でないと、満足に理解できない文書も多数出品されることがある。一般見学者には円鏡とか碁盤とか、いかにも宝物らしいものが見たい。奈良の正倉院展は、内容もさることながら、狭い館内(新館も含めて)に、大勢の観客が集まり、行列を作り、満員の会場の中で、なかなか希望の宝物に近づけないことが多かった。それに比べると、東京国立博物館の平成館は広く、そんなに混雑しえいる訳ではない。むしろ、ゆっくりと宝物を拝観することが出来、生涯で、正倉院宝物をこれだけ多数、一気に拝観することは、多分生涯で2度と無いだろうと思う。選ばれた宝物も一流品揃いで、いかにもご即位展に相応しい美術展であった。図録も色彩美しく印刷され、申し分ない展覧会であった。さて、今回は、前回に触れることの出来なかった分野(具体的には「正倉院の琵琶」「工芸品の共演」「宝物をまもる」の各章で、かつ前期出展物を紹介したい。

正倉院宝物 白石火舎 大理石製 脚及び鐶は銅製鍍金 中国唐 または奈良時代(8世紀)正倉院

仏前に据えて香を焚くために用いられたと考えられる火炉。大理石製の炉を五本の脚が支える。炉は浅いたらい形で、口縁は外反りに作り、側面に三条の突帯を巡らす。使用される大理石は大陸でよく産する質のものに似る。炉の中には当時の灰が塊となって残っている。宝庫には同形大の白石火舎がもう一口伝わっており、一対で用いたものと考えられる。

正倉院宝物 銀薫炉 銀製鍛造 中国・唐または奈良時代(8世紀) 正倉院

全面に透かし彫りを施した球形の香炉。「国家珍宝帳」に続く「屏風花氈等帳」に記載され品である。中国で隋唐時代の類品が出土しているが、5センチほどの小型で佩飾具と考えられるのに対し、本品は系が18センチほどもあり、室内に置いて衣などを被せて香を炊き込んだと考えられる。

正倉院宝物 螺鈿紫檀五弦琵琶 木製・玳瑁・螺鈿 中国・唐時代8世紀 正倉院

「国家珍宝帳」所載の楽器で、正倉院宝物を代表する優品として知られている。五弦の琵琶が4弦の琵琶と異なるのは、弦が五本であることや、頸(くび)が真っ直ぐで、槽の部分が厚いことなどである。インド起源で、中国の文献や壁画などに見えるが、現在品は世界に唯一のものである。

正倉院宝物 紅芽撥鏤 象牙製撥鏤  中国または奈良時代(8世紀) 正倉院

琵琶の弾奏に用いる象牙製の撥。撥鏤技法により赤地に花弁や含綬鳥、鴛鴦、山岳などの意匠とともに、麒麟、馬頭怪鳥といった空想上動物が表現される。成形した象牙を赤色に染め、文様のところどころに黄色や、緑色の点彩を施す。赤色に染める前に彫った細いアタリ線が文様の各所に確認できる。科学分析により赤色にラックが用いられていることが分かっている。

正倉院宝物 伎楽面 酔胡王(すいこおう) 桐製、彩色、貼毛 奈良時代(8世紀) 正倉院

伎楽で着用する仮面で、酔胡王と呼ばれる役柄のものである。伎楽とは中国の仮面劇に由来し、「日本書記」によれば、推古20年(612)に、百済人味摩之が日本伝えたとされる。奈良時代には寺院の法会の際に盛んに演じられた。酔虎王とは、酔った胡人の王、つまり西域の王を指し、劇中では従者と共に登場し、酒宴を繰り広げたとされる。

重分 伎楽面 酔胡王 桐製、彩色、貼毛 飛鳥・奈良時代(7~8世紀) 東京国立博物館

酔胡王とは酔っ払った胡人の王のことで、胡人は西方、ペルシャ系の異民族(ソグト人)で高い鼻が特徴である。王はやはり酒に酔った従者八人を従えて登場するため、酔虎王という面が多く残っている。制作は飛鳥時代末期から奈良時代初期と考えられる。

重分 浄瓶  青銅製鋳造  飛鳥・奈良時代(7~8世紀) 東京国立博物館

楕円形の胴に長い首を着け、頸部に細長く尖った口を設けて、胴部の肩に蓋のある口を設けた水瓶である。本器のような形式の水瓶を、浄瓶あるいは選盞形水瓶などと称している。インドや東南アジアあたりの僧侶が修行生活の中で用いていた水瓶に由来している。

正倉院宝物 黄銅柄香炉 真鍮製鍛造 把手に錦・組紐・ 中国・唐または奈良時代(8世紀)正倉院

長い柄の付いた香炉。僧侶が柄を手に持ち、火炉で香を焚き、仏前を清めるために用いた。炉は浅い朝顔形で、菊花型の台座の下から鋲で接合している。柄の一端に獅子形鎮子が付く形式は、中国と日本で8世紀に流行した。柄の一端に獅子形鎮子が付く形式は、中国と日本で8世紀に流行した。

正倉院宝物 黄銅合子 真鍮製鍛造 ガラス象嵌 一合 中国・唐または奈良時代(8世紀) 正倉院

仏前で香合として使用されたと考えられる金属製容器。塔型の紐と球形の胴部を持った形式から塔鞠とも呼ばれる。胴部の中央で蓋と亜鉛の合金である黄銅すなわち真鍮製で、胴部、紐、台脚を別々に鋳造し、轆轤挽きで仕上げ、組み立てる。本品は、刻まれた精緻な文様や、顔料の充填、ガラス球など、装飾性が豊かであり、現在確認されている塔椀のなかでもひときわ美麗である。

国宝 赤銅柄香炉 銅製鋳造 把手に錦・組紐 中国・唐または奈良時代(8世紀) 正倉院

僧侶が手に持って仏前で香を焚き、供養を行う時に用いる仏具。黄銅柄香炉とほぼ同様の形状と作りだが、本品に方がやや大振りである。朝顔形をした炉は轆轤加工と手加工で精巧に仕上げられており、炉に接合された座は菊花形で、花弁を模した線刻が刻まれる。炉や柄の色味から赤銅と名付けられているが、実際には純胴に近い成分であり、表面を亜酸化銅が覆うことによって赤色を呈していると考えられる。

正倉院宝物 甘竹笙 竹・木製 奈良時代(8世紀)    正倉院

「国家珍宝帳」に「甘竹簫一口」とある聖武天皇遺愛の品の一つ。十八本の竹簡を並列に並べた吹奏楽器で、上段の吹き口を前後から斜めに切って山形とし、下端は節で終わる。竹簡内には節を穿って貫通しており、管の中に調律用の丸めた紙が詰められている。紙には墨書があることから、反故紙が用いられていると推定される。

正倉院宝物 東大寺屏風裂 七片のうち 緑地霰菱文錦 奈良時代(8世紀) 正倉院

天保4~7年(1833~36)に、正倉院宝庫の点検、修理が行われた。その際に、正倉院伝来の古裂を貼り交ぜた六曲一双の屏風を制作した。これが後世に、東大寺屏風と呼ばれたものである。今回七片が展示されたが、その一部を記載した。

 

流石に、ご即位記念であるだけに、宝物類が充実している。その(2)章では、前期展示のうち、特に目立ったものをピックアップした。(3)章では、後期展示されるものの中から選んで、お目に掛ける。後期は11月6日から24日までであるので、その間に連載したい。

 

(本稿は、図録「御即位記念特別展 正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美  2019年」、図録「平成5年  正倉院展   1993年」図録「平成6年  正倉院展   1934年」を参照した)